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《2》聖花姫と予言師の男




 国を滅ぼす元凶となる隣国の冷徹な皇帝が西方に居たり。


 我らの美花の国を力を持って排除するであろう。


 美花の艶麗な姿に溺れて囲う。


 純潔の花を散らされし美花は情婦となり枯花となる。


 手折られ朽ちてゆく我らの愛し子を死に至らしめる恐ろしき者なり。



 ◇◇◆◆◇◇




 本来は、争いごとを好まないリオジェラテリア王国なのだが、ここ最近は城内に不穏な空気が漂っていた。



 「皆のもの、よく聞け!我が国を破滅に追い込むであろう隣国に戦いを挑むこととした。予言師さまの御言葉を聞いたであろう。リリアーナを護るために立ち上がるのだ!!準備を整えた隊から出兵を言い渡す!我々の手に勝利を!()け皆の者!()くのだ!!」



 「「「はっ!!我が国に勝利を!!」」」



 国王と王子たちは普段の穏やかな人柄が一変し、美しい容貌を歪ませながら、常に神経を尖らせていた。



 突如現れた国王の友と言う男が、城内にある高位貴族しか利用できない最上級の部屋を与えられたのは一ヵ月前のこと。

 老人は、宮廷魔術予言師様と呼ばれ国王の相談役として着任した。その信頼は厚く地位も発言力も日を追うごとに増していくのに然程時間はかからなかった。


 怪しげな魔術を操り真っ黒なローブを深くかぶっていて、顔が見えない。

 国王の数歩後ろに常時控えていて、ことあるごとに耳元で何かを囁いている。それに従うように国王が発言していく。

 まるで操られているように……

 

 着任当時は““胡散臭い男””という印象だった。


 しかし、国に降りかかる災難や災害などの大なり小なりを次々と解決していったことにより、疑いを持っていた貴族も徐々に信頼していった。


 着任してまもなくのこと。


 流行り病の発生が国を襲うと予言し、発生の日時、場所を事細かに言い当てた。

 小さな山あいの村で病が発生し、予言師が用意していた薬を無償で民たちに配られ、国全体に広まる前に終息させた。

 自領の民の命が守られ、救われた領主らが『予言師様は神の使いである』と崇め讃えた。

 その出来事がきっかけとなり、国の政に関わるもの全ての者が深く心酔していく。国の重鎮たちも予言師に相談を求めて、その指示に従いながら公務を行っている異常な状態なのだ。



 数日前にこの老人は新たな予言を唱えた。

 悲しき末路を回避するために帝国と皇帝マクシミリアンを打つことを決めた。


 予言の通りにならないように……

 聖花姫と言われる王女を護るために……

 国を護るために……


 平和の国リオジェラテリア王国は戦に向けての動き出した。


 

 ◇◇◆◆◇◇



 リリアーナは朝の支度を整え、朝食の場に姿を現した。

 父と兄たちが笑顔で朝の挨拶をしてくれた。いつもと変わらない食事の前のやり取りを終えて、席につこうとしたら、、、

 父の隣に着座する見知らぬ怪しい黒フードの男がいた。


 なぜ父の隣にいるのか、なぜ上座に座っているのか……他国の王族が城に滞在しているという話は聞いていない。

 挨拶をするべきなのはわかっているが、男から発せられる異様な気の流れに嫌な感じがして後退りしていた。



 「こちらは我が友である。魔術に秀で、現在は私の筆頭補佐、宮廷魔術予言師として滞在してくださっているお方だ。先の病の発生を予言し解決してくれたのもこちらの予言師さまである。我が国の恩人だ。予言師さま、私の愛する娘リリアーナでございます。」 


 国王がリリアーナと予言師の紹介を始めた。

 フードで表情の見えないが、存在に嫌悪感しかない。

 


 「亡き母上さまに似てお美しゅうございますね。はじめましてリリアーナ王女さま。善きご縁となれますようにあなた様の為に祈りを捧げましょう。心根のお美しい姫君に幸あらんことを!」


 「………………。」


 「リリアーナ?何故黙っているのだ……挨拶なさい。無礼であるぞ!我が国のお客人に失礼は許されぬ。王族として礼を尽くさねばならぬぞ。リリアーナ!!」

 

