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作者目線で語ってみたい

作者目線で「パーティー追放もの」について語りたい

作者: 寒天

独断と偏見による「パーティー追放もの」への考察エッセイになります。

「強化魔法を使うしか能が無い、一人では何の役にも立たない役立たずはもう不要。寄生虫はこのパーティーから追放する!」

「僕は何も悪くないのに……今までの頑張りが何も理解されてないなんてショックだ。強化魔法はもちろん、パーティーの細かい雑用とか全部僕一人で頑張ってきたのに。でも、こうなったら仕方が無いから、新しいパーティーでも探そうか」


 一月後くらい


「あいつの強化魔法が無くなったら身体が重くて力が入らねぇ! 仕事失敗しまくって名声が地に落ちた!」

「僕の強化魔法の力で新しいパーティーメンバーは皆凄く強くなった! あっという間に英雄コースにのったぜ!」

「おい! お前の強化魔法は思っていたより使えるみたいだ! 俺らのパーティーに戻してやるから帰ってこい!」

「もう新進気鋭の最強パーティーでリーダーやってるから無理。もう遅い!」


 はいどうも、寒天です。

 今回はまあ、上記のような所謂パーティー追放物について軽く語ってみたくなりましたので書いてみました。


 いやー、未だに人気ですよね、この追放物。もう主人公一人抜けただけで崩壊する脆弱パーティーの没落を楽しむ系のお話。有能な主人公様は追放されてもすぐさま都合の良い美少女……もとい真の仲間を見つけて栄光の道を進み、有能な主人公を失ったその他のパーティーは没落の一途を辿る……と言う奴。


 はい、もうこの僅かな文章だけでも伝わっていると思いますが、正直に言って、私どうにもこの追放物に嫌悪感があります。否定派肯定派に分けるのなら、どうしても否定派に入ってしまう人間です。

 が、人気があるのは事実。ただ「嫌いだ!」で終わってしまっていてはそれこそお終いですので、少々この追放物について個人的感情は一端横に置いて、自分の思考を可能な限り客観的に考えてみました。


目次は

1.パーティー追放物の解説

2.パーティー追放物のメリット

3.パーティー追放物に対する嫌悪感の原因

4.まとめ~嫌悪感を抱かれないように注意すべきだと思うこと~

となります。


 既にパーティーという単語がゲシュタルト崩壊してきてますが、こんな感じで進めていきます。

 好きな人からすれば独断と偏見でパーティー追放物のあら探ししてイチャモン付けるだけとも言われても文句は言えない内容かもしれませんので、ご注意ください。


1.パーティー追放物の解説


 ま、まずは認識のすり合わせから始めましょうか。

 要するに冒頭で書いたような話なんですが、ざっくりその構造を纏めますと


①冒険者(フリーの傭兵みたいなもの?)のパーティー(チーム)に所属していた主人公はある日突然パーティーから抜けるように言われる。つまり追放宣告を受ける。

②追放の理由は主人公が役立たずだから。主人公に分け前を渡すくらいならもっと優秀な新メンバーを雇うなりした方が効率的だと侮辱される。

③追放された主人公は実は超有能であり、元のパーティーが活躍できていたのは全て主人公の隠れた功績だった。別の組織やら新しい仲間を見つけた主人公は瞬く間に持ち前の有能さで評判の冒険者に。

④一方、主人公の力を失った元のパーティーは以前のように活躍することができなくなり没落する。

⑤主人公の偉大さに気がついた元パーティーメンバーは戻ってこいと頼むが、主人公は既に真の仲間を得ているから「もう遅い!」と袖にする。


 まあこんな感じです。

 別パターンとして、最初は本当に無能だった主人公だけど追放されてからしばらくすると何かしら覚醒して一気に超有能になって一躍有名人に。一方そんな金の卵をみすみす逃した元仲間達は見る目のなさを笑われ、見下していた主人公が遙か格上になってしまった現実に打ちのめされる~というものもありますが、どちらにせよ簡潔に纏めて言えば


