28. 間章:とある男の行く末・2
兄貴の行方が分からなくなってから今日で1週間。
パーティでの活動は今まで通り行っているが、パーティ内の空気は重い。
ムードメーカーであるキースすらも最近ではすっかり静かになってしまった。
誰もが言葉を発さないまま帰路へとつく、その途中。
前から歩いてきた、白いローブを着た男と体がぶつかった。
「……っ!」
文句を言おうと口を開きかけたその時、男はすれ違いざまに何かを手の中へ捻じ込んできた。
「───誰にも教えるな。」
俺にしか聞こえない程小さく、それでいてハッキリと聞き取れる声で男が呟く。
「大丈夫っすか兄貴。……おい! ちゃんと前見て歩くっすよ!」
3人の意識が男の方へ向いているのを横目で確認しつつ、押し付けられた何か───紙切れを開く。
『ジャスの行方について知りたければ、0時に1人で来い。』
何かの切れ端と思われる紙には端的にそれだけが書かれていた。
「何者なんだあいつは……。」
無意識に言葉が零れる。
フードによって顔は隠れており、分かるのは背格好や声から判断した性別のみ。
唯一得られた『声』という情報も、低音ではあったもののあの一瞬のやり取りでそれ以上分かるはずもなく……声の主を特定することは不可能だった。
「なんなんすかあいつ。絶対クロスの兄貴は避けたのに、無理やり当たりに行ってたっすよ!」
「……気にしても仕方ないだろう。帰るぞ。」
未だ背後の男を睨んでいるキースへ一声掛け、紙切れをこっそりとポケットに仕舞う。
その後は特に変なことは起こらず、ギルドで報酬を受け取ったのちメンバーへ分配してその日は解散となった。
その夜。
約束の時間より少し早く、男とぶつかったであろう場所まで来ていた。
指示通り誰にも教えていないし、ここへ来たのも私1人。
怪しすぎる誘いだが、断るという選択肢はなかった。
たとえこれが悪戯や、良からぬ考えを持った者による罠だったとしても、兄貴について何か情報を得られる可能性があるのならば乗らない手はない。
時計を見ながら待つこと暫く。
夜闇の中から見覚えのあるローブを着た男が姿を現した。
(改めて見るとこいつ、中々強いな。正面から戦えば互角くらいか……。とはいえ、いざとなれば逃げることは十分可能なレベルだ。)
内心で相手の実力を測り、この場に残ることを選択する。
「時間通りだね! 感心感心。」
言葉が発せられる……が、それが目の前からだと気付くのに数秒を要した。
それは、その声が密会という雰囲気にはおよそ似つかわしくないような明るい女声だったからだ。
夕刻見た時と外見は同じはずだが、中身が違うのだろうか。
この場には私たち2人だけで他に人がいる気配はない。
こちらの疑問を知ってか知らずか、目の前の人物は口元に笑みを浮かべる。
「さて、ここへ来たということはジャスについて知りたいのだろう。お主は何が知りたいのだ?」
───!?
その言葉は、先程とは打って変わってしわがれた老人の声だった。
今聞いた声を頭の中で何度も繰り返すが、何度聞いても物真似というレベルではなく、本物にしか聞こえない。
「……そもそもお前は何者なんだ。それにその声は? 私をここへ呼び出した目的は何だ?」
兄貴について知りたいのは山々だが、まずはこいつの目的について明らかにするのが先だ。
タダより高いものはないと言うし、情報を貰ってから何を要求されるか分かったものではない。
落ち着いて、相手のペースに吞まれるなよ。クロス。
「そ、そんな一気に質問されても困りますよぅ。……まずこの声、というか話し方やけどこれは癖みたいなもんやし気にせんでええで!」
「……気にするなと言われてもそれは無理だろう。どれか1つに絞れんのか。」
気弱な子供かと思えば陽気な訛り言葉。
ここまで一度も声音が被っていないのはある種の敬意すら覚えるが……こいつは大道芸人か何かなのか?
