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サービスエリア

長距離運転手である哲也にとって、深夜のサービスエリアは単なる通過点であり、安全地帯だった。

しかし、今夜立ち寄った東名高速道路のとあるSAは、いつものそれとは違っていた。


時刻は午前二時過ぎ。

休憩のためにトラックを駐車場に滑り込ませた。

疲労からか、身体の芯が鈍く軋んでいる。

椅子に座ったままの体勢で、腰をひねって「うぐぐ」と唸る。


SAの建物はひっそりと静まり返り、利用客はほとんど見当たらない。

建物は夜間営業用の最低限の照明しか点いていないが、その照明の色が妙に青白いように見えた。

まるで真夏のプールサイドにあるような、不健康な光が駐車場全体を浸食している。


「……こんなんだったっけ? だいぶ雰囲気変わったなあ」


それから哲也はトイレの個室に籠り、用を足してから自販機で冷たい缶コーヒーを買ってトラックへ戻っていった。

歩きながら一服でもしようと缶を開けたとき、ようやく哲也は違和感を抱いた。


自分が停めたはずの場所。

何度も利用したこのSAの駐車場は区画が頭に入っている。

だが、自分のトラックが停まっているはずの区画番号「C-14」が、どう見ても「D-14」になっている。

疲労による場所の誤認だと思い込むが、周囲に目をやると、さらに異様な光景が広がっていた。


駐車場に停まっているのは、すべてが錆とカビで覆われ、タイヤが潰れた廃車ばかりだった。

その車体の窓ガラスはすべて内側から曇り、中に誰かがいるのかさえ判別できない。

まるで時間が止まったまま朽ち果てた車の墓地のようだ。


ぞっとして、哲也は建物に目を戻した。

看板のフォントが、細く歪んだ古代文字のような形に変質している。

そして、青白い光を放つ建物の窓ガラスに手のひら影がびっしりと貼り付いているのが見えた。

その影は、窓の内側でゆっくりと蠢いている。


哲也は急いでトラックに乗り込んだ。


「夢か? 夢なのか!? だったらはやく覚めろ!」


哲也はSAの出口を目指して車を走らせたが、出口の標識がどれもこれも「次のサービスエリアへ」としか書かれていない。

どれだけ走っても敷地を一周し、再び建物へと戻ってきてしまう。


彼は焦りながらも、スマホのGPSで位置を確認しようと試みた。

しかし、ポケットに手を突っ込んでまさぐっても、自分の太腿に触れるだけ。


(しまった……さっきトイレの個室に置いてきた)


哲也はさらに焦った。


彼は車を降り、あらためて建物の方に目を遣る。

青白い光の中で、一階の窓枠から黒い何かが節くれだった複数の腕のようなものを使い、ゆっくりと這い出してくるのが見えた。


明らかに人間ではない。


「なんだよアレ……なんなんだよココは!」


だが、あのスマホは唯一の連絡手段だ。

そう思った彼は意を決し、再び建物の方向へと全力で走り出した。


トイレのドアを蹴破るように開ける。

便器の横の棚に、自分のスマホが置いてあるのを見つけると、ふんだくるように掴みとって個室から転がり出た。


外に出る一瞬、目眩が哲也を襲った。


何度か瞬きをして目を凝らすと、外は見慣れたいつもの駐車場だった。

照明は痛いくらいに白く、さっきまでの不気味な青白さは消えている。

辺りには数台のトラックが静かに休憩している。


すべてが元に戻っていた。


哲也は混乱しながらもトラックに戻り、アクセルを踏み込む。

バックミラーで看板をちらと見ても、元の見慣れたフォントに戻っている。


高速道路に合流し、安堵の息を漏らす。

ダッシュボードに放り投げたスマホを手に取って、時間が狂っていないか確認した。

その時、ふと手が触れたカメラアプリが起動した。


画面には、撮影した記憶にもない一枚の静止画。


歪んだ文字の看板と、その足元には節くれだった何かの影が、薄く、ぼやけて映り込んでいた。

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