6. 2日目
先週は延期してしまいすみませんでした!
あの後詳しいお医者さんに診てもらい、結果から言えばかなり軽度の症状でした。
同じ症状で1週間近く入院した人が身近にいたためにめっちゃビビっていたんですが、いい意味で裏切られました。
さて、先述したとおり今週は複数話(恐らく2話)の投稿となります。
長々とここまでお読みいただきありがとうございました。
早朝。
両開きの木窓を開けると、朝一番の新鮮な空気が室内に入り込んできた。
昨夜、宴会もかくやという程騒がしかった階下は鳴りを潜め、鳥のさえずりが町の中に響く。
暗かった町には朝日が差し込み始め、1日の始まりを告げている。
そんな中で脳裏に蘇るのは、つい先程まで見ていた自身の、「一勢玄人」の葬式。
家族だけの葬式だったけど、皆の悲しんでいた顔は今でも鮮明に覚えているし、思い出すたびに生前「あれをやればよかった」「これをやっておけばよかった」と後悔が押し寄せる。
改めて振り返ると、凄く恵まれた人生だったなと思う。
家族、友人、先生……たくさんの人の支えがあったからこそ何不自由なく生活できていた。
それに関して当たり前だと思っていた訳ではないけど……こういうのって失ってから初めて真にその大切さに気が付くんだよな。
「ま、今となってはもう叶わない願いなんだけどね。」
あれからどれだけ頬をつねっても、頑張って目を瞑ってみても、あの部屋に戻ることはできなかった。
それになんとなくだけど、この世界で生きていかないといけないような……そんな気がする。
悲しい気持ちは当然あるけど、過去に戻れる訳ではないし、いつまでも過ぎたことを気にしていても仕方がない。
ならば俺がやるべきは、前世の思い出を振り返ることではなく、最速の邪神討伐に向けて準備を進めるのみだ。
気を引き締めるように頬を叩き、パンと乾いた音が部屋に響き渡る。
「───よし。Xデーまであと1週間。若干の余裕はあるし、焦らずに行こう。まずは冒険者ギルドへの登録からだな。」
忘れ物が無いことを確認し、部屋のドアを開ける。
打倒邪神を胸に、俺はクロトとしての第一歩を踏み出した。
冒険者。
ゲームや創作などでよく見るこの職業は、単なる冒険家とは少し意味合いが異なる。
作品によって細かい違いはあれど、基本的には依頼をこなして報酬をもらう、請負という業務形態であり、この世界の冒険者も例に漏れず、同じような仕組みの職業となっている。
また、冒険者はランク付けがされており、Fから始まってAAAまでの8段階に分かれている。
高ランクになるほど高難易度・高報酬の依頼を受けることができ、最高ランクの依頼は1つ完了するだけで家を買えるくらいの報酬額にもなる。
とはいえ、登録したばかりの最低ランクで受けられる依頼は難易度も最底辺であり、例を挙げるなら「落とし物の捜索」や「薬草の採取」など、冒険者のぼの字もないものばかりだ。
幼稚園児でもできそうな雑事のどこが冒険なんだと思うが、そもそも冒険者という名前の由来は、収入の安定しない仕事をしている人たちを「冒険者」と揶揄したことから付けられたらしい。
───少し話題が逸れてしまったな。まぁ要するに……
「やーっと終わったー。」
滴る汗を手の甲で拭い、その場に腰を下ろす。
木漏れ日を浴びながら少しの間休憩し、暫くしておもむろに立ち上がるとポーチバッグの中に手を突っ込み、一つずつ取り出して目視で確認を行う。
「58……59……よし、これで60株だな。」
手に取った草はよもぎに似た葉の形をしており、一見すると何の変哲もない雑草に見えるが、これは『オルパラス』という名前の付いた立派な薬草だ。
確認を終えた薬草をバッグの中にしまい、町に向けて来た道を戻っていく。
RTAをしようと意気込んだくせになぜ薬草採取の依頼をしているのか。
それには冒険者のランク制度が関わってくる。
冒険者ギルドに登録したばかりである俺のランクはF。
邪神を倒すにはある程度『レベル』を上げる必要があり、レベルを上げるには『ダンジョン』で『魔物』を倒さないといけない。
そして、そのダンジョンにはランクE以上でない入ることができない。
そんな訳で先程までEランクに昇格するため草むしりに精を出していたのだ。
「いやーそれにしてもマジックバッグってリアルで見ると違和感が凄いな。」
ギルドから一時的に借りているこのチェック柄のポーチも一見すると何の変哲もないが、その中には見た目の数倍の空間がある。
いくら草とはいえ1株の大きさはそれなりのものであり、それが60株ともなれば最低でもリュックサック程度の容量は必要になる。
それなのにも関わらず、長財布より一回り程度大きいサイズのポーチに全て入りきって、尚且つ重さの変化を感じないのは、流石ファンタジーという感想しか出てこない。
このポーチ型はマジックバッグの中では1番容量の少ないタイプであり、ショルダーバッグ型、ハンドバッグ型、バックパック型の順で大きくなっていき、最も容量の多いボストンバッグ型ともなると馬車数台は余裕で入ってしまう。
ボストン型は非常に珍しいため高額で取引されており、金持ちの中では一種のステータスにもなっている。
個人的にボストン型はオーバースペック過ぎるからそんな大金を払ってまで欲しいか?とも思うけど……金持ちには金持ちなりの事情があるんだろうか。
とはいえ、これはあくまでもボストン型の話であって、最下級のポーチ型となるとその価値はガクッと下がる。
この世界にはダンジョンと呼ばれる、モンスターの住処のような場所があり、マジックバッグ類はそこで発見される宝箱から手に入れることができる。
ダンジョンのによって宝箱の中身も変化するのだが、ポーチ型のマジックバッグはどのダンジョンの宝箱からも出現し、さらにその確率も5割弱とかなり高いため、特にダンジョンが近くにある町では数千Dと割と手頃な価格で買うことができる。
「やっぱあるのとないのとじゃ大違いだよなぁ。今は金欠だから難しいけどもう少し余裕出来たら買おうのもアリ……いやでもダンジョン潜るようになったら意外とすぐ手に入るかもだしなぁ。」
今はレンタルという形だけど、無料という訳ではないので長い期間借りるとなるとそれなりの負担になる。
それならいっそ早いうちに買っておいた方が結果的には安上がりになる可能性があるが、そもそもダンジョンに入るようになってすぐに自力で手に入れられるかもしれない。
そんな板挟みでうんうんと頭を悩ませていると、いつの間にか門の前まで帰ってきていた。
前話の感想で玄人くんの死因が気になるというコメントがありましたので(幻視)
特別にお話ししちゃいます!(言いたいだけ)
玄人くん(享年19歳)の死因は・・・
「寿命」です!
まぁ本来の寿命はもっと長かったんですけどねぇ~(暗黒微笑)
─────
「クロトはトリワルの世界に入りたいと思ったことはある?」
「それは、勿論ありますよ。───さんはどうです?」
「僕か……うん、僕も入ってみたいかな。」
「あれ即決かと思ったんですけど案外悩むんですね。俺はやっぱり魔法を使ってみたいなーって思うんですけど、───さんは何かしたいことありますか?」
「うーん……すぐには思いつかないけど強いて挙げるなら──」
「挙げるなら?」
「クロトと手合わせしてみたい、かな。」