『元仲間が主人公を追放したことを後悔して絶望するお話』


 という理解で概ね間違ってはいないと思います。

 恋愛ジャンルにおける「それ恋愛か?」と首を傾げる一大ジャンル『婚約破棄もの』と同系の話ですね。



2.パーティー追放物のメリット


 さて、ではこのパーティー追放の面白さについて語りましょう。

 最初にいきなり「私は否定派」なんてぶちかましておいてなんだとお思いでしょうが……実のところ、普通に楽しんで読んでます。

 引っかかる点も多々ありますが、面白い点もちゃんとあるんですよ。というか、無いんだったらこんなランキング占領してません。


 どこぞのまとめサイトに匿名で悪口書くだけならば何にも考えることなく罵詈雑言連ねていればいいんですけど、一応作者として自分の糧にするにはちゃんと全体を見なければいけませんからね。


 なんて綺麗事を並べた後で、パーティー追放ものの何が面白いのかと考えます。

 やはり、最初に考えるべきはシンプルに『相手を見返す』という点でしょう。

 自分を評価しなかった相手に真の実力を見せつける、あるいは成長することでその評価を覆させる。自分を見下していた相手を越える……それは誰しもが快感と感じる展開でしょう。

 より砕いて言えば『他者に評価される快感』とでもいいますか。よほどの偏屈ではない限り人に褒められて嬉しくない人はいないですし、認められて気分が悪いってことはないですからね。


 何せ、パーティー追放ものは一度最低評価を受けてどん底に落ちるところから始まるわけですからね。

 そこからはもう上がるだけ。受ける評価は全て大小はあれど高評価のみ。スタート地点が底値なんだから何があっても上がる一方……まあどう転んでもそういうストーリーになるわけで、わかりやすく良い気分になれるのが基本です。


 詰まるところ、『立身出世の成り上がりもの』としての特色を持っているわけです。波瀾万丈なギリギリの勝負を続けて成り上がるのか最初に落ちたら後はひたすら上がり続けるのかは作品ごとの性質次第ですが……まあ、いずれにせよ底辺からトップへ上がるというのは一定の需要がある話でしょう。


 が、それだけなら別に追放とかする必要はありません。普通に頑張って普通に成功して普通に認められていくサクセスストーリーでも全然問題は無いはずです。

 では、何故わざわざ追放と言う要素を足す作品が日々大量生産されているかと考えますと……『評価の質』ではないかと私は考えます。

 つまりどういうことかというと、同じ褒められるでも感動が大きいものと小さいものがあるってことです。


 例えば、そうですね……テストで100点とったとしましょうか。もちろん100点満点のテストでですよ?

 こう聞くと、まあ極一部の例外「人生で100点以外取ったこと無い」とか言っちゃうような天才は別にして、それは凄いという感想を持つと思います。普通、100点なんて簡単に取れる点数では無いですからね。

 では、ここに一つ情報を足しましょう。『全学年で100点を取ったのは一人だけであった』……と足すと、更にそれは凄いってなるでしょう?

 ですが、逆に『このテストではクラスの半分が100点だった』と足すと、まあ正直大したことないなって感想になってしまうのではないでしょうか?

 どちらにせよ一つのテストで100点を取ったという事実には変わりないのに、周りの状況で……より詳しく言えば、その達成難度によって感動は大きくも小さくもなってしまうわけです。


 つまり、より難易度の高い問題をクリアする奴の方が凄い。それが極普通の感性であるということです。

 同じことをやるならより困難な条件の方が燃える……なんて人もいますが、これも突き詰めればより難しいことを達成する方が気持ちいいって感情が由来であると私は思います。できて当然、誰がやってもできることをやるのは、どんだけ必要性がある事であると言われても面倒くさいだけって話です。何せ、誰でもできるということは、達成しても誰も褒めてもくれなければ感心もしてくれないわけですからね。時間を使ってやって見せても「そのくらい当然だ」と言われるだけのことをやるなんて、だるいだけって思うのは当然のことだと思います。



 そしてもう一つ。仮に難易度が低い……少なくとも評価者からすれば自分だってできることであっても、評価対象に対する期待値によって結果への感動は変ります。

 また100点満点のテストの点数で100点取ったという例を出しますが、これがもし『普段から基本95点以上は当たり前な秀才が取った』なら、下す評価も相変わらず凄いねってだけでしょう。

