表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/99

壁を破る男

「分かってるな弟子よ。俺達催眠術師が勝利の鍵ってんなら、実質お前だけが頼りみてぇなもんだ。俺はもう引退した身だからな」

「ああ、分かってる。あんたは俺の修行相手になってくれればそれで十分だ」


 装備を職人に任せた俺と師匠は、店の外に出ていた。

 フリーダ達も気になったのか、外に出る。

 この辺りは街の外れだ、誰かに見つかる恐れは少ないだろう。

 するとフリーダが聞く。


「引退してるという割りには、筋肉パンパンじゃないか? 鍛えていそうだが」

「ですです。おまけに見せびらかすかのような上半身裸で……め、目のやり場に困りますがっ」

「俺のこの体が鍛えてる? カカっ! そりゃお門違いってもんだぜお嬢さん方!」


 両手で目を覆うオリヴィア。

 そんな、オリヴィアを困らせている上半身裸な師匠は、続けてこう言った。


「こんな筋肉は催眠には不要よ! こりゃ引退後に付けた筋肉、女をよりもっと落とすためだけに付けた、ただの格好付けだぜ! フンっ、ムキムキ!」

「筋力を付ける暇があったら催眠力を伸ばすべきだからな。催眠術師は万能じゃない」

「カカっ、そういうこと! ――んで? お前が俺に話したいことってのはなんだ、弟子よ」


 成長を見ると言った師匠に俺はある話をしたいと言っていた。

 それは、新スキル習得だ。


「ズバリ言う。耐性+10000%の壁を破りたいんだ。どうしたらいい」


 そしてそれは、オリヴィアの体質のことだった。オリヴィアははっとした。


 この戦いにTier(ティア)5は必須だろう。

 俺自身も習得していないが、一番可能性があるのは凡人の俺ではなく、天才のオリヴィアなのは間違いない。

 だったらまずすることは、彼女の全基本耐性+10000%を破り、俺のバフで少しでも『頂点』に近づけることなのだ。


「カカカっ! なんだそのバカげた桁は! まぁでも要は、高催眠耐性を無視したいって話だな?」

「まぁそういうことだ。色々考えているんだが、手詰まりでな。あんたの知恵を借りられればと思ってな」

「カカっ! 相変わらず頭の硬い男だ! んなもん、単純な話じゃねぇか」

「な、なに? 方法があるのかっ?」


 師匠が笑い飛ばしたのを見て、俺は素直に驚いた。

 師匠は答えを言う。そして俺はその答えにすぐに納得した。


「〝耐性貫通〟。このスキルを習得すれば全部解決する話じゃねぇか」

「耐性貫通……! そうかなるほど確かになっ。耐性貫通ならば、対象の耐性がどれだけ高かろうと関係なく突破出来る。もっと悩むものかと思ったが、難しく考えすぎていたか……さすが師匠だ、単純で分かりやすい」

「おぅ皮肉屋の弟子よ、そりゃ褒めてんのか?」


 師匠は眉をひそめたが、別に怒っている様子はない。むしろ懐かしいやり取りに笑っているくらいだった。


 『耐性貫通』。

 とにかく、オリヴィアの耐性を突破する方法は見つかった。

 問題はそのスキル習得についてだが。


「ただ弟子よ、耐性貫通スキルは高Tier(ティア)のスキルだ。Tier(ティア)4か、Tier(ティア)5……いや、5はねぇな。4と5の間くらいはあると見ていいぜ」

