切るな
何が起きるかわかっていても……
深夜二時、俺は暇つぶしにPCでネットサーフィンを楽しみつつ怪談掲示板を眺めていた。
そのときふと、なにやら胡散臭いスレッドにあった一件の投稿に興味を惹かれた。
〈この番号にかけると、自分が死ぬ瞬間の声が聞こえる〉
簡素な一行のすぐ下には、十一桁の電話番号が添えられていた。
バカバカしい。
そんなことあるわけないだろうに。
「昔、こういう映画あったよな……なんだっけ」
タイトルを思い出そうと、天井をにらみながら自分のスマホで通話をかけてみる。
座りっぱなしで腰が痛い……俺は椅子から立ち上がり、
体をほぐしながらスマホを肩に挟んで耳に押し当てていた。
数秒の呼び出し音が鳴り、どうやら本当に生きている回線であることがわかって──。
ふいに、通話が繋がった。
どうやら相手は応答したようだが、無言だ。
耳に入ってくるのは、妙に荒い息遣いだけ。
「イタズラかよ、くだらねえ」
そう吐き捨てて、俺は〈通話終了〉の赤いアイコンに親指を重ねる。
『まて……切るな……切るな!』
ふいに、切羽詰まった声がスピーカーを震わせた。
これは……俺の声だ。
思わず鳥肌が立ったが、気味悪さに勝てず素早く赤いアイコンをタップした。
流行りのAI生成か?
知識のある人なら、音声加工でこれくらいのことならできそうだ。
それにしても、手の込んだイタズラだな。
そう思いながら、なんとなくスマホの画面をちらと見た。
瞬間、画面が閃光を放ち、背中を見えない手に押される。
俺は雑誌の山を崩しながら勢いよく転倒し、
後頭部をサイドテーブルの鋭い角に激しく打ちつけた。
視界が歪み、血の匂いが鼻に刺さる。
と、いきなり震え出す俺のスマホと、画面に映し出される〈高田泰久〉の文字。
俺の名前。
わけもわからずスワイプで応答したが、なにも応答はない。
その間にも俺の視界はぼやけ、痛いような、熱いような感覚に包まれていく。
息がしにくい。
『イタズラかよ、くだらねえ』
これは……俺はこのあとに電話を切って……。
三秒後に訪れる惨劇を知った俺は、鼻と喉から吹き出る血と一緒に叫んだ。
「まて……切るな……切るな!」
しかし無情にも通話は切断され──。
その瞬間、俺は意識と共に闇に落ちていった。




