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マクスウェルの悪魔  作者: ガバガバ
最初の1日
2/9

家族会議

時間は8時、時計の秒針が刻む音だけ響く静かな和室。畳の上には木目の太く重い机があり、それを4人が囲むように座っている。

僕の対面に座るのはシワが寄れて汚い白衣を羽織り、目のクマが酷い慎二おじさんが胡座をかいて、僕を見つめているなんだコイツ。文句でもあるのか。あるか。ごめんね。

僕の左側には威圧感を隠す事もせず、腕組み正座で鎮座する大男。作業着に加えてスキンヘッドで厳つい顔の父親 健太郎がいる。居ると言うより般若が降臨しているように見える。

それを諌めるように健太郎の対面に座るのは、長く綺麗な黒髪の母親 あゆみ。ピンクのセーターから主張する大きなバストが悩みの母は、困ったように眉を八の字にしてアラアラと手を右頬に添えている。僕は知っている。このポーズは怒ってる自分を抑えるための行為だと。


この場にいる彼らの意識は言わずもがな僕だ。慎二おじさんの家に逃げた挙句、事故って気絶したからなのはいう間でもない。だが今回の議題はそこではなさそうだ。


「おい慎二。早く話せ。」


流石父親。静まり返る和室に居たたまれなさも、足の痺れも限界だった。さっさと話してくれおじさん。

だがおじさんはんーっと口を紡いで僕を見るのみだった。流石に気が悪いと、僕も口を出してみた。


「おじさん?どうしたの?なんで僕を見ているの?」

「...なぁ大河。本当に体調に変化はないか?」

「うん。」


慎二さんはふぅんと息を吐くと、視線を健太郎に移した。


「話そう兄貴。」

「ダメだ。まずは大河の事だけ話してくれ。」

「はぁ?!もう隠せないっての。」

「それとこれとは話は別だ。言ったろう。この子に重荷を背負わせたくないし、もし話すべきなら時期を待ちたいんだ。

「はぁ?重荷?そんなわけないだろ用意だろ。そら兄貴が単に言いたくないだけで...」


まるで導火線だ。火がついた親父は立ち上がって吠える。


「だからそれは時期を待ちたいって言ってるだろぉがッ」

「待ちたいのは兄貴の方だろうが!!メソメソ自分の過去から逃げ回りや___」


「コホン。」


口論という名前の嵐が、母の咳払いで止まった。


「あなた、慎二さん。子供の前ですよ。」


先程まで荒れていた空気感が凍てついて、2人は畳にしりを付ける。母は強し。覚えておこう。

仕切り直しとなり、慎二おじさんは俺の目を見ながら口を動かした。


「大河、お前の遺伝子は特別ではないんだ。」

「どういうこと?」


僕は人より反応が鈍い。それは単なるとろくさいとは違い、病名がつくADHDというやつだと今日まで聞かされていた。だがそれは僕にとっても違和感だった。それが今ハッキリ分かるという事だと、予感してる。


「遺伝子は多様性に欠けている。人間という括りで見ればそんなことはないけど、それは種族人間から離れないという意味では欠けている。大河。お前はそうじゃない。」

「??」

「わからないよなぁ...あー。お前は超人だ。」

「えっ!それって僕ヒーローってこと?!」


夢想が始まった。頭の中では超人という強烈なワードによって広がる夢物語でいっぱいになった。

こうなることはわかってたのだろう。慎二はすぐ様諌めようとするが、爆発した無限の想像に気圧される。


「あーめんどっ。なぁ大河。」

「どんな力かなぁー?目からビーム打てたり、空飛んだりぃー♪」

「浮つくのは分かるが話を...」

「あぁ!名前はどうしよう!スーパーストロングゼロなんてかっこいいかな?」


すると今度は左頬に何かしなやかの物がぶつかって、時計の音に覆い被さる衝撃音が言葉を途切れさせた。それから後からじわじわと熱くなっていく。唖然とする意識の中で、目に入ったのは怒りに眉を尖らせて、目頭から涙を落とす母の泣き顔だった。