 ですが、もし『いつも30点未満の赤点馬鹿が一念発起して頑張った』みたいな話なら、奇跡の如く讃えられ賞賛されることでしょう。もう親御さんは今日は寿司だ焼き肉だと狂喜乱舞間違いなしです。


 まあ要するに、同じ結果だとしても、期待値は低い方がやり遂げた時過剰に褒め称えられるのが人間の心理ということです。

 普通に考えたら昔から努力して良い点を取り続けている奴の方が偉いに決まっているのに、より大げさに褒められるのは今回だけ頑張った基本馬鹿の奴になるわけですね。




 ここまでの話を纏めますと『周囲ができないことをできる奴はより賞賛される』と『期待されてない奴がやり遂げた方がインパクトが強い』という話ですね。

 一見「何当たり前のこと言ってんの?」と思われるかもしれませんが、追放ものを分析するにはこの当たり前が結構重要だと思うわけですよ。

 というのも、『追放された』というスタートはこの二つの要素を良い感じに満たせるのです。


 まず、追放された元パーティーは本来凄いと評判です。主人公に無能と言えるくらいの実績はあるはずですからね。

 それすなわち、元パーティーにすらできないようなことができれば、それは世間的に偉業と呼べること……となるでしょう。『主人公は元パーティーより凄い!』って具合に追放された仕返し代わりに有能アピールをするだけで最初の条件を満たせるわけです。

 そして、期待値に関しては今更言うまでもないことですが、役立たずの無能って最低評価から始まるので何やっても条件を満たせます。

 仕上げに『元パーティーの名声は本来主人公が得るはずだったもの』という論調に持っていけば、もはやあらゆるジャンルの賞賛を受け取り悦に至ること間違いなし……という寸法です。


 とにかく『人に褒められ認められる』という立身出世ものの快感を最大限ブーストすることを可能にする舞台設定……それが『パーティー追放もの』なのだろうと私は分析いたしました。



 ついでに、そんな有能な主人公を追放した見る目の無い真の無能を成敗する……という勧善懲悪ものとしての要素まで追加できるのも大きいですね。

 これは恋愛ジャンルの婚約破棄ものに通じる話ですが、冒頭から明確な敵、悪党を設定できるので、最終的に高めた力でぶっ飛ばす相手がわかりやすいのです。この辺のお話は別エッセイ

『作者目線で「ざまぁこと先行逃げ切り型小説」について語りたい』

『作者目線で「婚約破棄する王子様」について語ってみたい』

 辺りに詳しく書いております(ダイマ)のでここでは割愛しますが、ざっくり言うと罪悪感無く殴れるわかりやすいクズの存在は掴み性能が高いというお話です。


 まあ、とにかくわかりやすい快感ポイントを多数配置できるというのは作者的に強いポイントだと思います。




3.パーティー追放物に対する嫌悪感の原因


 では、メリットとなるポイントを捻り出しましたので、今度は何故パーティー追放ものというジャンルに対して否定的な層が何故現われるのかを分析していきます。

 と言っても、正直人が何かを嫌いになる理由なんて人それぞれですので『絶対にこれはダメ』と断言することは、まあとても私如きにできることではありません。

 そこで、これより語るのは主に『筆者自身の価値観に基づく話』であることは予めご了承ください。


 というわけで、このテンプレに何の問題があるのかと言いますと……まあ、そりゃ『お前を追放する!』というところですよね。正直その後の覚醒だとか出世だとかは一括りにできる話じゃないですし。

 では『追放する!』の何が悪いのかってことですが……とりあえず「苦楽を共にした仲間を捨てるなんて酷いよ! もっと皆で何とかする方法を考えるべきだ!」みたいな善人論は一切語るつもりはありません。むしろ、役立たずはさっさと切り捨てるのが当然だろってのが私の主張です。

 そう……そこが最大のポイントだと私は思います。メリットの項目でも語ったとおり追放した側は最終的に没落して主人公の踏み台になる係であるため、彼らの言動は全て間違いで誤りで人でなしのそれである……という評価となることになります。


 ですが、もし読者に「追放した側別に悪く無くない?」という感想を持たれてしまった場合、追放した元仲間を徹底的に下げてそれに比べて主人公は凄い……という路線を取る以外に道がない追放ものは破綻します。

 彼らは彼らで当然の決断をしただけ。そう思われてしまった場合、残るのは逆恨みでネチネチ嫌がらせを繰り返す性悪クズ主人公だけという不毛の地でしかないのです。


 こんなこと言うと「いやいや追放もののクズパーティーは一部の隙も無くクズの集まりだから。理不尽に追放した連中が全面的に悪いから」とお思いの方もいるかもしれませんが……本当にそうですか?