「だな。これがただのTier(ティア)4止まりなら、俺もとっくに習得して、敵の催眠耐性に悩まされることもなかった。Tier(ティア)4.5って奴か……」


 ジルが見せたあのTier(ティア)のスキルということだ。

 少なくとも俺は、そこまで自分の力で昇らないといけないわけだ。


「お前の今の目的はそのスキル習得ってわけだな。んじゃあ、ぐだぐだ言ってねぇで修練始めるとしようぜ。時間は無限にあるわけじゃねぇんだからよ」

「そうだな師匠。武器はまだ持っているな?」

「もちろんだぜ。()()とナイフが俺流の自衛手段だ」


 師匠ルドルフは武器を取り出した。

 俺と同じ、糸に吊り下げたコインである。

 俺の武器は職人に預けているので、手持ちの金で即席の吊り下げコインを作る。


 いよいよ、催眠術師同士の修練が始まる。

 と、見学していたジルが何か嫌な予感でもしたのか言った。


「……ち、ちょっと待って。これから修行するのよね? 催眠術師の修行って、まさか」

「ああ。お互いに催眠術をかけたり防いだりする。……傍から見るとコインを揺らしているだけだ」

「めっちゃ地味です!?」


 最後にオリヴィアにツッコまれてしまったが、否定出来ないのが悲しいところだ。


「さぁ行くぜぇ弟子よ! 引退したジジイだからってなめんじゃねぇぜ!」

「当たり前だ。この修行が街と世界の存亡をかけているわけだからな」


 そうして俺達催眠術師のめっちゃ地味な修行が始まった。

 コインを揺らし会うこと一時間――


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……ま、参ったぜ弟子よ! 引退したとはいえ、俺も昔はA級冒険者、Tier(ティア)4までは行ったんだがな、やっぱ現役には勝てねぇや!」

「はぁ、はぁ……いや、師匠もまだまだやるな。即席の武器とはいえ、良い勝負だった」

「くかー……あっ、終わったのか?」


 俺達が真剣にコインを揺らしている中、フリーダを始めとした女性陣は寝ていた。

 だがそれが証明になった。


「どうだい弟子よ、目当てのスキルは習得出来たかよ?」

「ああ。催眠デバフが効かないはずのフリーダに、そしてオリヴィアまでもがうっかり寝ていた。習得出来たみたいだ、俺のTier(ティア)4.5スキル、『耐性貫通』がな」

「なんてことだ、退屈で眠っちゃっただけかと思ってたぞ!」


 フリーダ、なんてことを言うんだ。まぁそんなボケを言えるということは、立ち直ったということでもあるけどな。


「だが弟子よ、耐性貫通出来るようになったからと過信はするなよ。『耐性貫通スキルそのもの』には催眠効果は含まれねぇ。つまり耐性貫通スキルを使った後に、本命の催眠スキルを使わねぇとなんの意味もねぇってことになる。弟子よ、お前なら分かるな、この意味がよ」

「〝二手〟かかる。分かっている、実戦で使う時は、タイミングを見なくてはいけないわけだ」


 これでどんな敵にもデバフを通すことが可能となったが、万能ではない。

 耐性貫通からの催眠スキル使用と、発動には時間がかかる弱点があるのだ。

 俺にはハブの仕事もあるのだから、タイミングの見極めは特に重要だろう。


「これがTier(ティア)4.5たる所以といったところだろうな。だが今はこれで十分満足だ」


 欠点は存在するが、オリヴィアの耐性さえ突破出来れば今はそれでいいのだからな。

 すると、師匠がニカっと笑いながら言う。


「カカっ! 新しいスキル習得したてではしゃいでると、うっかり命落とすこともあるからな! 師匠からのありがたい忠告だったが、お前には必要なかったか!」

「スキルの特性を理解するのは重要だ。こう言った確認作業も大事だと、昔から師匠は言っていたしな。……アイディア出しや修行にも付き合ってくれて助かった。あんたみたいな男にでも一応礼だけは言っておこう。ありがとう、と」

「カカっ! 相変わらず生意気な弟子で師匠は嬉しいぜ!」


 地味だったが、とにかく俺は新たなスキルを習得出来た。

 これで――出来る。


「オリヴィア、待たせたな。これで君にも催眠紋をかけることが出来る。君の耐性を下げることなく、バフをかけることが出来るんだ」

「今は非常時、神の声を聞くための耐性下げは別の機会にするとしまして……やはりマルク様は、神の伝道師、私の救世主でございましたっ」


 オリヴィアは俺に祈りを捧げる。

 胸元がパツパツで、スリットの入った修道服で。


「……オリヴィア、早速そこでやろう。もう我慢出来ない」

「えっ、そ、そこって、路地裏――あれ~っ」

「ちょ、ちょっとあんたオリヴィアを路地裏に連れ込んで――ど、どこでやるつもりよ!?」


 修行には一時間かかった、もうあまり時間はかけられない。

 今は急いでいるし、店は男の職人達でてんやわんやだろう。

 それに新しいスキルを習得したばかりで、早く試したくてたまらない。


 だから俺はオリヴィアを路地裏に連れ込んで、そこで催眠紋をかけることにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 微妙に下ネタになってるのがよいですね(笑) オリヴィアがエロくていい。特にスリットが(笑) マルクにはもうちょっと男になってほしいかな。魅力的な女性見ても紳士を理由に興味ないのはちょっとなぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