無力な猫
少女は震えていた
声を殺してただ見つからないように隠れるしか出来なかった
村のみんながどうなったのかは分からない
悲鳴はしばらく前からあまり聞こえなくなっていた
我が家ではいま
お母さんが賊に犯されていた・・・
私が隠れているのが気づかれないように
お母さんは私の存在を隠すためにわざと賊に見つかった
私は怖くて怖くて涙を流しながら必死で声ををさえた
どうしてこんなことになっているのか分からずただ私は神に祈った
「神様どうか助けてください」
数時間前まで普通ののどかな村だった
そう、彼らが来るまでは・・・
吾輩は猫である。名前は小虎。
今日も日課の村の見回り中だ
湖の辺にある小さな村で、この村は100人程度が住んでいる比較的に新しい村だ
なにか異変はないか入念に縄張りを巡回している最中である
「よっ!小虎!今日もご苦労さんだね」
村で魚屋をしているオジサンがそう言って声をかけてきたので
自慢のしっぽをフリフリして返事をする
吾輩はこの小さな村では知らぬものが居ないほど有名なのだ
今日も吾輩はの魅力に村人達はメロメロになっているな
違う場所では近所の子供が虫の形をした玩具で吾輩をからかってくる
仕方ないので少し遊んでやるかな
ダダダダッ!シュパ!パンチパンチ!
30分ほど遊んでやったら子供が疲れたのか飽きてしまった
少し遊んでやるつもりが本気を出してしまったので仕方がない
なかなかに楽しい時間であったぞと「ニャーォ」と褒めてやった
しばらくの巡回も終わり夕方になってきたので我が家へ帰宅だ
この家には、お父さんお母さんと我が飼い主である12才になる一人娘の「チハル」がいる
吾輩が帰ったことに気がついたチハルが吾輩を抱き抱えた
チハルはなんだか甘い匂いがするので吾輩はチハルに抱き抱えられるのが好きだ
「おかえり小虎。今日はどこに遊びに行ってたの?」
失礼な!吾輩はけっして遊びに言ってた訳では無いのだ
村の中に異変がないか見回りをして
陽の当たる場所でお昼寝をして
湖の周りにいる鳥達を追いかけ回し
立派にこの村を守ってきたのだ
失礼なことを言うので肉球でほっぺたをペチペチして「シャー」と威嚇してやった
そろそろ日も暮れで晩ご飯の準備をどの家庭でもしている時間に異変は起こった
どこかで叫び声や悲鳴が聞こえてきたのだ
少しして近所の魚屋のオジサンが賊が村に押し寄せてきたと我が家に伝えに来た
小さな村だがこの村には自警団もあるので大丈夫だろうが戦える村人達は集まれとの事だった
「お母さんとチハルは隠れていろ!」
お父さんはそう言うと家から飛び出していった
お母さんとチハルは家の床下にあるあまり大きくはないが保存食などをしまうスペースに入り隠れることにしたみたい
吾輩は村の安全を守るためにお父さんの元へ馳せ参じようとしたがチハルに抱き抱えられてしまい身動きが取れなかった
どれくらい時間がたったのか分からなかったが争っている音や声が少しずつ近ずいて来ているような気がした
チハルは吾輩を抱えながら震えていた
お母さんは状況が分からないけど、あまりいい状況では無いと思ったのか
「チハルはここから絶対に出たらだめよ!」
と言い、チハルと吾輩を残して出ていこうとした
チハルは
「お母さん行かないで!」
と手を伸ばす
吾輩は拘束が緩んだのでお母さんと一緒に外へと出た
お母さんは外に出ようとはせずに様子を伺っているみたいだったので
「ニャー!(吾輩は外を見てくる!)」とお母さんに伝えて外へ飛び出した
外は地獄のような光景が広がっていた
村人達の男たちは無惨にも殺され
女達は賊に集められたり犯されたりしていた
お父さんは!?
吾輩は必死に走った
そしてお腹から剣を生やして倒れているお父さんを見つけた
「ニャー!(お父さん!)」
お父さんは既に事切れていた
もう戦っている村人もだいぶ少なくなっているようで
賊達は戦利品を漁るように村人達の家をしらみつぶしに物色しだしていた
吾輩は急いで我が家に戻った
そこで見た光景は・・・
賊に犯されながら首を絞められ力なく横たわっているお母さんがいた
吾輩は賊に飛びかかり必殺の猫パンチを繰り出した
会心の一撃だった
守った!
そう思った時に賊に殴り飛ばされた
たったそれだけの攻撃で吾輩は動けなくなった
吾輩は薄れゆく意識の中で見てしまった
隠れていたはずのチハルの存在がバレてしまっていて
今まさに引きずり出されている姿を
あぁ・・・吾輩はなんて無力なのだ
この世に神はいないのか・・・
誰か助けてくれ・・・
誰でもいい・・・吾輩にチハルを守れるだけの力を・・・
チハルが泣きながら抵抗していたが賊に顔を殴られた
誰か・・・
「なんか呼ばれた気がしたんだが。なんだお前?猫が儂を呼んだのか?」
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