 この命題は私がこのエッセイで訴えたい全てと言っても過言ではありません。というか、追放もので嫌悪感を感じる理由の99%はこの「追放する理由が雑!」ってところなんだと思っています。

 更に言えば「追放した側が一方的な悪として最後に裁かれること前提でプロット組んだせいで矛盾が目立つ」ってのが作者目線で見る最大の問題点なわけですよ!


 まず、追放される理由って、基本的には『主人公が無能だから』ですよね? そうじゃないと「実は有能だった~」って路線で他からの高評価ラッシュに入れないですし。


 では、何故追放した元パーティー達は「主人公は何の役にも立たない無能」という評価を下したのでしょうか?

 これは幾つかパターンがあると思いますが……まあ大雑把に思いつくのを挙げますと


・評価基準が歪(特定の条件を満たさない相手は認めない差別主義者)

・主人公の功績に気がつかなかった(理解できなかった)

・所属当時はガチ無能だった(追放後に覚醒する)


 くらいでしょうか?

 他にもあるかもしれませんが、まあとりあえずこの三つを掘り下げていきましょう。



・評価基準が歪(特定の条件を満たさない相手は認めない差別主義者)


 まず評価基準が歪パターンですが、まあ要するに主人公の長所を長所と認めない文化があったって話ですね。

 よくある設定としては、例えば所謂スキルと呼ばれる特殊能力が存在する世界で、能力の高低がこのスキルをの有無だけで判断される。しかし主人公はスキルに頼らない分野で優れた能力を持っていたけど、高レベルのスキルを持っていることが最大の自慢であるパーティーメンバーはそれを認めなかった……って感じです。

 まあ普通に考えたらこれは差別主義者が悪いですよね。本来評価されるべき能力と功績を持つ主人公を「スキルを持ってない」というだけで認めず、ついには追放するわけですから。


 が、そこでちょっと待ったをかけます。

 その差別主義……どの程度広まっているんでしょうか?

 仮にその世界の人間全員そういう思考回路の持ち主、そう考えるのが当たり前……という場合、追放後に評価される展開と矛盾しますよね? なにせ、何しようが誰も認めない世界なんですから。

 追放後は「実際に主人公と交流したらスキルなしでも凄い人がいるんだってわかりました! 主人公様に一生ついていきます!」って人だらけになるから解決?

 いやそれならなんで元のパーティーメンバーにそれができんかった? 長年一緒にいて誰よりもその実力と貢献を見せつけてきた相手が認めないくらい頑なな文化なのに、何故あっさり懐柔できるの?



 いやそれとも、実は差別主義が極一部の人間に広まっているだけで、世界規模で見たらスキルなしでも評価してくれる人は大勢いた?

 まあそれなら追放後に評価されることに矛盾は無くなりますが……逆に「何でこの主人公わざわざ評価されず不当な扱いを受けること間違いなしな組織に所属してんの? お互いに得無いよね?」ってことになりません?

 とにかく追放されることを前提に考えすぎていて、そもそもパーティーに所属していることそのものに致命的な矛盾が生じているようにしか見えないのではないでしょうか?


 まあ要するに、差別主義蔓延世界ならかなりの技量を持って緻密にプロットを構成しないと「そんな簡単に認められるんなら最初からパーティーメンバー相手に努力しろよ」でお終いですし、パーティーメンバーだけが異常者ってことなら「最初から職場を選べ」の一言で終わってしまうわけです、このパターン。

 愛される努力なしに愛して貰えないことを恨むのは傲慢というものである、と私は切り捨ててしまいたくなりますね、こういう基礎から作られた主人公は。





・主人公の功績に気がつかなかった(理解できなかった)


