26. 間章:とある男の最期
更新が遅くなってすみません!
人々が寝静まり数刻。
彩り豊かなステンドガラスから月光が差し込み、柔らかい光を放つ球体が2つの影を映し出す。
一方はその背中から生えた純白の翼が光を反射して輝き、一方は体全体を包んだ純白のローブが光を反射して輝く。
時が止まったと錯覚する程の静寂の中、翼の生えた方が口を開く。
「急に呼び出してしまって悪いわね。」
美しく、凛とした女性の声が暗闇に広がる。
「滅相もございません。お呼びとあらばこのガレクス、どれほど遠かろうともすぐに参上いたします。」
ガレクスと名乗るローブの男は一礼し、よく通る落ち着いた声音でそう返す。
その言葉からは、絶対の忠誠と揺るぎない尊敬の念が感じられた。
「ふふふ、そう言ってもらえて嬉しいわ。久しぶりだし色々話したいのだけど……あなたも忙しいでしょうから早速本題に入りましょう。」
そこで一拍置き、翼の女は再び口を開く。
「大体察してはいると思うけど、結論から言うと彼は失敗したわね。魔法の発動が一瞬遅れてその隙に逃げられてしまったわ。」
女は「失敗」と言った割には悲しんだり悔しがる様子はなく、ただ事実をありのままに伝えた。
男の方も特に驚くことはなく、予想通りだと言わんばかりに数回頷いた。
「彼は優しいですから……。」
どこか懐かしむように小さく呟いたその言葉は静かな堂内に消えていく。
「彼以上の適任者を見つけることができず、申し訳ございません。」
「いいえ、私も彼以上はないと判断したのだからあなただけのせいではないわ。確かに早い段階で片を付けられなかったのは残念だけど……こうなった時のためのアレでしょう?」
「……そうですね、ありがとうございます。そちらの進捗は順調ですか?」
「えぇ。あの子のこともあって多少手間はかかったけど問題ないわ。恐らく数日のうちに接触するかしらね。」
「彼女と話してみていかがでしたか?」
「聞いていた通り……いえ、それ以上だったわね。彼女凄いのよ? 私が女神だと教えても怯むどころか更に食ってかかってきたんだから。」
「あぁ、やはりそうなってしまいましたか。彼女に代わってお詫びいたします。」
「いえ、寧ろ中々ああいう経験はできないから新鮮で楽しかったわよ。特に彼の本当の死因を教えてあげた時なんかは、お父様もかくやというほどだったわね。」
その声音には怒りや嫌悪といった感情はなく、言葉通り喜色に満ちていた。
「それにしても、人間は皆ああいう重い子が好きなのかしら?」
「さぁ……それは個体差ではないでしょうか。ですが、ほとんどの人間は自身を好いている人間のことを好きになるものだと思いますよ。」
「ふふ、誰よりも近くで人間を見てきたあなたが言うならそうなのでしょうね。……もし向こうで良い人を見つけたらくっついてくれても構わないのよ? ゆくゆくはあそこの管理はあなたに任せるつもりなのだし。」
「いえいえ、あくまでも仕事ですので。それに、ガリワディード様以上に魅力的な方なんて存在しませんよ。」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。」
ふふふ、はははと笑い声が木霊し、空気がフッと軽くなる。
なんだこの茶番は……そう思ったその時─────
世界が、傾いた。
「申し訳ございません。逃げられてしまいました。」
しかし、瞬きの間に視界は元に戻っていた。
「既にこの国からも消えてしまったようね。本当に逃げ足の速い……。」
……今のは気のせいだったか?
いかんな、監視役だというのにこんな体たらくでは。
思えば今日は体がどこか重かった。
体調管理も任務のうちだと若いのに口酸っぱく言ってる俺がこうでは示しがつかないではないか。
話も終わりのようだし気付かれる前に撤退───ん?
体が動かない……いや、それどころか感覚がない?
「再生できそうですか?」
「いえ、回復させるよりも消滅の方が速く……これ以上は持ちそうにありません。」
「素体にしようとした男を含めこれで2人目。もしかしたら他にもいるかもしれないですし……真っ黒ですわね。」
ッ!?
気が付けば俺の目の前には女の顔があった。
「混乱するのも無理はありません。せめて苦しませないように逝かせてあげましょう。」
俺の意識はそこで途絶えた─────




