33. 月収120万
思いのほか長くなってしまったので2話に分けました。
この世界の基になったゲーム───「トリアル・ワールド」には、億を超えるNPCがいると言われている。
そして、それら全てには高性能なAIが搭載されており、本物の人間と見紛うようなコミュニケーションが可能となっている。
当然、NPCの全てを把握するのは到底不可能であるが、その中でも現実の有名人のように名の通ったNPCも存在する。
彼ら、彼女らは「ネームドNPC」や「ネームド」などと呼ばれ、仲良くすることができればプレイヤーの大きな助けとなる。
ここで注意すべきなのは、ネームドNPCというのはあくまでもプレイヤー間の中での話であり、必ずしもゲーム中のNPC間での有名人とは限らないということだ。逆も然り。
この、がっしりと肩を組んで現在進行形でギルドの外へ歩いているミストさんもそんなネームドNPCと呼ばれる中の一人である。
溜まっていた依頼を一定期間の間に全て片付けることで彼女とのイベントフラグが発生する。
ミスト───本名「ミスティ・ガートランド」。
金髪ミディアムヘアーのボーイッシュお姉さんであり、高難易度故に誰も受けたがらない「スライムゼリーの納品依頼」の依頼主であり───この国、『ガートランド王国』の王家に連なる出自のキャラである。
「すみません、流石に恥ずかしいのでそろそろ放してくれませんか。」
見た目に似合わず怪力なミストさんの腕をポンポンと叩き、そうお願いをする。
ギルドの中にも疎らとはいえ人がいたが、ギルドの外……即ち大通りに面しているこの場所では、よりたくさんの人の目がある。
大勢の人に注目されるということにはある程度慣れているが、それはそれとして恥ずかしいものは恥ずかしい。
「おっと。あの感じからして中々抜け出せなさそうだったから、ついつい強硬手段を取っちゃったよ。ごめんね?」
そう言ってミストさんはパッと腕を放し、こちらに向き直る。
(このイベントは本来だったらあのまま指名依頼を受ける流れだったけど……。何でもかんでもゲーム通りになる訳じゃないと思った矢先にこれか。)
指名依頼とは、その名の通り依頼主が冒険者を指名して発注する依頼のことだ。
指名依頼のメリットは、依頼主側は信頼できる冒険者に依頼ができることで、冒険者側は通常より高額の報酬を貰えることだ。
ただでさえ割の良かった『スライムゼリー』を更に高額で買い取ってくれるため、このイベントを発生させられるか否かが序・中盤の進行にかなり影響してくる。
流石に終盤ともなると高ランクの魔物の素材を売った方が効率は良くなるが、それでも並行してこなしていけばかなりの副収入となる。
とまぁ、そんな神イベントを期待していたのだが……なんか雲行き怪しくなってないか?
なんてことを考えていると、ミストさんが再び口を開いた。
「ボクの依頼を短期間で全てやり遂げたその手腕を見込んで話があるんだけど、いいかな? そこのカフェで何か奢るからさ! ね?」
……ナンパかな?
