第4話 コミュ力0コーチ
祐一の考えは何処までも理解できなかった。
辞めろと連日祐輝に言っているかと思えば突然タイガースのコーチになった。
そして週末。
祐一に連れられてグランドに向かった。
タイガースの監督は嬉しそうに祐一を迎えた。
祐輝は何も言わずに黙っていた。
練習が始まりキャッチボールをいつもの様に一輝と行っていた。
「おーいいね祐輝! 練習してたからだいぶ上手くなったね!」
「一輝とお父さんのおかげだよ。 ありがとうね。」
「親友が上手くなってくれるのは嬉しいよ!!」
2人はやっちキャッチボールといえるほどになった。
タイガースのメンバーが広がってキャッチボールをしている中でも祐一はグランドの端で腕を組んで立っている。
祐一の前にボールが転がると黙って投げ返すだけ。
子供達に指導も激励もない。
祐輝はそんな父親を見ている事が恥ずかしかった。
時を同じくして一輝の父親の浩一もタイガースのコーチになった。
浩一は子供達に野球を教えては楽しそうに他のコーチとも関わっている。
しかし祐一は黙って立っているだけ。
練習は進んで祐輝の大好きなバッティング練習になった。
選手達が交代交代でバッターとなる。
打たない選手は各ポジションに入った。
祐輝はファーストという一塁手というポジションだ。
難易度は比較的簡単で最低限の打球と他のポジションからの送球を捕る役目がある。
一方一輝は本職はピッチャーでサード、ショートの3箇所のポジションを持っていた。
どのポジションも難易度は難しい。
しかし一輝は難なくこなしている。
親友の華麗な守備力に祐輝は憧れた。
「お、俺もサードやってもいいかな。」
「おう練習すればできるよ!」
「ファーストに戻れ。」
「祐一コーチ。」
祐輝がポジションを動いた時だけ祐一は言葉を発した。
不思議そうに一輝は見ているが祐一は一輝を見る事もなく「ファーストに戻れ」を連呼した。
明らかに不満げな祐輝は無視をしてサードの守りについた。
すると祐一は祐輝のユニフォームを掴んでグランドを横断してファーストへ連れて行った。
その間も練習は中断されてタイガースのメンバー達が祐一が横切るのを見ている。
祐輝は恥ずかしさと苛立ちで泣いている。
「泣くなみっともない。 お前は下手なんだからファーストやれ。」
「他のポジションもやりたい。」
「ファーストは墓場と言われるポジションだ。 打てない選手がファーストにいる意味はない。」
ファーストとは体力の消耗が一番少ないポジションと言っても過言ではない。
ここでルールを少し説明すると、バッターが打った球を一輝や他の選手が守る「野手」というポジションが補給する。
野手とは守りに入っている全ての選手を言う。
補給した球をファーストと呼ばれる祐輝のポジションに投げる必要がある。
打ったバッターは走り、野手から投げられる球をファーストがキャッチするより前に一塁ベースを踏めばセーフ。
間に合わなければアウトとなる。
もちろんファーストにも打球は飛んでくる。
それはキャッチして自分でベースを踏めば問題ない。
ファーストへボールを投げなくてもアウトになる例外がある。
それはバッターが打ってから一度も地面にボールがつかなかった場合だ。
ノーバウンドというが、その場合のみファーストへ投げる必要がない。
ちなみに草野球では年配の選手が入るポジションである。
守備での労力が少ない分、攻撃では活躍が期待される。
つまりバッティングでしっかり打てる選手が求められる。
「おーい祐輝。」
バッターが交代して祐輝がバットを握る。
父親の祐一を驚かせる時が来た。
投げられたボールを祐輝は快音と共に外野の守るグランドの端まで飛ばした。
小1でここまで飛ばせる選手は少ない。
タイガースのメンバーがどよめく中で祐輝はバッティングを終えて祐一が立つファーストへ戻った。
「どうだった?」
「もっとクイッとしろ。 じゃないと飛ばない。」
「・・・クイッと?」
「そうだ。」
「・・・・・・」
祐輝はまた恥ずかしさに包まれた。
隣に立つ先輩のファーストの選手が苦笑いしている。
その時思った。
どうしてコーチになったのかと。
心底恥ずかしくなったまま練習は終わった。