「えぇ……まぁキミがそうして欲しいってんならそうするけどさぁ。これでいいの?」
そう言って選んだのは生意気そうな少年の声。
結局性別は分からなかったが、一旦は男ということでいいのだろうか。
「あぁ。そうしてくれると助かる。」
「ったく、注文が多いよねぇ。んで、次はボク自身に関してだけどそれは今は秘密。最後にキミを呼び出した理由だけど、理由はシンプルでジャスの死因について知っておいた方が良いと思ったからだねー。」
言葉だけ見れば不機嫌のようだが、なんだかんだ言いつつこちらの質問にはちゃんと答えてくれ─────
「おい、今なんて言った?」
「ん、今? ……あ! もっと勿体ぶる予定だったのに喋っちゃったー!」
口が滑ったーと叫びながら頭を抱えて取り乱す目の前の男(仮)。
その様には先程までのミステリアスな面影なんてものはなく、とても同一人物には見えなかった。
だが、それ故に先程の発言に真実味が増してくる。
死因……つまり兄貴は……。
この一週間、その可能性を考えたことは勿論あるが、改めて直面すると現実感がない。
「おい、いい加減落ち着いたらどうなんだ。それに、兄貴が死んだという証拠はあるのか?」
そう指摘すると、子供のように喚いていた男が急に静かになった。
「証拠ならあるよ。……これさ。」
そう言って懐から出したのは中が透けている球体。
「審判球か……。」
「そう。と言ってもこれは町に入るときに衛兵が使っているやつとは少し違って、発言に対しての真偽を判定するやつだけどね。要するに、嘘発見器ってことさ。」
「……なるほどな。確かにそれなら生死の判別はできるだろうが……そもそもそれが本物だという証拠は?」
審判球は確かに便利で信用できる道具だが、だからこそ人を騙すのにも利用されると聞く。
「もー疑い深いなぁ。それならキミにしか知り得ない秘密でも言って確かめてみてよ。」
「ふむ。」
審判球を受け取り、少し距離を置いて念のため男に聞こえないよう呟く。
「キースの年齢は22歳。」
すると、球体は青く光った。
「キースの振られた回数は5回で未だに恋愛経験はない。」
またしても球体は青く光る。
「どう? それで本物だと分かったでしょ?」
「いや、まだだ。言葉に反応して青く光るだけかもしれんからな。」
「はぁー。もう好きにすれば。」
言うだけ無駄だと思ったのか、男は肩を竦めながら諦めるように言う。
「俺はヒト族である。」
すると、今度は赤く光る。
「俺は獣人族である。───俺は海人族である。───俺は地人族である。───俺は天人族である。」
赤、赤、赤、赤。
「俺は──族である。」
結果は……青。
「本物、か。」
「気は済んだ?」
「あぁ。」
兄貴にすら教えていない、正真正銘私しか知らない秘密。
これは本物と認めざるを得ないだろう。
「なんかやり切った感じだけど本題はここからだからね? 目かっぽじってよく見ておいて。」
「あ、あぁ。そうだったな。」
そうだ、私としたことが当初の目的を忘れるところだった。
……いや、兄貴が亡くなってしまったというのは分かった訳だし、「兄貴の行方を知る」という目的は一応達していると言えるのか。
とはいえ、死因についても知れるのであればそれに越してことはない。
自殺ならどうしようもないが、もし他殺であるならば私は……。
「いくよ─────ジャスの死には、女神の手の者が関わっている。」
その単語が聞こえた瞬間、時が止まったかのような衝撃を受ける。
「お、おいちょっと待て。女神ってどういう───」
直後、審判球は青い光を放った─────
「これがキミに教えたかった真実だよ。」
淡々と告げられたその言葉は、既に私の耳には届いていなかった。
───女神が、兄貴を殺したのか?
───女神は、慈愛に溢れているのではなかったのか?
兄貴と出会ったあの日から、数々の思い出が次々と脳裏に蘇る。
「嘘……じゃないのか。何故、どうして……兄貴はあんなに良い人だったのに。どうして兄貴は殺されなければならなかったんだ! どうして!」
泣き叫びながら審判球に問いかけるも、反応はない。
「それは神のみぞ知る、ってやつだよ。……でもね、その気持ちは分かる。ボクも同じだから。」
「……ぇ?」
「……さっきキミはボクが誰なのか聞いたよね。」
「……。」
「ボクは……いや、ボク達は女神ガリワディードを殺すことを目標としている組織だ。」
「……っ!」
「組織にはキミと似たような境遇の人もたくさんいる。───クロス、共に世界を変えないか。」
両膝を付き、拳を地面に叩きつけていた私の目の前に彼の手が差し伸べられる。
「……あぁ。」
男を見上げ、その手を取ろうとしたその時─────
「何やら楽しそうなお話をしていますね?」
─────背後から凛とした女の声が聞こえた。
あ……ありのまま今起こったことを話すぜ。
元々書いていた文章からかなり削って今話で間章を終わらせようと思ったら、いつの間にか文章量が元の1.5倍くらいになっていた……
何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をしたのかわからなかった……
てなわけでもう1話あります……。
早く本編やれよと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、もう少々お付き合いください。
次回更新は12月25日の木曜日です。
……クリスマス? 知らない子ですね……。




