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口数が少ないのには理由がある。キザなのと、それと ③

「良い夢だな。失礼だが聞かせてもらっていたよ。あなたの夢に――乾杯」


 フリーダは昨晩と同じミニスカートなドレスアーマー姿で、杯を掲げていた。


「いたのか、気付かなかった。めちゃくちゃ目立つ格好なのにな」

「私は最初からあなたに気付いていたよ。だがフフフ……こちらから男性に話しかけるのもドキドキするし、いつ話しかけてくれるのか考えてもソワソワもするしで、ずっと落ち着かない気持ちでムズムズしながら話を盗み聞きしてしまったんだ。気付いてくれてホッとした、はふぅ」


 こんな目立つフリーダに気付かないとは、俺も相当追い込まれていたらしい。


「聞いてしまったお詫びに私の夢も語ろう。私の夢は、遠く遠征先で亡くなった父の剣を探すことだ」

「はぁ、別に聞いていないんだがな」


 フリーダはもう一度杯を掲げてにこにこと笑う。

 俺より若いのに大変そうなことだ。


「まさか俺を探していたのか?」

「うむ。簡単だったよ、あなたの強い『催眠臭』を辿れば巡り会えるはずだからな」

「『催眠臭』なんて用語はない。俺を臭いみたいに言わないでくれ。……それで、俺に何の用だ」


 フリーダは俺を探していたらしい。

 理由を尋ねると、彼女は一般女性に比べて割りと大き目な胸に手を当てる。

 ドレスアーマーの胸の部分は金属性のプレートではなく、魔法の糸で編まれた防御効果の高い衣服状のもの。アーマーの類でも軽装の部類に入るタイプだ。

 胸に手を当てたのは、騎士流の礼儀だ。


「昨晩の礼をしたかった。催眠で無防備となった私を助けてくれてありがとう、と」

「それは皮肉か? 俺がいなかったらそもそも催眠なんかにかからなかった」

「え!? ち、違うぞ! 本心から礼を言っている! ……催眠にかかったのはあなたのせいじゃない、私の体質のせいなんだから」


 フリーダは焦りながら、両手を振って否定いていた。

 騎士らしく振る舞ってはいるが、言葉の端々、そして動作の端々から、女性らしさが垣間見える。それもどこか、少女然とした幼いものだった。


「ずいぶん催眠にかかりやすいようだな。……隣に座ったらどうだ、後ろを向きながらのお喋りじゃあ、酒が楽しめない」

「うむ、そうさせてもらおう。だが勘違いしないでほしい、これは男性に誘いに乗ったというわけではないということを。簡単に『私は――堕ちない』ということを」

「分かっている。ところで、何を飲んでいるんだ?」

「搾りたての牛さんミルク、デス」

「……もう堕ちてるぞ」


 言ったそばから催眠にかかる女騎士フリーダ。

 俺はあの時のように手を叩いて催眠を解除してやった。


「んほっ!? ……こ、これだけ自分に言い聞かせても無駄なのか……こ、こんな強力な催眠術師、私は初めて会ったぞっ」

「やはり俺たちは相性が悪いな、マスターを介して話した方がいい。……君みたいな()()()()に初めて会って新鮮だがね」


 あらゆる敵がこれくらい催眠にかかってくれれば俺も苦労はしないんだがな。

 とにかくこのフリーダという女性騎士は、中々――いや相当に稀有な体質のようである。

 マスターは戸惑うことなく快く引き受けてくれた。やはり最高だ。


「しかしそれだけ催眠にかかりやすいなら、今までも色々大変だったんじゃないか。どうやって生活してきた」

「その点なら心配いらない。さっきも言った通り、並大抵の催眠なら私はかからないんだ。なぜなら、『絶対に――堕ちない』という私自身への強い『自己暗示』によって、逆に催眠にかかりやすい体質を利用し、弱点をカバーしているのだっ」

「君は騎士で、催眠術自体は使えそうにないが……なるほど、強い『信念』があるか。まぁ、ただの自己暗示で乗り切っているのも中々ぶっ飛んでいるが」


 理解は出来る。

 ただ、どうにも抜けたやり方に見えてしまうな。


「なので、私は催眠に堕ちたことはない。薄い本的なことはされていないのだ! ……ま、まぁそもそも、男性と、よ、夜を共にしたことすらないけどもっ」

「……薄い本が何だか知らないが、最後のは胸を張って言うことなのか」


 薄い本とは何のことだろうか。

 俺の知識にはないことだったが、フリーダは構わず話を続ける。


「だからまさか、私の『信念』を破る使い手が現れるとは思わなかった。……も、物は相談なんだが、もう一度私に催眠をかけてくれないかっ」

「君に催眠を? なぜだ」

「今この時だけでも克服したいんだ。このままじゃ会話もままならない。それはなんだか……寂しいし」


 今も俺たち二人はマスターを介して話しているわけだが、そういうことか。

 気丈に振る舞っている彼女だが、精神的にはまだまだ幼いところがあると見える。

 俺は、寂しいと口にした彼女のために、催眠をかけることにするのだった。

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