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マクスウェルの悪魔  作者: ガバガバ
新たなる力編
9/9

あしたやろうはばかやろう

今度は慎二おじさんに連れられて白い私有地下研究施設にきた。いい加減名前をつけて欲しい。


白衣を着ていつも冷静なおじさんは乱暴に僕を椅子に座らせて、黒いベルト2本で椅子に括り付けた。と言うよりは固定させた。それから身体の向きを広い空間に向けた。


「なぁ大河。イナーシャルストレージコアが熱くなったのはいつだ?」

「お、お兄ちゃんに会った時から。なんで熱いってわかったの?」

「額に汗をかいてたからな。最初に言ったよな。いろいろ気をつける中で熱いのは特に____」


言葉をかき消したのは真っ赤で熱い閃光がレーザーになって噴射したからだ。僕の胸のプレートから服を焼き破って吹き出した赤い柱は、周りの光を一瞬で赤く染めて天井にぶつかり霧散していき、10秒後に消えた。


「___こうなる。アリシア。」

[大河のアブソリュートスーツの冷却性能は正常に作用しています。当該使用者に熱傷なし。]

「完全無欠[アブソリュート]か、我ながら皮肉が聞いてるな。運が良かったな大河。」

「今の何あれ!?!ビーム??」


突然胸から突き抜けた赤い光の柱は、未だに服を燃やしている。緊急放熱機構が備わってるとは聞いてたけど、まさかビームになって出てくるとは思っていなかった。

驚きに慌てる僕に慎二おじさんは消化器をふりかけた。燃え始めた服を冷たくするために。


「うわっ!!」

「大河の受けるはずだった3階から飛び降りた時と、村上楊枝から受けたマッハ1の弾丸5発分の威力が残ってた最大容量まで。その運動エネルギーは金属フレームに振動として吸収され、胸のプレートに蓄積、中の振動キャッチャーが限界量に達した時に行われる放熱システムだ。まさか一夜で溜まるなんてな。」

「こんなビームになるなら先に言ってよッ!!」


ビショビショになった服の気持ち悪さと出てきた物の驚きをおじさんに放射したけど、鼻でわらって流された。渾身の攻撃をかわされた気分になる。


「だがここでわからないことがある。」

「これ以上に不思議なことってある?!」

「キャンキャン吠えるな。分からないことがあったら、まず観測、それから分析、そして実践だ。観測はもうしてるから今から分析する。とりあえずまぁ、コーヒーだな。」


おじさんは僕を窘めて、ベルトを外した。











僕はおじさんに貰ったバスタオルを羽織ってみる。優しくて花の匂いが包む香りと、折れた腕の痛みがズキズキと頭の隅っこを突いていた。


「では大河くん。思い出して欲しいのはあの時のことだ。楊枝くんに爪当てられた時、何を考えた。」


おじさんに言われたことで思い出す、人生初めての死の恐怖。それを考えると今更だけど怖くなってきた。


「怖かった、んだと思う。あの時何も考えられなかったんだ。」


変わり果てた兄代わりの人は、もう以前とは別人になっていた。白い肌は痩せこけ、今まで見たこともないほどに髭は伸び、乾ききってひび割れる唇。フードから覗かせる僅かな面影はもう殆どが勘で当てているようなものだ。

おぞましい記憶を止めたのはおじさんの一言だった。


「運が良かったな。」


そうだ本当にそうだと思う。


「頭で何が起きたのか理解出来ないけど、体を守る反応と俺のスーツが繋いだんだ。」


おじさんは肩から覗く金属フレームを人差し指で小突いた。


「恐らく君は指でつかれることを想像していた。だが現実問題、5発の爪が襲ってきた。超人遺伝子で対応出来たのは1発分で、3発はフレームに当たって跳弾、残りの1つは左腕を掠めた。骨が折れて逸れたんだろうな。」

「...ギリギリだったんだ」

「そうだ。それは楊枝くんも変わりないだろうけどな。」


タオルに包まる僕の目線に合わせるように、おじさんは膝を着いた。綺麗に澄んだ目が僕の瞳の奥に潜む心を捉える。


「ほっとけば警察か超人隠匿機関に捕まる。そうしなければ犯罪をする。今現状で考えれば俺たちが彼を救える唯一の存在だ。」

「でもどうしたらいいかわからないよ。」

「大河は自分の力と勇気、それから俺の秘密兵器を使えばいい。後は俺がなんとかしてやる。」


おじさんの目の奥で燃える何かを僕は感じた。その火はもうおじさんだけの物じゃない。僕も持っているものだ。


「やる気だな。なら作戦会議にしよう。明日からし___」

「ダメッ」


立ち上がろうとするおじさんの白衣を掴んで止める。この胸の火はもう燃えている。


「今から行こう。あしたやろうは、ばかやろうだから。」

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