世界と一つに
人はずっと一人。
何かと、誰かと一つになることはできない。
……基本的には。
初夏の午後21時過ぎ、私は汗をかきながら日課のウォーキングをこなしていた。
家の前の公園を反時計回りにぐるっと歩いて、距離はちょうど3km、時間はだいたい30分とすこし。
姿勢が悪くならないように、空を見上げるつもりで目線を上にする。
都会とまではいかないけれど、それなりの人口を誇る地域にこんなにも広い公園があるのは珍しいことであり、ありがたいことでもあった。
息をリズミカルに吸って吐きながら、微妙に青みがかった夜空を見つめる。
星はほとんど見えない。
ふと、何かを思い出しそうになる。
なんだっけ、都市部の空は星が見えなくなるっていう。
そんなことを考えていたら、ライトを点けてない自転車とすれ違った。
思わず舌打ちしそうになって、思いきり鼻から息を吸い込む。
口からゆっくりと邪念を吐き出していると、思い出した。
スカイグローだ。
たしか、人工光が大気中で散乱することによって、ぼんやりと明るくなる現象のことをそう表現していた。
星の可視性が損なわれる原因なんだとか。
思考が整理されてしまったせいで、逆に周囲の音がやけにハッキリと耳に届くようになった。
遠くの幹線道路を走るトラックのタイヤ音、公園の藤棚をわたる湿った風、そして頭上の電線を震わせる低い唸り。
それと、上空から何かが擦れるようなざらついた音。
私は反射的に視線をさらに上へと持ち上げた。
ちょうど北東の空、スカイグローで灰色がかった雲の切れ間に、針の先ほどの暗い点が浮いていた。
星のようには光らない。
むしろまわりの明かりを吸い込んで、点よりも孔のように見えた。
なんだろう。
ぼんやり眺めているうちに、孔はゆっくり形を伸ばし始めた。
やがてすこし太い線になり、それが上下に裂けていくような……。
等間隔に立っている街灯が一斉に、ブゥンという変な音を立てて、消えた。
あわてて辺りを見回しても、すでに真っ暗だ。
公園の灯りも消えている。
裂け目は気がつけば私の目の前にあった。
奥には何も見えない。
そこにはただ、宇宙が広がっているだけだった。
星雲や銀河のような模様や深みのある色合いがとても綺麗だ。
そういえば、人間の瞳は宇宙に似ている、という話があったような気がする。
誰かが私を見ているのだろうか。
それとも、私が誰かを見ているのだろうか。
裂け目が閉じられると、私の世界も閉じていく感覚が流れこんでくる。
不思議と、嫌な気はしなかった。
完全な闇が私を包んで、あとは夜に溶け出すように、滲んで消えた。




