8. 新人冒険者への洗礼
「依頼の完了報告です。確認をお願いします。」
「かしこまりました。ギルド証お預かりします。───オルパラスの納品依頼が3つですね。こちらのトレーに出していただけますか。」
受付嬢さんの指示に従い、理科の授業で使うような銀のトレーに採ってきた薬草を全て出していく。
「───はい、60株確認いたしました。こちらが報酬の7200Dです。」
「ありがとうございます。」
お金をマジックバッグにしまい、お礼を言ってその場を後にした。
この世界で初めてお金を稼いだという事実に熱いものがこみあげてくる。
「これで今日の宿代分は稼げたけどこれで終わりじゃない。依頼がまだあるといいんだけど───よしよし、3つともあるな。」
Fランクの依頼の中でも落とし物探しは特に人気が低い……というかぶっちゃけ依頼を受ける人がほとんどいない。
その理由は単純で「面倒くさいから」だ。
どのあたりで落とした、等の情報はもらえるものの、そもそも簡単に見つかるならわざわざギルドに依頼を持ってこない訳で。
更に言えば依頼には期限があり、それを過ぎてしまうと失敗扱いになる。
依頼を失敗すると当然ギルドからの信用は落ち、回数が多い場合は降格ということにもなる。
最底辺のFランクなら問題ないと思うかもしれないが、Fランクでも失敗を繰り返すとその後の昇格に支障が出てしまう。
その背景をギルド側も把握しているので報酬額を高く設定しているのだが、それがかえって地雷感を強めてしまっているので皮肉な話だ。
そんな訳で、報酬の高さに釣られた新人冒険者がこのトラップに引っかかるのは、もはや一種の洗礼のようになっている。
(俺も最初はこれに釣られたんだよなぁ、懐かしい。今思えば他の依頼より一回り高くて怪しいと分かるけど当時はラッキーとしか思わなかったんだよな……。まぁそのおかげで明らかに報酬の高い依頼に対して敏感になったし良い教訓ではあるんだけど。)
プレイヤーたちから地雷系と呼ばれていた依頼は実はそこそこあったりするのだが、それはまた別の話。
今の目的は依頼を6つ終わらせることなのでササっと片づけてしまおう。
Fと書かれた掲示板に貼られている紙を3枚剥がし、先程とは別の窓口へ持っていく。
「この依頼を受けます。」
「はいはいかしこまり~……って君、これ3つも受けるの?」
「はい、そうですが……何かダメでしたか?」
「いーや、ダメってことはないからだいじょーぶ。一応確認しただけだよ。それじゃギルド証借りるね───やっぱ今日登録したばっかりかー。はい、これでギルド証に依頼が登録されたよ。期限は3日だね。頑張ってね。」
「ありがとうございました。」
先ほどと同じように会釈をしてその場を後にする。
(あの受付嬢さんの感じからして、恐らく俺のことを「罠にかかった新人」のように思っているんだろうなぁ。ドヤ顔で今すぐ完了報告することもできるけど……そうすると怪しまれるし、少し時間置いてからまた来ようかな。)
落とし物探しは見つけてから依頼を受けるというのがセオリーではあるのだが、今日ギルドに初めて来た人が3つ全部持ってるのは流石に怪しまれてしまう。ソースはトリワル。
怪しまれてもゲームではそんなに気にならなかったけど、現実になった今、同じ展開になるとは限らない。
それならば少し時間をおいて、多少怪しまれてもラッキーで通せるようにしておくのがベターだろう。
ちょうどお腹も空いてるし、昼食を食べてランクアップのための他の条件を満たしに行けば良い感じに時間を潰すことができるはず。
「腹が減ってはなんとやらってことでまずは昼食探すかな。昨日食べた肉串がめっちゃ美味かった……うん、考えてたらまた食べたくなってきたわ。」
俺の中でコスパ最強説が囁かれている肉串を思い浮かべていると、腹も肉の気分になってきたため、それに抗うことなく昨日と同じ店へ足を運ぶ。
「そうそう、これだよこれ! 肉うまうま。」
街路樹に寄りかかりながら焼き肉に舌鼓を打つ。
今日は特製タレの方を買ったのだが、甘辛いタレとジューシーな肉のハーモニーがなんたらかんたらで……とにかく美味かった!
思わず語彙を忘れる程美味いってことだな!ヨシ!
そんな風に脳内でボケつつ、なんとなしにステータスを表示してみる。
教会で作った身分証からホログラムのようなウィンドウが飛び出し、胸のあたりでピタッと止まった。
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クロト Lv 1
所属:冒険者ギルド
Fランク
SP 0 pt
HP 10
MP 10
STR 0
INT 10
STM 0(+0)
DEF 0
AGI 0
DEX 0
SEN 0
《称号》
初級冒険者
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「ん?」
下まで目を通し、称号の欄を見たところで首を傾げる。
「あれ、いつの間にか『駆け出し冒険者』が『初級冒険者』に進化してる?」
この称号というのは条件を満たしたときに自動で獲得・進化していくもので、獲得すると各種ステータスが上昇する等の恩恵を得ることができ、例えばSTMの数値0の右に(+0)と書いてあるのは『~冒険者』という称号がSTMのステータスを割合で上昇させる効果だからだ。
しかし、この『~冒険者』という称号は確かにステータスを上昇させる効果があるのだが、それの他に冒険者のランクアップにも大きく関わってくる。
というのも、冒険者ギルドが昇格をするか決める際に判断材料となるのがこの称号なのだ。
ゲーム内では、『称号=女神に認められた証』という設定だった。
「だからこそ、この称号が進化したときは「それだけの実力を持っている」と女神から直々に認められたってことでランクアップができるんだよな。」
今まで言っていたランクアップのための条件というのはつまり、『駆け出し冒険者』という称号が『初級冒険者』に進化するための条件ということだ。
その内容は、
・依頼を6つ完了する
・武器を装備する
の2つ。
依頼の完了に関しては正式にはまだ3つだが、実質終わっているようなものなので満たしたことになっているのだろう。
それはまだ理解できるとして、武器の装備というのが分からない。
この後適当に安めな剣を買いに行こうと思っていたのだが……。
そこでふと左手に持っているものが視界に入る。
「えっ……マジで?」
確かに剣っぽい見た目だし肉を刺せるだけの鋭さもありはするけど……。
この串って武器扱いなんですか!? 女神様!
皆さんがタイトルから想像した内容とはだいぶかけ離れているだろうと思うので釣りタイトル感が否めないですね笑。まぁ変えないんですが。(鋼の意思)
今話も本来はなかったはずなんですが、推敲しているうちにインスピレーションが沸いてつい書いてしまったんですよね~
前話と今話でステータスの内容全然違うと思う方がいらっしゃるかもしれないですが、前話で書いたステータスは初日時点でのものであり、ギルドに登録したのは2日目なのでこうなっています。ギルドに登録し、『駆け出し冒険者』になったことで称号欄も新しく表示されるようになったという形ですね。
今後色々増えていくであろう称号を全て載せるかどうかが悩みどころです……