友達が死んだ
内容はない
僕よりずっと生きていた方がいい人だった。
高校の時、片足を庇って杖をつく女の子を帰り際眺めていた。
ローカル線の無人駅、逆方向に向かう電車に乗る僕は、ただ何となく、背の高いその子を見つめていた。
遅れて入部した部活にその子はいた。
何となく、後ろ姿からの印象とは違っていた。
ああ、こういうのをサバサバしていると言うんだろうなという、芯を持った、力の抜けた笑い方をする子だった。
初めて会った時は、黒くて重い、ぱっつん姫カットと形容していいような、なんとなく2次元みたいな印象の髪型だった。
「あぁ、これカツラ」
というあっけらかんとした声に度肝を抜かれた。
庇っていた片足は義足だった。
肺も欠けていた。
とても楽しい日々だった。
その子は多方面に造詣が深いオタクで、趣味が合った。
たくさんのことを知っていた。
進学校であったから、勉強もたくさんしなくては行けなくて。
その子は通院で学校を休んでいたくらいだから、ずっとずっと僕より努力していたと思う。
入退院を繰り返しながら、色んな体の一部を失いながら、それを笑い話にして、好きなことをして。
なんて強いひとなのだろうと思った。
3年間はあっという間だった。
彼女は体調を崩しながらも勉強に励んでいた。
浪人が決定した時も、僕の大学進学を喜んでくれた。
遠くの地に行く僕に、遊びに行ったら沢山やりたいことがあると言ってくれた。
とても嬉しくて、待ってるね、と言った。
夏、彼女の肺に穴が空いた。
なぜ彼女にだけこのような試練を与えるのか、僕はどうしてこんなにのうのうと生きているのか、世界は不平等で残酷だと知った。
それでも遊びに誘ってくれる彼女に、とてもとても感謝した。
長生きして欲しいと思った。
繋がりを絶ちたくないと思った。
年明け、彼女から、大学合格の連絡を貰った。
とても嬉しくて、会いに行きたくなった。
でも、彼女は入院していた。
大学には行かないことにしたらしい。
8月には新しい治療法が始まるから頑張るのだと言った。
祈ることしか出来なかった。
5月、彼女の好きな特撮を見て泣いた話をした。
それ以降、返信が来ることは無かった。
12月、彼女の20歳の誕生日になった。
僕は彼女が8月で止まっていることを知った。
20歳にはなれなかったと、知った。
彼女は、去年の年末から、年が越せるか分からなかったらしい。
大学に合格したのだ。
そんな状態だったのに。
未来の話をしていたのだ。
そんな状態だったのに。
やりたいことをしていた。
生きていた。
僕は何をしていたんだろう。
恵まれた人生を送ってきた。
僕が無為に過ごした時間を全て、彼女にあげられたらと心から思った。
僕が彼女にできたことは何かあっただろうか。
何も出来なかった。
彼女の死を直接知ることすら出来なかった。
涙が止まらなくなった。
寝て起きたら、彼女の、過ごせない日々を過ごしていると自覚して生きようと。
今日は暖かい布団で早めに寝て、明日からまた頑張ろうと。
眠れなくて、苦しくて。
これをどこかに吐き出して、適当に慰められるのも煩わしかった。
彼女の死を消化するのが嫌だった。
こんなに涙が止まらないのに、フィクションの中の人物みたいな心の声を出して、こんなものを書くのが自分なのだと、この文自体を書くことが、もう全部、全部、全部嫌だ。
彼女を忘れたくない。
記憶が遠い。
死なないで欲しかった。
読んでくれてありがとう
僕達は、生きていこう