 次に主人公の功績に気がつかなかったパターンを見ていきましょうか。

 まあこれもよくある設定で例を出しますと、所謂一人では戦えないサポート専門職の主人公が役立たずの寄生虫呼ばわりされる~って感じですね。

 それは「強化魔法を使えるけど本人にはほとんど戦闘力が無い」とか、あるいは戦闘以外の分野で雑用を熟していたとかまあそんな感じです。


 そんな、縁の下の力持ちをやっていた主人公の功績に全く気がつかなかった単純に強いタイプのパーティーメンバーたちが「役に立たないから追放!」という結論を出すわけです。

 酷い話ですよね。実際には主人公の強化魔法がなければ到底倒せない強敵にも打ち勝ってきたという実績で威張っているのに、それを全て自分の手柄だと思っている上に、力の源を自ら捨てる傲慢さには反吐が出るという話です。



 はい、解説終わり。というわけで待ったをかけますよ。

 いやまあ実際、サポートが有能だっただけなのにそれを全て自分の手柄にしている奴とか普通に嫌悪の対象ではありますよ?

 部下の手柄を全部自分の物にする上司とか、刑事ドラマなら確実に殺され役ですから。

 ですが……だとしたら追放するわけ無くない? 主人公の能力があってこその功績なんだから、むしろ何があっても逃げられないよう、債務者を脅すヤーさんの如く囲い込むでしょ普通は。


 はい、その理由は「主人公の功績に全く気がついていない、ここまでの活躍は全て自分の実力だと心の底から思い込んでいる」からだよと、さっき自分でそう言ってただろと今まさにツッコミを入れられているかと思います。

 そう、このパターンから追放されるためには、追放側はそういう理由を付けるほかありません。

 ですが……それ、納得できる理由なんでしょうか?


 よくあるテンプレ展開ですと、強化魔法使いの主人公を追放したパーティーは実戦に出向いて「力が出ない!」とこのエッセイの冒頭みたいな感じに没落してくわけですが、そもそも強化なしの実力に気がつかないってありえます?

 大半の場合、彼らは遊びで戦っているのでは無く、魔物などを相手にガチの命懸けの殺し合いをしている場合がほとんどです。

 となれば、訓練くらいはしているでしょう。主人公なしで個人訓練くらいはやってるはずです。普通そこで強化魔法なしの自分とありの自分の差くらいは把握するはずですし、主人公の有能さに嫌でも気がつきますよね?

 いやいや、奴らはそういった訓練すらしない、生粋の怠け者クズであるというというなのでしょうか?

 だとしても……強化魔法が無くなれば今までできていたことが全くできなくなるほど落ちぶれるほどに差があるのならば、日常生活でも自分の身体能力くらい把握できるでしょ。

 よく見るのが「いつもより剣が重いことに敵の前で気がついた」とかですけど、いやその剣を戦場までどうやって持ってきたんだよってツッコミたくなりません? 宿屋で武器を手にしたときに気がつくだろ絶対って言いたくなりません? そもそも剣を背負っている移動中も常時強化状態だったのって苦笑いになりません?


 と、長々と書きましたが、要するに言いたいのは……「そもそも主人公の功績に気がつかなかったって前提条件自体に無理がある!」ってことです。

 魔法的な話では無く雑用的な話ならまあ、いなくなって気がつく便利さってのはいろいろあるでしょうけど、そんなん必要性に気がついてから改めて雑用係雇用すれば解決する話ですしね。


 他にもこのパターンの系統はいろいろありますけど、そのほとんどに対して「いや主人公の貢献に気がつかなかったってのは流石に無理が無いかな?」と違和感を抱かずにはいられないくらい主人公の本気が有能すぎているといないの差がでかすぎるんですよね……追放ものでこのパターンって。


 何よりも、この追放パターンにはどう足掻いても避けられない最強の論破パターンが存在しているのです。

 はい「会話しろよ」でお終いです。主人公は当然自分の能力を知っているわけですし、普通に会話してアピールしていればそれで解決していたはずなんです。最近の企業採用条件ではありませんが、コミュ力不足にもほどがあるって話で終わりなんですよ。