「いいですね。丁度お……私も話したいことがあったので。……あ、でも奢ってもらうのは申し訳ないですし大丈夫ですよ。」
無意識に「俺」と言いかけたところを「私」と言い換える。
いやまぁ身分を隠している以上、多少雑な言葉遣いになっても問題はないだろうけど……なんとなく気分的な問題だ。
俺が了承したため、俺とミストさんは近場にあったカフェへと移動した。
「2人で。」
「2名様ですね、こちらの席へどうぞ。」
店員さんの案内に従って向かい合う形の二人席へ座る。
「ボクはカプチーノで……キミはどうする?」
席に着くや否やミストさんはメニューも見ずに即注文した。
「じゃあカフェオレで。」
いきなり話を振られた俺は、とりあえず前世でよく飲んでいたものを注文する。
「カプチーノ1つとカフェオレ1つですね。かしこまりました。」
注文を受けた店員さんが離れていくのを横目にミストさんに向き直る。
「それで、私にお話というのは?」
「そうだね……でもその話をする前に、そんなに畏まらないでもっと楽な言葉遣いで大丈夫だよ。あんまり堅苦しいのは好きじゃないからさ。」
「分かりました。それで、俺に話というのは?」
「もっと楽でもいいけど、まぁいっか。単刀直入に言うと、キミと直接契約したいんだよね。」
「直接というのは、冒険者ギルドを通さずにってことですよね?」
「うん、そうそう。」
なるほど、そうきたか。
最も警戒していた、「スライムゼリーの入手法を教えてほしい」というような内容ではなくて内心ホッと胸を撫で下ろす。
いつかは公表してもいいかなと考えてはいるが、当面は金策のためにも公表するつもりはない。
他にも明らかになっていないレア素材の入手法は沢山あるが、それらも同様だ。
「いくつか質問があるんですが、いいですか?」
「うん。答えられる範囲なら、だけどね。」
「ありがとうございます。まず、内容はスライムゼリーの納品で合ってますか?」
「そうだね。纏まった数を毎週どこかの日で納品してもらう形を考えてるよ。」
「次に、指名依頼にしなかったのは何故ですか?」
「うーん。いくつかあるけど、一番はギルドにお金を取られるのが嫌だからだね。取られるくらいなら報酬額を上げたいし。」
冒険者ギルドで壁に張り出している依頼には、ギルドから出している依頼と個人の依頼主が出している依頼がある。
個人で依頼を出す場合、当然報酬は依頼主から支払われるが、それは冒険者に支払われる金額とイコールではない。
いわゆる「安全マージン」と言われるもので、冒険者ギルドが依頼主と冒険者の間を取り持つための仲介手数料が発生するからだ。
とはいえ、これは必ずしも悪いものという訳ではない。
金銭のやり取りというのは、えてしてトラブルが絶えない。
特に冒険者という職種はピンからキリまで様々あるので、ギルドが間に入ってくれれば無用なリスクを避けることができる。
これは冒険者側にも十分メリットのあることで、例えば「素材の質が悪いから報酬減額」というような難癖を付けられることなく規定の金額を受け取ることができる。
因みに、この例は俺の実体験である。
報酬額に釣られて大して面識のない人と直接契約をしてしまい、なんだかんだと文句を付けられた挙句、当初の半額になってしまったという苦い思い出がある。
な、なんて教育的なゲームなんだー。
とまぁそんなことがあったため、俺は出会って数回程度の見ず知らずの人とは絶対に直接依頼をしないと心に決めている。
閑話休題。
「一番はお金だけど、他にも理由はあるよ。今回の契約ではかなりの量を納品してもらいたいんだけど、あんまり多いとその出所を怪しまれるでしょ?」
「なるほど、それは確かにそうかもしれないですけど……そんなに大量なんですか?」
「とりあえず最低ノルマとして毎週100個だね。」
「ひ、100個ですか……。」
ミストさんの言う通り、そんな数を毎週納品してたら確実に怪しまれるわな。
指名依頼はギルドを通さないといけない関係上、直接手渡しって訳にはいかない。
「あ、もしそれより多ければ追加で報酬を出すよ。」
追加で報酬は嬉しいけど最低でも100個はノルマか……。
ゲームでやってた時より成功率が上がってるとはいえ100%ではない。
即ち、毎週100体以上のスライムを倒さないといけないということになる。
少しでも早く強くなりたい現状、スライム100体のノルマは正直言って足枷でしかない。
「因みに、もし直接契約を結んだとして、報酬はおいくらくらいですか?」
「そうだね、今までが1個あたり1500Dだったから……1個当たり倍の3000D、100個納品で30万Dっていうのはどうかな?」
「───なっ!」
30万だって!?
ということは、ひと月で120万!?!?
俺は目をかっ開き、難しい問題に頭を悩ませるのだった。
軽く調べてみたんですが、日本人で年収1000万を超える人の割合は5.5%らしいです。
凄いですね(小並感)




