第71話 東京都の精鋭
過酷な冬が過ぎて月日は経ち、桜が美しく咲き乱れる頃。
東京都の中学生が集まる選考会の会場に祐輝はいた。
そこには東京中から集まった自信に満ち溢れた球児達が東京都の旗を背負うために磨いた技術を披露する場所だ。
総勢200名もの球児達が8チームに分けられて試合をする。
これも運命なのか祐輝のチームには越田の姿があった。
新宿区代表としてこの選考会に来ているのは祐輝と越田のみだった。
共にグラウンドに入りウォーミングアップを始める。
緊張した様子の祐輝を見て馬鹿にした表情で肩をポンポンと叩いている。
「お前緊張してんのか?」
「そう言う越田こそ。」
越田は「馬鹿かお前。」と呆れた表情で鼻で笑っている。
そして越田は祐輝の胸元をボンッと押して「俺ほどのバッターは東京にいないから普通に投げれば打たれねえよ。」と得意げに言っている。
その言葉に安心した祐輝は「そっくり返す。」と言うとどこか嬉しそうに笑って2人はキャッチボールを始めた。
いつもの頼りない健太とは異なり投げる相手は怪童越田だ。
祐輝は気持ちを落ち着かせて冷静に考え始めると自分がどれだけ幸せな空間にいるのかと気がついた。
倒したくてたまらない相手だが、味方になると心強い越田。
祐輝の回転数の良いストレートをなんとも見事なキャッチ音で捕っている。
すると周囲の球児達が越田を見てどよめいている。
「あれが関東3位の4番だぜ。」
球児達の注目は越田に集中していた。
それと同時にあの越田と平然とキャッチボールをしているあいつは誰だとコソコソと話している。
祐輝は不安になり悪送球を投げると越田は「自分で取ってこい。」と後ろに指差した。
走ってボールを取ってくると越田は「お前の事をあいつらは知らない、だから驚かせてやれよ。」と背中を力強く叩いた。
ウォーミングアップが終わり選考会の試合が始まった。
祐輝は尚も緊張した様子でマウンドへ走っていく。
どっしりと座ってキャッチャーミットを構える越田の様子は緊張する祐輝を安心させる。
「あれが才能か。 構えてるだけで安心する。」
祐輝はゆったりとしたフォームで先頭打者に投げ込んだ。
そして快音と共にキャッチャーミットに吸い込まれる祐輝の速いストレートは球場にいる全員を驚かせた。
「あいつ誰だ?」と驚く球児と無言だがじっと見つめる審査員達の視線が集まっている。
そして2球目はカーブを投げた。
祐輝の変化量の大きいカーブも越田は難なく捕球するとしっかりと頷いて「ナイスボール。」と声を上げている。
そして3球目。
越田が出したサインはストレートだ。
「自慢のストレートを見せろ。」と言っているかの様にアウトコース低めに構えていた。
落ち着いて投げ込んだストレートは不思議なぐらい越田の構えた所へ綺麗に決まる。
これが才能なのか?
越田という怪童は投手の能力を最大限にまで引き出す事のできる不思議な力を持っている。
祐輝のストレートは常に最高速度だ。
「ストライクッ! バッターアウト!」
先頭打者を三振に取った祐輝と越田は互いに頷いた。