 真の実力を理解しなかった~と恨むのは勝手ですけど「そういうキミは相手に理解させる努力をしたのかな?」と問いかけたくなるって話ですね。

 相手が聞く耳を持たなかったにしても、それならいろいろ工夫してわかるように伝えようと精一杯自分がやれることはやったのかなって話なわけですね。



 同系統で「実は真の実力を隠していた主人公と、それを見抜けなかった節穴追放者」なんてパターンもありますが……理屈は同じです。

 実は凄い力を持っていようが使わないなら無いのと同じ。追放側も命かけて戦ってんですから、むしろ自分達には関係の無い理由で手を抜かれていたと言われればますます主人公側が有責になるだけですからね。

 どんなに理屈付けようが、サボった方が悪いに決まっているんですから。

 どうしても実力を隠さねばならない理由があるというのなら、せめて説明して同意を得ろ。仲間にも隠す切り札を持つのは自由ですし、何なら命懸けの戦いの中では当然の配慮なのかもしれないですけど、隠しすぎて最低限の仕事も熟せず日常的に足手まといになっているようでは論外ですよ。

 全く仲間を信用できないというのなら、自分から出て行け。力を隠して生きていたいのは自由だけど、無関係の人様に迷惑をかけるな。

 いや本当に、マジで考えたらこう言われるだけですよね、こういうのは。





・所属当時はガチ無能だった(追放後に覚醒する)


 最後に追放後に覚醒するパターンですが……これもう言わなくてもいいくらいあからさまですよね?

 この手のパターンで追放側が責められるのは「金の卵を逃した見る目の無い愚者」ってところですが、まあ確かに失態ですけどそれは結果論ですし、別に没落する必要ないですよね。

 追放した奴が自分らの上に行ってしまうのは確かに悔しいでしょうけど、そもそも所属当時は本当に足手まといだったわけですから彼らの活動に支障は無いですし、未来のことを予知しろなんてそれこそ理不尽な話。特に没落していくような理由無いんですよ。

 ただ一過性の誹謗中傷を受けると言うだけで、ぶっちゃけ無視してしまえばそれまでなんですよね。


 というか……このパターンに関しては、本当に追放することそれ自体は至極真っ当な判断なんですよね。

 それこそ、現代社会の企業であっても、組織にとって不要な人件費泥棒がいれば解雇するでしょ。まして、命懸けの戦いを生業としているのに足手まとい抱えろって方が無茶って話です。

 むしろ、明確な足手まといであると認識され本人もそれを自覚するほどの有様であるのならば、追放宣告をくらうまでガチ寄生していたことに少しくらい罪悪感持てばと言いたくなります。覚醒して成功を収めた主人公がやるべきなのは追放されたことに対する報復ではなく、今までかけてきた迷惑に対する恩返しでしょう……最低限の良識があるのならば。


 まあそんなわけで、この追放後に覚醒パターンで追放側を恨むのは筋違いもいいところとしか言いようがありません。

 大抵追放側が覚醒した主人公にパーティーへ戻れと高圧的に命令し、それに対して「もう遅い!」と主人公が突きつけるってシナリオになりますけど、まあ一度手放したものをもう一度手にするのは虫がいい話だってところまではいいとして、お世話になった相手への敬意くらい持っても罰は当たらないと思いますね。

 散々迷惑かけた挙句逆恨みする主人公とか、そりゃ嫌悪感の一つや二つ持って当然だと思う次第です……。




 と、三つの例を出してここまで長々と書いてきましたが、要するにとにかく「扱き下ろしてぶちのめされる役である追放する側の設定が雑」ってことです。

 とことん「こいつらが悪い! 主人公は凄くて正しい!」という路線で気分を盛り上げていくというのが基本プランなのに「こいつらそこまで悪いことした?」と疑念を持たれてしまえば最後、追放側を下げれば下げるほど主人公の性格の悪さが目立ってくるということですね。

 悪役として定義するならば、きちんとそこの整合性を考え、隙を無くすのは必須項目であると私は断言します。

 ただ何も考えずにテンプレに従ってそれっぽい理由で適当に「追放宣言したからあいつらが悪い!」じゃあ……いじめられっ子が力を得たらいじめっ子側に回って立場が逆転しただけで『結局登場人物全員同じ穴の狢でした』なんて身も蓋もない結論でため息吐かれるだけですよってことです。


