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5. 綺麗な顔してるだろ。

 目が覚めたら妹と入れ替わっていた。


 正確に言えば意識だけが入り込んでいるような……憑依と言った方が正しいかもしれない。


 ただひたすら一人称視点の映像を見ているような感覚だ。


 さて現実のほうに意識を戻すと、既に両親含め3人とも朝食を食べ始めていた。


 うちは家族4人とも外出の時間が大体同じのため、基本的には家族揃って朝食を食べる。


 俺の隣に天音が座り、それぞれの対面に父と母が座る見慣れた光景。


 いつもと違うのは天音の視点であることと、当然ながら俺の姿が食卓にないことか。


 ……なんだろう、この違和感。


(いやまぁ、今のこの状況がそもそもおかしいっていう話ではあるんだけどね。でも、俺がいないこと以外でなんかこう、雰囲気みたいなものが違うんだよな。)


 レースのカーテンの隙間からは陽光が差し込んでおり、部屋は明るいはずなのにどこか暗い雰囲気がある。


 ……顔色、か?


 向かいにいる母の顔は元気がなさそうな感じだし、父の方も心なしか疲れているように見える。


 そういえばさっき天音の顔を見た時、泣き腫らした跡があったような。


 この、家族の様子が変なことと俺の姿がいないことに何か関係はあるんだろうか───


 そう考えたところで違和感の正体に気が付いた。


(母さんの服、黒と白しかなくない?)


 ここまでに散りばめられていた点と点が一つの線で結ばれていく感覚。


 ……これってつまり、そういうことなのか?


(いやいやいや、まさかそんなわけ。まだ19だぜ? 平均寿命の4分の1もいってないのにそんな、ねぇ?)











 Q、今目の前にあるものは何か、10文字以内で答えよ。


 A、正解は「自分の死体が入った棺」でした!


 って死んどるやないかーい!


 ……とまぁクソみたいな茶番はどこかにぶん投げといて、結論から言うと、予想通り俺は死んでいるっぽい。


 "ぽい"と言ったのは、そもそもこの状況が半信半疑だというのが半分で、もう半分は棺の中の自分があまりにも自然すぎて今にも目を開けそうだからだ。


 参列している家族やじいちゃんばあちゃんは泣き崩れているのに、当の本人はどこ吹く風と白い箱の中ですやすやと安らかに眠っているのが我ながらもやもやする。




 夢にしてはリアリティがありすぎると思った。


 しかし、それと同時に夢であってほしいとも思っていた。






 それから定刻になり、お坊さんが入ってきて読経が始まった。


 ここまでたくさん時間があったので死因について考えてみたのだが、正直なところ全くもって心当たりがない。


 持病はないし、家族も健康だったので何かしらの病気が移ったとも考えにくい。


 そもそも、痛みや苦しみを感じていないので傷害という線もないと思う。


 そうなってくると残る可能性は寿命か心臓系の何かになってくるのだが、寿命はさすがにあり得ないので消去法的に心臓系の発作が起こったんじゃなかろうかと予想している。


(生活習慣が悪いと不整脈とかになったりするのは分かるけど、俺の場合そこまで悪くなかったはずなんだけどなぁ……ま、現に死んでいる(?)んだし説得力無いけど。)


 と、そうこうしているうちに焼香や告別式が滞りなく進行していき、いよいよ火葬の時がやってきた。


 自分のことのはずなのにどこか他人事に思えるのは、今もこうして自我が残っているからなのだろうか。


 玄人として生きた19年の記憶が脳裏に蘇る。




 父の、太い腕で抱きかかえられる俺。


 母の、愛のこもった笑顔を向けられる俺。


 妹の、うるうるとした上目遣いに応えるべく奮起する俺。


 祖父母と、友人と、そして才稀(さっちゃん)との思い出が頭を駆け巡る。


(こうして思い出すと俺って相当恵まれてたんだな……みんな、ごめん。)


 先に逝ってしまうことへの謝罪なのか、それとも、不謹慎にも嬉しく(・・・)思っていることへの弁解なのか。




 火葬炉の奥へ棺が入っていき、重々しい音を立てて扉が閉じられる。











「またね。」











  □  □  □  □  □

 



 さっきまでとは違う、神経が体の隅々まで届いているような感覚から、直感的に現実に戻ってきたのだと理解する。


 果たしてどちらの世界に戻ってきたのか。


 恐る恐る目を開けると、昨日泊まった宿屋の一室に戻ってきていた。


「なるほど」


 思わず思わせぶりなことを呟いてみたが、正直何も分かっていない。


 でも、これだけは自信を持って言える。




 一勢玄人は死んだんだ、と───

少しややこしい展開にしてしまってすみません。

次話からは舞台が戻ってクロトくんの計画通りRTAのほうに進んでいきます。



少しメタ的なことを言うと、「主人公が前世のありがたみを思い出しつつも決別をする」というシーンを前々から書きたかったんですよね。

異世界転生(転移)系ってほとんどの場合、「異世界ヤッター」になるけど、この世界もなんだかんだで良くない?と。

勿論、そういう作品が嫌いなわけではないですよ?

でも、作品の一個性としてこういう展開もありなんじゃないかな、という話で……


ストーリーのスムーズさとかを考えるとすごい遠回りになるんですけど、やっぱり書きたい部分を書くのってすごく楽しいですね。


長くなってしまいましたが、前述の通り次話からはRTAのほうに戻りますのでお楽しみに。




PS:『さっちゃん』なる人物の本名は『神代才稀(かみしろさき)』と言います。(盛大なネタバレ)

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