 国王の強い問いかけに無言を貫くリリアーナは、いつもの爛漫な笑みはない。生まれて初めて聞いた父の怒号に驚き、両手を胸の前でぎゅっと握り締め、俯いた。


 「父上、落ち着いてください。リリィが萎縮してしまいます。荒声をあげたら可哀想ではないですか。ただ初めて会う人に……予言師さまに驚いているだけだよね、リリィ?大丈夫だよ。予言師さまは素晴らしいお人柄の方だよ。挨拶できるよね?」

 

 「………………。」


 長兄が優しく促す。……がリリアーナに反応はない。


 男は深く被ったローブをほんの少しずらしこちらを眺めていた。

 隙間から見える白銀の冷ややかな瞳と目が合う。

 蛇のように獲物を補食するかのようにねっとりした眼差し。

 まるでこちらを品定めしているかのように、リリアーナの体を上から下まで凝視している。

 発せられた欲望を拭くんだ瞳の熱に気味の悪さを感じて目を反らした。

 そして、男は目尻を下げて口元を緩ませると、また深くローブを被って食前酒を口に含んだ。

 喉を鳴らして飲む音が静まりかえった場に響き渡り、リリアーナはその音に体を震わせた。


 「……お父さま、わたくしは………。いえ、失礼いたします。」


 「リリアーナ、待ちなさい!!!」


 父と兄たちが呼び止める声を無視し、一礼をすると足早に去り自室に戻った。



 (なんなの、なんなのよあの男!気持ちが悪い。化け物じみた黒色の気を感じたのは初めてだわ……どれだけの悪さを重ねてきた男なのかしら。そんな人を側に置くなんて、、友?恩人?有り得ない。あの人は聖人ではなく悪人。それもかなりの。お父さまたちからもあの人の魔力が感じられたわ。魔力で操るなんて最低!!お父さまたちを正気に戻さないと……)


 あの白銀の瞳を思い出すだけで、背筋に悪寒が走った。

 それからは出来るだけ予言師の男と出会わないように、関わらないように、と城内で過ごすときは部屋から一歩も出ず、食事も部屋で一人で摂ることにした。


 何度も「あの男のことを信じるな、騙されるな」と父に兄たちに言ってきたが、全く話を聞いてくれない。

 それどころか、父はリリアーナに予言師の存在の偉大さ、その力の信憑性を何度も話してくる。

 関わりを持たせようとあの手この手で場を設けようと画策してくるのだ。


 そんなやり取りが嫌で城から抜け出す日が続いていた。

 やがて父や兄たちを避けるようになってしまい、会わず話さずが何日も続いていく。未だに父たちを正気に戻す方法が見つからなかった。



 毎日のように朝から姿を見せずに城から抜け出している娘に諦めを抱きながらも、戦の準備が始まったことで忙しくなり、リリアーナの思うまま、好きなようにさせることにしたのだった。


 寧ろ、好都合だったのである。

 リリアーナに知られてしまったら、あの真っ直ぐな気丈で全身全霊をかけて阻止するはず。そうなれば、意思を固めた王子たちは揺らいでしまう。昔からリリアーナ()の““否””は絶対で、嫌だと一言発すればこの戦は先伸ばしになってしまう。 


 なにもしなければ大切なリリアーナを奪われて終わるのだ。絶望を背負って生きていかなければなりなくなる……。

 もう王妃(愛する妻)を亡くした時の絶望感は沢山だ……。

 一国の王として、父親として意見を聞くべきだったのだろうが、(リリアーナ)を護るためには仕方のないことなんだ、何より予言師が未来を予言したのだ。

 この戦は我々を幸せにしてくれるはずであると自分に言い聞かせた。


 「……リリィは……私たちのことを許してくれないでしょうね……」王太子(長兄)はボソッと独り言ちる。


 息子の言葉に国王は眉間のシワを片手で伸ばしながら、玉座に凭れ掛かると目を閉じ深く溜め息をはいた。


 その二人の様子を見ていた側に控える予言師の男は「姫様を御守りするため……致し方無いことですよ。」と発言するとニヤリと密かに嗤った。


 準備を終えた隊軍はリリアーナが寝ている夜中のうちに次々と出兵して行く。今朝は王子たち四名を含めた最後の隊が城を後にした。

 国王と王太子の見送りにより全隊が戦地となる国境に向かっていったのだ。


 

 城内に箝口令を強いていたことからリリアーナの耳にはいることは一切なかった。


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