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4. 自分の部屋……?

 時に、「胡蝶の夢」という言葉がある。


 これは"現実と夢の区別がつかない"ことを例えた言葉で、中国の思想家「荘子」の逸話が元になっている。


 荘子は夢の中で蝶となり自由に飛び回っていた。しかし、目が覚めると自分が荘子であることに気付く。ここで荘子は「自分が荘子として蝶になった夢を見ていたのか、それとも蝶が荘子の夢を見ているのか」と疑問に思った、という話だ。


 俺はこれを高1の古典の授業で読み、その当時、少なくない衝撃を受けた。


 そこから一時期、荘子の考え方や名言を調べるのがマイブームになったっけ……




 さて、何故そんなことを考えているのかと言うと───


 意識を現実に戻し、目線だけ(・・・・)で辺りを見回す。


 窓の位置、カーテンの柄、漫画やフィギュアが並べられた本棚。






 間違いない。ここは俺の……一勢玄人(いちせくろと)の部屋だ───











 どれくらい時間が経っただろうか。


 あまりにもショッキングだったせいか金縛りで体が思うように動かず、仰向けのまま、ただただボーっとする時間が続いていた。


 その最中、頭の中では昨日見た景色がフラッシュバックしていた。


 半日程度だったとはいえ、体を動かしたり、食べたり……五感を使ったあの体験は間違いなく現実と同じだった。


 しかし、今見えているこの部屋もまた、間違いなく自分の部屋であり、現実のものだ。


 果たしてどちらが本当の自分で、どちらが夢なのだろうか───


(ま、恐らくはこっちが本当だろうけどね。そもそも過ごしてきた時間が約19年と半日で圧倒的に違うし、『トリワル』の世界にいた時も自意識は『玄人』のままだったからな……。あーあ、せっかく理想の世界で過ごせると思った、のに───)


 そこまで考えて、ふと疑問が頭を過る。


(……確かにゲームの世界は素晴らしいけど、別にこっちの世界でも不満無くないか?)


 小中高と近所にある公立に通い、そこそこの成績でそこそこの大学に入学。友達付き合いだって悪くないし、趣味もちゃんとある。


 バイトは今はやってないけど、そもそもお金をそんなに使わないこともあってお金にも困ってない。


 家族仲も親とは良い方だし、あいつも……まぁそういう時期だってことを考えれば至って普通の部類だと思う。


 社会人として働いていたら、もしかしたらゲームの世界のほうが良いってなるのかもしれないけどね。


 冷静に考えたら俺の現状では寧ろ、仲の良い人と別れることになるゲームの世界の方が辛いかもしれない。


 そんな風に結論付け、いい加減起きないとなと思ったその時。視界に変化が現れた。


(あれ、なんか視界がぼやけてきた。これは……涙?)


 どうしてこのタイミングで涙が?


(平気な風に考えてたけど、内心ではゲームの世界じゃなくてめっちゃがっかりしていた、とか?)


 考えながらそれは無いだろうと否定するが、それ以外に全く理由が思いつかない。


 と、そうこうしているうちにまたしても視界に変化が。


 今度はどこからともなく(・・・・・・・・)現れた両手が涙を拭い、視界が一時的にクリアになる。






(─────は?)




 


 一仕事を終えてフェードアウトしていく両手を、ただ呆然と眺める。


 今のは、何だ?


 手の行方を追うために首を動かそうとするが、視界はピクリとも動かない。


(おかしいな。まだ金縛り中のはずなんだけd───)


 体が動かないことを確認した直後、体がグッと起き上がり、部屋の様子がはっきりと確認できるようになった。


(うん、やっぱり俺の部屋だな───って、え!? これ今どういう状況!?)


 さっきから意味不明なことが起こりすぎて頭の整理が追い付かない。


(……ふぅ、こういうときこそ明鏡止水の精神で冷静にならないとな。さて、さっきも確認したことだけどまだ俺の体は動かせない、と。)


 体の色んなところを動かそうとするが、全く動かせてる気がしない。


 そもそもの話、感覚がないような……?


(となると、今この体は一体誰が動かしているんだ?)


 意識を視界の方に戻すと、俺の体を動かす何者かはベッドから起き上がっており、部屋の中を物色していた。


 本棚にある漫画の背表紙を指でなぞったり、トリワル専用ハードをこねくり回したり、挙句の果てにはクローゼットにある服を抱きしめて顔を埋めている。


 まるでお手本のような不審者の挙動。


 だが、部屋を出る際に名残惜しそうにしていたのが妙に引っかかる……


 と、その間にも1階へと降りた俺?は迷うことなく洗面所へと向かい───






(─────は?)






 鏡に映った顔を見て絶句した。


 そこにいたのは4歳下の妹、一勢天音(いちせあまね)だった。

今回もやります。

『多分本編では出ない設定開示コーナー』

『トリアル・ワールド(Trial・World)』 製造・開発元は『D'WORLD』

『トリワル』をプレイするにはソフトのほかに専用のハードが必要です。(見た目のイメージはゲーミングPC。別途モニターが必要。)

これは膨大なデータを処理するために必要で、お値段なんと¥79,800。

また、それ以外にも『思考操作ヘッドギア』という文字通りの機能のヘッドギアも付属しています。

普通にコントローラーのみの操作もできますが、ヘッドギアを付けた方ができることの幅が圧倒的に違います。

一つのゲームしかできないくせにクッソ高いですが、クオリティがぶっ飛んでるのでそれでも買う人がたくさんいるという感じですね。

本当はこれの半額でも十分なくらい利益は出せるとかなんとか……




フルダイブ系も含めて今はまだ空想の話でしかないですが、いつの日か実現する日は来るんですかね?

生きてる間に開発されるといいなぁ……

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