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《6》強面皇帝と辺境伯1


 私はルシアン・グフィスタンス。


 実家はカウンティ公爵家。その家の次男であり国の要であるグフィスタンス領の領主である。


 外交官として各国を回っている兄が公爵家を継ぎ、私は成人後に父の持つ子爵位を継ぎ皇族の騎士になる予定であった。

 しかし、親友のマクシミリアンから「辺境を任せたい、お前しかいない」と熱い眼差しで頼まれれば断る訳にはいかない。


 辺境伯位を授爵したのは七年前。

 マクシミリアンの皇帝即位と同時だった。

 グフィスタンス領は国境付近にある。

 戦争が絶えない地域であり広大な領土内の深い森には魔物も存在している。

 我が国と隣接する外国勢力との架け橋や外交窓口の役割も担っていて、更に一年に一度、森から魔物が侵入してくる。

 繁殖期、育児期を迎える魔物は狂暴になり領土内の作物を求めて領土を襲ってくるのだ。そんな魔物の退治も我々の務めである。


 

 マクシミリアンとは古くからの友だ。

 幾度となく戦場や魔物討伐で寝食を共にし、背を守り守られたか……私の最も信頼し尊敬する主君であり親友なのだ。

 国を守る為にと自らが先頭に立ち内戦を治めた。帝国を平和な国に導いてくれているのはマークだ。

 即位の年齢は二十歳と若かったが、国民を臣下を守る腕っぷしの強さと優しく真面目で真っ直ぐな心根を持つ立派な皇帝である。



 隣国のリオジェラテリアが怪しい動きをしていると報告があったのは数日前。

 明け方国境付近にある砦から何万という隣国の兵が攻め込む準備をしていると早馬で知らされたのはつい先程のこと。


 そして、現在。辺境伯領国境付近に設置された天幕内では戦略会議真っ只中であった。


 この場にいる誰もが厳しい表情だった。このままでは援軍が来るまで耐えられるのか……と誰もが不安であった。


 しかし………


 突如““ドスン””と天幕が大きく揺れた。

 


 最前線の空の色を見れば一目瞭然。その異変に慌てて外へ飛び出すと国境付近に轟く稲妻が走る。

 そのおどろおどろしい情景を目の当たりにして誰もが思った。

 我が国の勝利だと……

 辺境伯はじめ隊長、隊員、皆が安堵し勝利を確信した。と同時にリオジェラテリアの諸君御愁傷様と憐れな気持ちになる。


 援軍を要請してまだ数分しか経っていないのに、、、

 離れた首都から安易ではない転移魔法を使用してまで、戦場に駆けつけてくれる漢らしさ。

 その勇ましく戦う姿を近くで拝見したい隊長らがそわそわしていて落ち着かない。私の号令を今か今かと期待をきらきらしい表情で訴える部下たち。

 勿論辺境伯も久しぶりのマークの勇姿を間近でみたい。



 『よし!皆の者、陛下の元へ急ぐぞ!』


 『『『はっ!!!』』』 


 辺境伯の掛け声にマクシミリアンの元へ駆け出していく。


 

 (我々の憧れの……。陛下の鍛え抜かれたあの筋肉を……。親愛するマクシミリアン皇帝陛下……今すぐ、いっきまーす!!)



 各々の欲望を満たす為に全速力で走り出した。




 ◇◇◆◆◇◇




 数百㍍先に見えるマクシミリアンの頼もしい後ろ姿を捉えたルシアンは1年ぶりの再会に胸が躍る。



 鍛え上げられたあの素晴らしすぎる筋肉。


 あの巨体から繰り出される卓越した剣技。


 悪を許さず、弱きを助ける心根の精錬さ。


 神の子供と思わせる端麗な容姿に佇まい。


 始祖竜の力を継承した世界最大級の魔術。



 どのような訓練をすればあの良質な筋肉を育てられるのだろうか。

 どのように過ごせばあの方のように強く格好良い(おとこ)の中の男になれるのだろうか。

 いつも無表情だが、仲間を大切にする優しい方だ。

 

 誘惑の多い中でも女性にも娯楽にも見向きもせず、鍛練を優先するあの逞しい獅子のような背中……最高だ!


 彼に憧れない男はいない。

 世の男性の好感度の高さは計り知れない。

 戦場を共にした者にしかわからないマークの格好良さ、強さに我が国の男たちもかつての敵の男らも惚れてしまうほどだ。



 戦う姿を間近で堪能したい……目に焼き付けたい……などと、それぞれの思いを胸に一秒でも早くマクシミリアンの元へ辿り着けるようにと必死に手綱を握り馬を走らせる。


 到着した頃は、既に勝負の決まった後だったが、我々に気付いたマークはこちらを振り返り、さらりとした前髪を指でかきあげたのち眉目秀麗な顔立ちが露になった。

 美しすぎる顔面はほのかに色を含ませ、表情を僅かに緩めながら『皆、ご苦労』と我々に対し労う言葉を発してくれる。


 ““マクシミリアン皇帝陛下””をたたえるかのように、雲の切れ間から差し込む一筋の美しい太陽の光がマークを照らしている。その神々しさに居合わせた辺境伯騎士団は惚れ惚れしながらその姿を心に、脳に刻みこんでいた。



 (あぁ、カッコいい!!美しすぎる……あぁぁ、惚れてしまうでないかー!我らのマクシミリアン皇帝!バンザーイ!!一生ついていきまーす!!)



 ふと、友人代表ルシアンは思った。

 マークは完璧な男性なのに、なぜ未だに未婚なのだろうか。

 と……



 王の伴侶は女性の憧れの地位であり最高の嫁ぎ先である。

 皇帝に次ぐ地位になる。

 あのマークの熱情を一心に受ける喜びと幸せは保証されたものなのに……


 真面目なマークは裏切る行為は絶対にないと断言できる。

 生涯その愛情を一心に捧げ大切にし続けることは間違いない。

 世の中の令嬢、平民の女はマークの溢れんばかりの魅力に全く気付いていない。なぜか恐れられているのだ。信じられん。


 一人位、そんな存在がいてもいいのに……


 まもなく28になるのに、今のところ浮いた話もなければ女の気配が全くない。


 間違いなく女性の経験はない……な……うん。。


 その行為は生涯ただ一人に捧げるという信念を学生時代に話していたし……うん。。



 さらさらとした漆黒の髪と晴天の空を思わせるスカイブルーの瞳。そして長い手足にあの肉体美。

 神々しく整ったあの容姿には溜め息がでる。

 流石美形揃いの王族の血を引いて美しさが溢れている。

 醸し出す独特の威圧感は近寄りがたいのかもしれない。

 弾けるほどの笑みを浮かべたところはみたことはないが……悪くいえば無表情……強面ではあるが……それが、また格好いいのに。



 こんなに素敵な我らがマクシミリアン皇帝が熱情をぶつけられる女性が未だに現れていないなんて……残念だ。

あの美しすぎる顔面が露になれば、強面は二の次となり一瞬で心を奪われ女子供はイチコロになるはずなのに……



 (あぁ、もったいない、勿体ない。なんともったいないことを……)


 (自分が女だったら……間違いなく皇帝の女に立候補するのに……)


 (((あの前髪切らないかなぁぁー。)))



 グフィスタンス領の騎士団の皆が心底そう思った。 

 

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