表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

磨りガラス

 義母は毎朝「今日は天気悪そうね」と悲嘆いたしておりました。

 磨りガラス越しに見れば、どんな世界も朝は曇り空でございます。

 「お勝手のガラスを変えたからですよ」と説明し窓を開けてみると、毎度とても不思議そうな顔をしておりました。

 

 分かっていても、北向台所の磨りガラスでは、どうしても天気が悪く見えてしまいます。

 そんな会話が、今日も一日が始まったと知らせてくれているようで、私はまんざらでもありませんでした。

 しかし主人は、毎日繰り広げられるそんな会話に辟易しておりまして、義母に「何度言えば分かる」「まだボケるな」と厳しく当たっておりました。

 それでも義母は、笑って受け流しておりました。

 

 義母が亡くなった翌朝の事です。

 珍しく早朝、台所まで牛乳を取りに来た主人が「なんだ、雨でも降りそうな天気だな」と申しました。

 まさか義母が亡くなっても、変わらず同じ言葉が聞けるとは思わず、つい振り返って主人を見つめてしまいました。

 その時の主人の「しまった」と言いたげなあの顔と言ったら、今でも手に取るように思い出せます。

 

 いつも通り「お勝手のガラスを変えたからですよ」と言いながら窓を開けると、その日に限り、予報に反して小雨が降っておりました。

 変わらぬ日常と言うのは、意外に脆く失くしてから気づくものなのですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