「どれだけ心配したと思ってるの。浮ついてないで話をちゃんと聞きなさい。」

「...ごめんなさい」

「...喋りにくいよあゆみさん。」

「ごめんなさい。いいの。続けて」


妄想は消えて、押し黙り俯く僕に慎二さんは語りかける。


「ふぅ...いいか。今から話すことは説明だ。それを活かすも殺すも君次第だし、ヒーロー云々は自分から言うもんじゃない。救うという点では誰だって同じ立場に着いている。行動と良き心こそがヒーローにするんだ。そうすれば失敗しても、間違いを起こしても、大河はヒーローになれる。いいな。」

「わかった。」

「よし。じゃあ今から説明することは超能力としては聞くな、体質だとでも思ってくれ。君を変化させたのは体に組み込まれてしまっている覚醒超人遺伝子によるものだ。」


後天性覚醒超人遺伝子。

人間のレシピとなる遺伝子には多様性があり、その中でも特異で希少な存在が覚醒超人遺伝子。人によっては生まれ持って超人となるが、僕の場合は後天性だと言う。


「ざっくりまとめるとこんな感じ。」

「...そんな話聞いた事ないよ。」

「それはそうだろうな。何せ今でなお秘匿とされる代物だ。これを話した理由でもあるが、大河に守って欲しいことがある。」


慎二は両肘を着いて、視線の高さを俺に合わせる。俺の目をよく見るため、この視線を外さ無いためだ。

単なる段落だと思った。でも違う。これからおじさんから出る言葉がどれほど重要なのか、いつもと違う張り詰めた表情から、僕の子供な心に響いてきた。


「いいか。能力の事は黙ってろ。誰にも、この場にいる人間以外には決して漏らすな。」

「な、なんでか理由を聞いてもいい?」

「日本国超人隠匿機関というのがある。決して表には出てこず、超人達を守る為その存在を隠す為に存在しているチームだ。彼らに大河のことがバレると不味いことになる。」

「まずいこと...」

「かなりまずいことになる。ひとつは将来性が潰される。職業選定する上でかなり間口が絞られる。ふたつ、彼らの言うこと守れなかった場合は武力行使も厭わない行動で制圧される。わかるか?大河を含めた超人を縛る法律がない。その代わりに彼らが法律になるんだ。」

「わかった。」

「そうだよな...子供には難しいよな。____え、わかった?」


細々したことはわからないけど、大人達は僕のことを守ろうとしてくれてることがわかった。だから今はその考えを置いておこうと思う。きっと時間をかければ分かるはずだから。


そんな考えを知らない慎二おじさんは、鳩が豆鉄砲をくらったような顔になって同じ言葉を繰り返した。


「本当わかったのか?」

「うん。」

「本当に?」

「うん。」

「本当の本当に?」

「だからわかったって。またゆっくりちゃんと教えてよ。」


あまりに素っ頓狂な反応で笑ってしまった。するとやっと納得したのか笑顔をになって机を軽く叩く。


「よしありがとう___俺が力の使い方を教えてやる。」

「えっ?」

「おい慎二。」

「なんだよ兄貴約束したろ?大河が能力を覚醒したら、俺が教えるってやつ。てかそもそも彼の力は脳筋じゃ無理、媒体と科学知識がいるんだよ。」


そう言えば大事なことを聞くのを忘れた。まるで火中の栗を拾うつもりで飛び込んだ。


「ねぇおじさん。僕の力ってなんなの?」

「そうそれそれ。それを言うのを忘れてた。まぁまだちゃんとした検査をしてないから詳しくはわからないが、お前の能力はすごいぞ。媒介を経て界面エネルギーを自在に操る力____摩擦係数をゼロにすることだ。」



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