幾つ数えればゼロになる?
「こーれまた長い短編書いて、連載進んでないんじゃない?」
「はい、その通りです。」
「これは昔いた友達の話だ」
俯いて、少し考えるような顔をしてから、また向き直る。
「いや、友達かどうかはわからないか」
週の始め、クラスがいつもよりザワザワしているな、と思いながら教室に入る。みんなどうやら転校生が来ることにざわついているらしい。
今は二学期で、それももう中盤に差し掛かっている。時期外れの転校生に、クラスだけでなく、自分もわくわくしていた。
女子たちは「可愛い女子に来て欲しい派」に来て欲しい派と「かっこいい男子」に来て欲しい派の二つに分かれ、男子たちは「運動ができる男子」と「頭がいい男子」の二つの派に分かれているようだ。
自分も加入して騒いでいると、朝の会のために先生が入ってきた。そして、先生が来たのを見て、みんなが自分の席に戻り始める。全員が座ったのを見て、日直の二人が前に出ようとするが先生がそれを手で制した。
そのまま、先生が教壇に立って、クラスを見回してから、喋り始めた。
「えーっと、この感じだとみんな知っちゃってると思うけど、男子転校生がこのクラスに来ます!」
転校生はこのクラスに来るという言葉に拍手をする。それにつられて男子たちも拍手をし始める。
このクラスに男子が来るのか。どちらかというと、「運動ができる男子」にきて欲しいな。もしかしたら、「ロード」のライバルになるかもしれないし。
「いやー、この時期に来るのは珍しいから先生も嬉しいね」
先生が苦笑いしながらも嬉しそうに答える。
そして、先生が廊下に出て、誰かと少し話していたかと思うとまた戻ってきた。
「じゃあ、入ってきてもらうね」
先生がそう言ってから、教室のドアのところまで行って、転校生を連れてくる。
先生が連れて入ってきたのは、いかにも運動ができるという感じの男子だった。しかし、男子たちがそれを喜ぶよりも先に、女子たちの声が上がった。
入ってきた男子は少し日焼けしていて、身長がかなり高い。身長の高さで言えばクラスで一、二を争うほどだろう。しかも、これにイケメンと来ている。
その顔を見て、来るのが男子と聞いてから残念そうにしていた、「可愛い女子」に来て欲しかった派もすぐさま、「かっこいい男子」が来てくれた派に変わったようだ。
クラス内のざわめきが少し落ち着いたのを見て、先生が始めに軽く転校生の紹介をする。そして、先生の紹介が終わると、本人が自己紹介を始める。
転校生はやっぱり男子たちの思った通りだった。
本人によればサッカーと野球をやっていたらしい。これならば「キング」にもなれると男子のほとんどが考えているようだ。
「じゃ、これで朝の会を終わります。挨拶は大丈夫です」
先生は、去る際に転校生に廊下側の空いている席に座るように指示して、教室から出ていった。
先生が見えなくなると、転校生の周りにはたちまち人だかりができた。
自分も周りに行こうとしたが、人が多すぎて近づけず、自分の席に戻る。
イケメン転校生だし、こんなこともあるだろう。どうせ、放課後になったらみんな興味をなくす。そういえば、今日も隠れん坊あるな。
同じように近づけずに、離れたところに固まっていた男子たちが、自分が座ったのを見ると、周りに集まってきた。
最初に口を開いたのは「キング」だ。
「どうする? 男子だし、転校生だとしても、ここは今日の隠れん坊に参加させないとでしょ」
一人がそう言ったことで周りにいた、他の人たちも口々に「参加させ他方がいい!」と言い始めた。
しばらく黙って聞いていたが、この場にいる全員が参加させた方がいいと言う意見らしい。
確かに、転校生だとはいえ男子だし、新しい学校に慣れてもらうにためにも参加させた方がいいか。役職に変動が起きて楽しそうだしな。
「なら、参加させよう。じゃあ、ちょっと他のとこの『ロード』と話してくる」
「様子を見て、周りに人がいなくなったら、無理強いしない程度に誘っといて」
二人の友達と一緒に、学校の裏にある丘へと向かう。三人で雑談していると、商店街の中に入った。
丘へ向かうには商店街を通るのが一番早いけど、今日はライブか、何かのイベントをやっているようだ。商店街の真ん中の広場からの音が、ここまで聞こえてくる。
声を大きくして話しながら、広場の隣を通る。
やっていたのは、市が主催したバンドのライブだ。
友達がバンドの方を見て、足を止める。
「お! おーい」
自分も足を止めて、バンドを見ていると、知っている声が聞こえた。
辺りを見回して、声がした方向を向くと、他の二人もついてくる。人混みから離れると、近くのベンチに先輩が脚を組みながら座っていた。
「久しぶりじゃん。最近、見なかったし、なんかやってた?」
「おじさんも久しぶり。と言うよりはおじさんが昼間にいなかっただけでしょ」
話しながら、髪の毛を見る。前までは薄い青色だったのに、今は金色になっている。その髪の毛の色を見て、心の中でお兄さんに言い直す。
「まぁね。最近忙しかったし。そういえば、さっき丘の方行ったけど、今日もあれ? にしては数多くない?」
お兄さんに転校生が来たことを話し、軽く転校生の見た目を説明する。
