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ツイている

幸運とは何なのか。

海外旅行が趣味の会社員、石山俊介は会社でちょっとした有名人になっていた。

それはオーストラリアに行ったとき、お土産で買った幸運のお守りのおかげだ。


木を薄く削って作られた六芒星の真ん中に、綺麗な宝石が埋め込まれているペンダント。

それを鞄に忍ばせて、いつも通りに出勤した先週の火曜日にそれは起こった。

俊介は、大きな事故に巻き込まれたのである。


乗っていた電車が脱線し、横を走る幹線道路にまで飛び出だす大惨事。

死者数は3桁にのぼり、当時の乗客は俊介を残して全員死亡した。


俊介は、生き残ったのはお守りの効果によるものだと興奮気味に語った。

それを聞いた会社の面々は、驚きながらも俊介の生還を喜び、疑わなかった。


それから俊介は、縁起物ならぬ縁起者として商談などに重用されるようになった。

まさに千載一遇の大出世。

俊介は、幸運の絶頂期を噛み締めた。


しかし、それから一か月も経たないうちに、状況は一変した。


「どうしてこんなことに……」


俊介は部屋で一人、膝を抱えてうずくまり、死んだように動かなくなっていた。

傍らには大きく開かれた新聞記事。


"局所的地盤沈下による建物崩壊 死者80名"


さらにその見出しの下に、もう一つ大きな文字が書かれている。


"生存者1名"


「なにが幸運のお守りだ」


俊介は、床に放り投げたペンダントを睨みつけながら吐き捨てた。

会社は一瞬で崩れ去り、同僚も、職も失った。

確かに自分は生き残ったが、それになんの意味があるというのか。

そんな苛立ちを覚えながらも、俊介はペンダントを見つめる。


「まるでコイツが不幸を呼び込んでいるみたいじゃないか……」


生き残ることは確かに幸運かもしれない。

ただ、そのあとは悲惨な現実が待っているばかり。

俊介は、これは不幸を呼び寄せる呪いの装置のようだと思うようになった。


「捨ててこよう」


俊介はそう呟いて立ち上がると、ペンダントを握りしめて部屋を出ていった。


「家の前のゴミ捨て場――はダメだな。川がいい……どこか遠くへ流れてくれれば」


とにかく距離を置きたい。

その一心で、俊介は少し離れたところを流れる河川敷へと歩を進める。

途中、喉が渇いたついでにコンビニに立ち寄る。

すると、何やらいつもより大勢の人で賑わっていた。


「ああ、花火大会か」


毎年この時期になると、大勢の人が県外からやってくる。

まだ日が落ちる前だというのに、それでも数十名はいるであろう人だかりだ。

俊介はうんざりしながらも、棚から炭酸飲料を手に取ってレジに向かう。


並んでいる最中、ふと入り口に目をやると、信じられない光景が俊介の目に映った。

ダンプカーのような巨大な車が、アスファルトを焦がしながら突っ込んできたのだ。

車の背には、何かタンクのようなものを積んでいるのがちらと見えた。


「えっ」


俊介が間の抜けた声を上げた直後、凄まじい轟音が鳴り響く。

すぐさま赤い光が迸り、そこで彼の意識は途絶えた。


しかしすぐに目を覚ました俊介は、自分の体をまさぐるようにして無事を確かめる。

どういう原理か、体にかすり傷ひとつない。


辺りを見回すと、さっきまでコンビニだったものは瓦礫の山になっていた。

燃え盛る炎と、遠くに聞こえるサイレンの不協和音。

人の声は聞こえない。

それは俊介以外に生きている者がいないことを示す、無言の静寂だった。


それから五日後。


俊介は一人、街の街頭広告を見上げていた。

夏のライブイベントを大々的に告知する写真には、野外会場の航空写真が使われている。

大勢の人の波によって、狂乱と熱気が生み出されている様が鮮明に映し出されていた。

会場のキャパシティはおよそ10万人。

俊介はほんの少し口の端を上げ、無言で歩き出す。


その手の中で、六芒星のペンダントが鈍く煌めいた。

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