《4》聖花姫と二匹の獣
『『『ピィィーーーーー!』』』
鳥笛を使ってポポを呼んだ。
自国の軍に気付かれたら計画終了になってしまうので、生い茂った木々に身を隠し、ポポの到着を待つ。
ポポは、到着した直後に遊んで来ると言い残し、川のある方角へ飛んで行った。
レイはリリアーナの側から一時も離れず、ふわふわの白い毛をなびからせながら気持ち良さそうに体をこすり付けてくる。撫でてあげると緩んだ顔でゴロゴロと喉を鳴らし気持ち良さそうに目を細めている。
鳥笛の音を聞きつけ上空を旋回していたポポに、今一度、『ピピッ!』と短く音を鳴らすと大きな翼を広げて軽やかにレリアーナの前に降り立った。
「ポポ、遊んでいたのにごめんね。お願いがあるの。」
ふさふさの首筋のビターチョコ色の毛を優しく撫でながら、ポポの瞳を覗き込んだ。スリスリと体を寄せて『いいよ~』と答えてくれる。
ポポの足に乗り落ちないように慎重につかまった。
レイにはここで待つように言い聞かせた。不満そうな表情をするが体の大きなレイはポポには乗ることが出来ない。
すぐに戻るからねと頭にキスを一つ落とすと『無事に帰ってきてよ』とリリアーナに今一度体をこすり付けて、その場にゴロンと不貞腐れて丸まった。
まるでわた雲のようだなと、その可愛いさに『ふふっ』と小さく笑いがもれる。
ポポにお願いと合図をおくる。
リリアーナが乗ったことを確認すると『いっくよ~』と再び空に飛び立った。
「ポポ、そのまま上昇して雲の中を通れる?」
『できるよ~』
こんなに大きな鳥が軍の上空を飛んでいたら、警戒されるし、リリアーナの大鷲だと兄王子たちバレてしまう。
『妹はここでーす。ちょこっとやらかしまーす!』と言っているようなものである。
雲の中に姿を隠してゴールデンロック大帝国を目指し、悠々と進んでいく。
◇◇◆◆◇◇
ゴールデンロック大帝国、国境付近にて。。
辺境伯は敵国の軍隊の数に焦りをみせていた。
辺境伯領の騎士団は世界最強と言われている。百戦百勝。今までに一度だって負けたことはない。
しかし此度は部が悪すぎるのだ。なぜなら半数以上の隊員が魔物退治に出払って不在だからだ。
前触れもなく隣国のリオジェラテリア王国がゴールデンロック大帝国に侵略戦争をしかけてきた。近々攻めてくるという情報は手にして準備を進めていたが、まさかこんなに早いとは思っていなかった。
辺境伯は数分前に援軍を首都のマクシミリアン皇帝陛下に申し出た。
援軍到着まで持ちこたえられれば勝機はあるが、到着まで早くて一日半かかるだろう。
流石の辺境の地の守護神であってもこの人数差では絶望した戦いになると感じていた。
辺境伯領の騎士団は援軍到着までどのようにしてこの地を守るかと隊長らと戦略を話し合っていた最中のことだった。
『『『バリバリ、ドスン!』』』
と突如、爆音と共に大地が激しく揺れた。
後方で話し合っていた辺境伯や隊長らは、異変を感じ天幕から飛び出て空を見上げた。
『『『!!へ!へいかーーだ!!!』』』
国境付近に轟く稲妻が無数走っている。強張った表情が安堵の表情に一変した。勝利の喜びに……
『『よーし、よし、よし!勝負は決まった!!勝った、勝ったぞーー!!』』
『『あぁ。あのお方がいらっしゃった……我らを助けに来て下さった!世界最強!!我らが神!その名もマクシミリアン皇帝陛下ー!』』
『『バンザーーイ!!!』』
隊長らは憧れのマクシミリアンの登場に歓喜した。
次いで『皆の者、陛下の元へ急ぐぞ!』という辺境伯の喜びの含んだ命令に従い、マクシミリアンの元へ意気揚々と駆け出していく。
各々の欲望のために……
◇◇◆◆◇◇
リリアーナとポポは雲の中を突き進んでいた。
徐々に雲が切れ始め隣国の軍人がまばらに散在しているのが見えた。
リリアーナは両国の国境ギリギリの所に黒い影のようなものを見つけた。
それは、真っ黒い大きな馬にまたがる一人の男性の姿だった。
なぜ単騎でそんな所にいるのだろうか……と不思議に思っていたが、まもなく雲を抜け隣国に入ることを考えたら、緊張で頭がいっぱいとなりその姿から目をそらし前を向いた。
軍の後方にゴールデンロックの紋章が描かれている巨大な天幕が見えた。
とりあえず軍のトップがいるところに向かうことにした。ポポにその天幕を目指してと指示を出し、気持ちを引き締める。
隣国の領土に入ったところで、一瞬、ビリビリっと体中に電気が走ったように感じた。
ほぼ真下に見える男性が大剣を空に向かって振り上げていたのだ。
『???今のなに?』
『えっっ……ポポ?ポポどうしたの?!』
ポポはブルブルと小刻みに体を揺らしひどく怯えている。
なんとか落ち着かせようとポポの体に手を伸ばした、次の瞬間……
『『『バリバリ、ドスン!』』』
と大地が激しく揺れ、リリアーナのいる雲の中は轟音と稲妻が多数走っていた。
恐怖で体が動かない。
そして、地上に無数の雷が落ちるのが見えて意識を手放してしまった。