 その点で言えば、やってることはほとんど同じな悪役令嬢婚約破棄もの辺りはまだ楽な方です。

 どんな理屈付けようとも『浮気した』という一発有責の最強ワードを使うことができますのでアホ婚約者を悪役にすることは比較的簡単なのですが、あくまでも仕事であるパーティー追放ものですと「追放側にも言い分はある」というのは常にありますので。

 婚約破棄ものとの最大の差異、追放側を悪く言う根拠が作りにくいというのはこの先この手の話を書く予定のある方は頭の片隅に入れておいた方がいいかと思います。




 最後にこの項目のまとめをしますと「パーティー追放ものへ嫌悪感を感じる根源は、一方的に追放側を悪だクズだと陥れようとする言動をするにも関わらず、主人公にも普通に悪いところが多々ある事」であると主張いたします。





4.まとめ~嫌悪感を抱かれないように注意すべきだと思うこと~


 ということで、最後のまとめになります。

 一言でここまで述べてきたことをまとめますとですね、つまりは


『読者を引きつける要素は十分にあるんだから、追放する悪役がきっちり悪になるように設定を練ろう!』


 というだけです。

 肝心要の「追放する!」の理由が弱かったり矛盾違和感だらけだったり、そもそも追放すること自体至極正論としか言いようがなかったりと……脚本の都合で無理矢理悪役を押しつけられた可哀想な被害者と読者に思われてしまっては「ざまぁ」を主軸とする追放ものとしては失敗と言うほかないのです。

 悪が何故悪行を働いたのか……その設定は、いつも正義サイドのそれよりも深みを求められるものですからね。何せ、普通やらないことをやる連中の行動原理を考えねばならないわけですから。




 蛇足ですが、私の感性で出せる解決法としましては、そもそも無理に追放側を貶めるのを止める……とジャンルが変ってしまいますので、追放する理由をより邪悪にするのが楽かと思います。

 能力の差とかですと今まで挙げたような問題に引っかかるので、『金銭問題のもめ事』『犯罪の濡れ衣を着せるため』『異性関係のトラブル』などなど、理不尽に追放する理由を現代社会でも通用しそうな生々しい理由にしてしまえば追放した側を心置きなく悪にできるかと思います。



 という辺りで、このエッセイを締めさせていただきます。

 独断と偏見で「パーティー追放ものってこういうのでしょ?」という歪なスタートラインから始まった話に異論反論多々あると思いますが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

































 ……あ、ちなみに全く触れなかったですけど、追放された後の主人公の言動はちゃんと客観的に評価しましょうね?

 普通に性格悪い危険人物に成り下がって「そりゃ誰でも追放するわ」と思われては本当にどうしようもないですから。作中人物から評価される主人公を目指すならば、追放ものに限らず主人公への客観的評価は必須ですよと最後に付け加えておきます。


追放した側はクズでカスで一方的な悪党。

という流れにするのは自由なんですけど、その割にはその根拠が弱いというか追放される側(主人公)に問題があるような気がしてなら無い私なりに「パーティー追放」を分析してみましたが、どうだったでしょうか?

異論反論ご意見ご感想あればいつでも受け付けております。


※宣伝

パーティーどころか世界規模で追放(至極当然の理由)される魔王を主人公とする

『魔王道―千年前の魔王が復活したら最弱魔物のコボルトだったが、知識経験に衰え無し。神と正義の名の下にやりたい放題している人間共を躾けてやるとしよう』

https://ncode.syosetu.com/n5480gp/

を連載中ですので、下のリンクよりよければ見に来てください。


その他短編、エッセイも幾つかあげていますのでそちらも作者ページよりどうぞ!


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[一言] ・追放時点で評価されるべき能力、実績があるのか? ↓YES →NO お前の実力が足りないだけやんけ ・自分には何がどれだけできるのかきちんと伝えていたか? ↓YES →NO …
[一言] 追放物というのはザマァ物と成り上がり物、その二つを合わせた物に別れると思いますが、ここではザマァ物に関してのことですよね。 ザマァ物というのはザマァそのものを楽しむもので、その他の整合性だと…
[良い点] すごく納得しました。 書くときは、追放理由を練りに練ることを誓います(悪役設定を盛りますね)。 [気になる点] あなた様でしたか・・・ [一言] 面白く拝見させていただきました。 最後ま…
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