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血潮

金曜日の深夜2時。


プログラマーの佐々木大輔は、光の粒子が飛び交うディスプレイの前で虚ろな目をしていた。

締め切りは明日の朝。しかし、肝心のコードはまだ半分も完成していない。


「クソッ、ねみぃ……」


デスクの端に視線をやると、アルミ缶が一本、煌々と光を放っていた。

ドラッグストアで大量に買い込んだ、愛用のエナジードリンク。

その日の気分で色を変えるのが彼の小さなこだわりで、今夜は目を覚ますような鮮やかな青色のものを選んでいた。


プルタブを勢いよく開け、喉を鳴らして一気に流し込む。

冷たい液体が胃に落ちると同時に、倦怠感が一瞬にして消え去っていくのを感じる。


これがないと、この仕事はやってられない。

強烈なカフェインと人工的な甘さが脳を叩き起こし、佐々木の指はキーボードの上を猛烈な速度で走り始めた。


作業開始から2時間後。

時計は午前4時を指している。

それでも全てのバグが修正され、コードは完璧に動作していた。

このスピードは、普段の彼からは考えられないものだ。


「しゃあっ……終わった!」


大輔は安堵のため息をつき、ディスプレイの電源を落とした。

しかし、その時、体の奥から奇妙な違和感が湧き上がってくるのを感じ取ってもいた。


心臓が、まるでマラソンを完走したかのように、ドクドクと不規則に脈打っている。

全身の筋肉が小刻みに震え、まるで体内に別の生き物がいるかのように感じる。

そして、何よりも耐え難いのは、異常な喉の渇きだった。


さっき飲んだはずの青いエナジードリンクの強烈な甘さが、今度は舌の上に張り付いた砂のように渇きを訴えかけてくる。


キッチンで水道水をいくら飲んでも、渇きは収まらない。

逆に、水が胃を通り過ぎるたびに体内の何かが「水ではない、あれだ」と叫んでいるような気がした。


ふと、自分のデスクの上に視線が戻る。


空になった青い缶の隣に、次の作業のためにストックしてあった赤いエナジードリンクの缶があった。

大輔は、まるで磁石に引き寄せられるようにその赤い缶に手を伸ばす。


これを飲めば違和感も、この渇きも全部……収まるはずだ。


プルタブを開け、一口飲む。


ゴクリ。


鮮烈な鉄の味が、口の中に広がった。


「……!? まっず!」


それは、カフェインや甘味料の味ではない。

まるで、錆びた金属を直接舐めたような血の味だった。


大輔は缶から口を離し、中身を確認しようと傾ける。

すると、缶の飲み口から溢れてきたのは、鮮やかな、そして粘性の高い……血液。

自分のデスクに、自分の体に、赤い液体が飛び散る。


「ひいっ」


大輔が恐怖で悲鳴をあげた瞬間、彼の頭の中に、全く別の、しかし馴染み深い声が響いた。


『血を……燃やせ……』


声に反応して見上げると、部屋の隅々に無数の目が光っていた。


青、赤、黄色、緑、紫。

様々な色の光を放ち、大輔を見つめている。


そして、大輔の心臓の鼓動は、エナジードリンクのキャッチコピーのように、強烈に、そして致命的に加速し始めた。


彼はもう、眠ることも、休むこともできない。


渇きが次の刺激へと駆り立てる。


大輔はにやりと笑って、再び手に持った缶を口元へと運び始めた。

まさにエナジー。

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