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39. 君がッ 倒れるまで 殴るのをやめないッ!

前話のステータス表記が分かりにくいかなと思ったので少し修正しました。


「忘れ物はないな……《転移》!」


 翌朝。


 宿の一室で忘れ物がないか確認した俺は、とある魔法を詠唱した。


 視界が白に染まり、一瞬の浮遊感の後、足に着地の感触が伝わる。


 目を開けると、青々とした木々が目に入る。


 ここは『ロックストンダンジョン』から少し離れたところにある森の中だ。


「いやー、やっぱり便利すぎるなこの魔法。移動時間がゼロになるの最高だわ。」


 昨日のレベルアップで使えるようになった『転移』という魔法は、その名の通り離れた地点へ一瞬で移動することができる魔法だ。


 移動という概念が根本から覆る魔法だが、消費するMPは300とそこそこ重い(・・)


 MPはSP(ステータスポイント)を振ることのできないステータスであるため、本来であればレベル30で使えるようになるのだが、今の俺は称号の効果でMPが増えているので前倒しで使えるという訳だ。


 また、使用後はMPがすっからかんになってしまうので魔法使いの場合はここから戦闘となると厳しいものがあるが、MPポーションの在庫が潤沢にある現状ではそのデメリットもあってないようなものである。


「MPを回復しつつ何事もないかのようにダンジョンに入れば……ふふふ、完璧だ。」


 わざわざ森の中に転移した理由は人目を避けるためだ。


 道のど真ん中や、ダンジョンのロビーに直接転移してしまえば沢山の人に目撃されてしまうし、最悪の場合では身柄を拘束されてしまう可能性すらある。


 ゲームで実際に試している人がいたが、鎧を着た騎士達に囲まれて半ば強制的に兵舎へ連れてかれていた。


 これといった犯罪を起こした訳ではないのでその日の内に解放はされるが、事情聴取されたり研究者から根掘り葉掘り質問されたりと、まぁろくなことにはならない。


 そうすることによって起こるイベントも色々あったりするが……とりあえず今すべきでないことは確かだ。






 移動時間の分、いつもより1時間程早くダンジョンに到着し、待ち時間もそこそこにダンジョンに入ることができた。


 さて、今日からは21階層の攻略となる訳だが、全30階層からなるこのダンジョンでは深層と呼ばれるエリアである。


 それ故、出現する魔物も手強くなってきている。


 その一つが、この階層から新たに登場する魔物───『リビングウェポン』だ。


 直訳すると「生きている武器」であるが、実際に生きている訳ではなく、自律的に動く様がまるで生きているように見えることからそう名付けられている。


 この魔物の特徴は何と言ってもその種類の多さだ。


 リビングウェポンとは空中に浮いている武器の総称であり、それが例えば剣であれば『リビングウェポン:ソード』となるし、槍であれば『リビングウェポン:スピア』となる。


 とはいえ、戦闘中にこんな長ったらしい名前は呼んでいられないので大抵の場合は「ソード」や「スピア」のように略して呼ばれている。


 閑話休題。


 21階層に転移し暫く歩いていると、通路の前方にふよふよ浮いている物体を発見した。


 近付いていくと、それが短剣であることが分かる。


 刃渡りは30センチ程度で、色は黒寄りのグレーだが柄の末端に赤い宝石のようなものが付いている。


 その無骨な見た目は、以前盾と同じタイミングで購入した短剣とよく似ていた。


「……あ、そういえばあの短剣せっかく買ったのに全く使ってなかったな。串が思いのほか強かったのと、魔法で大体何とかなったせいですっかりバッグの肥やしになってたわ。……よし、せっかくだし短剣も少し使ってみるか。」


 マジックバッグから『石の短剣』を取り出して右手に持ち、逆に左手に装備していた盾をバッグにしまう。


 魔法はどちらか片方の手が無手の状態でないと発動できない。


 盾を外すのはリスクがあるが、いざという時には魔法を使えたほうが良いだろうという判断だ。


 幸いなことに相手は1体。


 初戦の相手としては申し分ない。


「いざ、尋常に勝負!」


 無機物なので声が聞こえた訳ではないだろうが、こちらに気付いたような素振りをして『リビングウェポン:ソード』も上段に構える。


「───」


 先に動いたのはソード。


 その動きは単調な突き───と見せかけて直前で一瞬刃先が下がり、直後勢いよく切り上げてくる。


「はっ!」


 咄嗟に刃を重ねて斬撃を弾き反撃を仕掛けるも、逆にあっさりと受け流され、続けて繰り出されるカウンターをバックステップで回避する。


 交互に攻守が逆転しながらの激しい剣戟。


 だが、徐々にではあるもののこちらが押され始めていた。


 これはステータスの問題ではなく、相手が”剣そのもの”であるからだ。


 これが対人戦であれば、攻撃を当てる箇所は体のどこでもいいし、武器を弾いて隙を作ったって良い。


 だが、この相手が剣だった場合はどうなるのか。


 攻撃を当てる箇所が剣本体に制限されて攻めにくくなるのは勿論のこと、攻撃を受け流される可能性が上がってしまう。


 そうなれば有効な一撃を与えるのはかなり難しくなる。


 他にも疲労だったり可動域の制限など不利な条件は多い。


「……はぁ、分かっちゃいたけどかなり厳しいな。」


 とはいえ、人だからこそ明確に勝っている点も当然ある。


 1つは手段の多さ。


 相手は自身の体である武器で攻撃するしかないが、こちらは武器を何でも使えるし、今回は使うつもりはないが魔法だって使える。


 そしてもう1つは柔軟な発想ができるという点だ。


 相手の攻撃は確かに鋭いしフェイントを仕掛けてくることもたまにあるが、基本的に単調で読みやすい攻撃が多い。


「ま、だからと言ってダメージが入らないんじゃ意味ないけど!」


 数度の打ち合いの末、お互いに少し距離を取って睨み合う。


 こちらは一息付けてありがたいが、向こうはメリットなんか無いだろうに……いや、時間をかけると応援が来る可能性もあるか。


「となると……なるべく早く片を付けないとな。」


 そのために狙うのは無骨な短剣の紅一点───コアだ。


「行くぞ!」


 自身を鼓舞するように呟き、体を低くして駆ける。


 コアがあるのは刃の真反対にあるため、直接狙うのは至難の業だ。


 まずはコアをこちらに向かせる必要がある。


「ふっ!」


 下段に構えた短剣を体を起こす勢いも利用して全力で振り上げる。


 受け流せないと判断したソードはひらりと縦に半回転し、回避行動を取る。


「ここだ!」


 跳躍しながらソードの持ち手(・・・)をしっかりと掴む。


 時間にして1秒にも満たない一瞬の出来事。


 全力の集中と、どう動くかを分かっていたからこそできた荒業だ。


 今にも飛びかかってきそうなソードを左手一本で必死に抑え、右手の短剣の柄でコアを何度も殴りつける。


 恥も外聞も投げ捨てて殴ること暫く。


 5回程殴り、そろそろ左手が限界を迎えようかというところでコアにヒビが入る。


「うおおぉぉ! 割れろぉぉ!」


 最後の力を振り絞り7回目の殴打を繰り出す。


 すると、コアがパリンという音を立てて砕け散り、左手にかかる力もフッと消え去った。


「はぁ、はぁ、はぁ、つっかれたー!」


 疲労で倒れたくなるところを膝に力を入れて耐え、その場に落ちていた短剣を拾い上げる。


「……うん、これからは舐めプするのやめよう。」


 息を整えた俺は、そう固く心に誓ってダンジョン攻略を再開した。




因みにジョジョは未履修です。

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