27. 間章:とある男の行く末・1
「17. ポーション屋での一幕」にて登場した凄い髪型じゃない方こと、ラムスさんですが名前を「クロス」に変更しました。 25/12/16
私の名前はクロス。
Bランクパーティ『スリースターズ』に所属している、B級冒険者だ。
私達のパーティはネゴノーバの町を起点にし、近場にあるロックストンダンジョンで活動している。
数年前までは各地を転々としていたが、『スリースターズ』創立メンバーであり兄貴と結婚したティスの姉貴が妊娠し脱退して以降はこの町に腰を下ろしている。
閑話休題。
今日も今日とてダンジョンへ向かう。
私達のパーティでは、男性陣がギルドでその日の分の依頼を受け、ダンジョンの前で女性陣と合流するというのが暗黙の了解になっている。
いつだったか、誰かの「女性は朝支度に時間がかかる」という呟きが発端だった気がするが詳しいことは覚えていない。
とはいえ、この程度大した手間でもないので私も兄貴も受け入れているし文句もない。
……若干一名ボヤいている奴もいるのだが。
そんな、いつもと変わらない1日。
しかし、この日だけは違っていた。
普段集合時間の10分前には来ているはずの兄貴の姿が一向に見えなかったのだ。
それは、集合時間から30分が経っても変わらなかった。
「どーしちゃったんすかねぇ、ジャスの兄貴。」
そう呟いたのは、両手を頭の後ろに回し街灯に寄りかかる、特徴的過ぎる髪型の男───キースだ。
金髪を中央と左右の3か所に集めて立たせたその髪型は、一度見た者に相当な衝撃を与えるだろう。
色々だらしないところがあったり見た目の印象から敬遠されることも多いが……一応根は良いやつだ。
「……そうだな。どっかの遅刻常連と違って、真面目な兄貴がここまで遅刻するなんて珍しい。こんなことは初めてだ。」
「む、おいらだって遅刻しないこともあるっすよ。それより、クロスの兄貴ってジャスの兄貴とはかなり長い付き合いなんすよね? それなのに遅刻するの初めてなんすか?」
「あぁ。もう10年以上の付き合いだがこれが初めてだな。」
正確には16年くらいだろうか。
幼い頃、行き倒れていた私を拾ってくれたのがパーティリーダーである兄貴だ。
兄貴には私の命を救ってくれたというだけでなく、B級冒険者という十分すぎる程の地位を与えてくれたという恩もある。
何も持っていなかった私を快く受け入れてくれ、本当にたくさんのことを教えて、与えてもらった。
果たして私はこの恩に報いるだけの何かを返すことはできるのだろうか……。
「眉間に凄い皺寄ってるっすけど大丈夫っすか?」
「……いや、何でもない。」
キースの能天気な声で意識を現実へと戻す。
とりあえず今は兄貴のことだ。
「これだけ待っても来ないなら仕方ない。俺は兄貴の家に顔を出してくるから、お前はギルドへ行って依頼を受けてきてくれ。」
「了解っす。その後はどうするっすか?」
「ダンジョンで合流する。お前が先に着いたら女性陣に事情を話しておいてくれ。」
「分かったっす。んじゃ。」
ギルドへ入っていく後姿を見送ったのち、私も兄貴の家に向かって動き出した。
「え、兄貴がまだ帰ってきていない?」
「そうなのよ。今日の深夜に突然『外の空気を吸ってくる』って言って家を出たっきり帰って来てないの。てっきり私はクロスくんの家にお邪魔になってるのかと思ってたわ。」
「いえ、こちらにも来てはいない……と思います。」
寝てる間に兄貴が来ていた可能性は否定しきれないが、物音などはしていなかったはずだ。
「そう……帰ったらお説教ね。───それはそうとクロスくん、わざわざ来てくれてありがとう。久しぶりに顔が見れてよかったわ。もっと頻繁に来てくれてもいいのよ?」
B級冒険者の私でさえ思わず身震いする程のオーラを放ったかと思えば、次の瞬間には花が咲いたような笑顔を見せる姉貴。
この人は昔から表情が豊かだったが、今でもそれは変わらないようだ。
「いえいえ。それではまたお邪魔しますね。」
そう言って会釈をし、お暇させていただく。
家の中に入るように促されたりもしていたのだが、生憎今日はパーティの活動日。
待ってる人がいる以上、ここで長居をする訳にもいかない。
因みに、この家に来ることが少ないのは単純に2人の邪魔になってしまうと思っているからだ。
それを言うと3人でパーティを組んでいただろう、という話ではあるのだが……正直あの頃の私は鈍感というか男女の仲というものを全く考えていなかったからな……。
当時2人が結婚するという話を聞いたとき、嬉しい気持ちよりも驚きの方が勝っていたのはここだけの話だ。
「さて。それにしても、家にもいないとなると兄貴は一体どこへ行ってしまったんだ?」
兄貴程の腕前なら何かあったということは考えにくいが……。
「案外、既にダンジョンにいて私達を驚かそうとしてたりしてな。」
ああ見えて意外とお茶目なところもあるのが兄貴の魅力だ。
「もしそうだったとしたら、やはり驚いたふりをするのが正解なのだろうか。」
そんなことを考えながら私はダンジョンへと向かう。
『もしかしたら』を『兄貴に限ってそれはない』と否定しながら。
しかし、現実は時に残酷なものだ。
結局その日1日は兄貴がいないままダンジョンでの活動を終えた。
そして───
兄貴が見つからないまま一週間が経った。