説明し終わると、立ち上がって、後ろの二人を見てから、振り向きざまに言う。
「じゃ、お前ら頑張れよー」
「あのチャラそうな人誰?」
お兄さんが遠ざかると、片方の友達が聞いてくる。それに賛同するように、もう片方の友達も頷いている。
「あの人か──あの人は今から十四年前の『ロード』だ。あの人の友達によると、当時百十四戦無敗で、約三年間『ロード』の座を守り続けたらしい」
約三年間「ロード」だったと言う話を聞いて、二人の目の色が疑いから、尊敬へと変わる。
それは当然だろう。「ロード」は一度隠れん坊で一位になるだけでなれるし、その下の「キング」は二位、さらにチャンスは一週間に一回ある。だから、ほとんどの人が一度や二度は「ロード」や「キング」になったことはあるが、三年も「ロード」で居続けるのはほぼ不可能だ。
「にしても、百十四連勝ってすごいよな。そんなん普通は無理だろ」
あの金色の髪を思い出しながら、ボソッと言ったことに、さっきは黙っていた方の友達が反応する。
「まぁ、『不可能だろ』とか『無理だろ』とか言ってる、どこぞの『ロード』さんは現在四十一連勝中で大概なんですけど」
相変わらずうるさい広場を通り抜けて、丘へ向かう。
丘へ着くとすでに、ほとんどの人が集まっていた。中には転校生の姿もある。どうやら、ちゃんと誘ってくれたようだ。それにしても、三学年分が集まると、男子だけとはいえかなりの人数だ。
ルール説明は受けたようで、初めてだが特に戸惑っているような様子もない。それにしても、近くの林に女子がいるのが問題だな。イケメン転校生の観戦だと思いたいが、観客として何をするかわからない。
丘の真ん中にある小さな広場の中央には六人の人が集まり、その周りを他の人が囲んでいた。
四年生の「ロード」が二人、五年生の「ロード」が二人、そして、ゲーム進行の四年生の「キング」と自分だ。
参加者が全員集まると、進行者が今回の鬼を発表する。「ロード」たちは、集まってはいるがすることは特にない。
一戦目はクラスマッチ。鬼は偶然か進行者の意図か転校生だ。このマッチは主に広場から離れた林をフィールドとしてやる。つまり、初めての参加で一番鬼がキツいとされるマッチで鬼になったと言うことだ。
そして、三分の隠れる時間が終わり、鬼が林の中の広場から始めた、実質十一秒のカウントダウンを小さな滝の近くにある、低い木の下の茂みで聞く。
隣には一緒にきた「キング」も一緒に隠れている。
「じゅーうっ」
「きゅーうっ」
「はーちっ」
「なーなっ」
「ろーくっ」
「ごー」
「よーん」
「さーん」
「にーい」
「いーち」
四まで数えたところで声が止まった。いつまで経ってもゼロを言わないし、三を言う気配もない。もしや、もう始めたのか? だが、このマッチではゼロまで数えずに始めることは御法度だ。事前に説明をしたから、それは知っているはず。本来ならばあり得ないはずだ。
一応、何か事情があって、一時離脱している可能性を考えて、今の場所にとどまる。
「助けてくれ!」
「おーい」
「誰かいないのか!」
「みんないるだろ!」
黙って滝の音を聞いていると、近くから助けを呼ぶ声とともに、何人かの人が落ち葉の上を走り回る音が聞こえる。どうやら、他のところのマッチはもう始まったようだ。さては、隠れ鬼で白熱しすぎて、林の方まで来たか。
他のところが始まっても、ここだけは始まる気配がない。
あとどれくらい待てば、ゼロが聞こえるんだ? あとどれくらい数えればゼロになるんだ?
「助けてくれ!」
「助けてくれよ」
「なんで俺なんだよ」
「他にもたくさんいただろ」
しばらくすると、助けを呼ぶ声と落ち葉を踏む足音は聞こえなくなった。
さては、隠れ鬼ももう決着がついたか。他のところはもう一マッチ終わったって言うのに、こっちはまだ始まってすらいない。何か用事があったとしても遅すぎる。
茂みの中から、顔を半分出して辺りを確認すると、他に隠れていた人たちも外に出てこようとしているところだった。
全員を集めて、一緒にゲーム進行がいる広場に戻る。
広場に戻るとゲーム進行が自分たちを見つけて、話しかけてきた。
「あっ、もう終わったんですか? どうでしたか? やっぱり勝者は『ロード』ですか?」
「いや、鬼だった転校生が突然消えてな。待ってたけど始まる気配がなかったから、戻ってきた」
答えると、ゲーム進行が首を傾げる。
その様子を見るに、転校生はここにはきていないし、事情も知らないと言うことか。
その後、流石におかしいと考えて、他のゲームを中断して、全員で辺りを探す。
あの日の、次の日学校に行っても、転校生はいなかった。最終的には警察まで呼ばれたが、それでも見つかることはなかった。
そして、後にゲーム進行から聞いた話だと、その日はどこも隠れ鬼をやっていなかったらしい。隠れ鬼以外で、走り回ることがあるゲームはない。なら、あの時聞いた助けを呼ぶ声と足音はなんだったのか。
でも、一つだけわかったことがある。
自分で聞いたからって、自分が知ってるからって、自分が考えたからって、それがそうだとは限らない。
今回は前回みたいな化け物が出てこない形になりました。
ちなみに作者は前回の化け物はネトゲー一緒にしてた、友達だと思います。