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逆転の催眠術師

「勝ち筋、って、この街全ての冒険者を敵に回すのよ!? マ、マジで言ってるのマルクっ」

「困窮している人々のためにも立ち上がるべきだとは理解しておりますが……マルク様、さ、さすがに今の状況を私達だけでどうにかするのは無理が……」

「マルク、すまない……私がもっとしっかりしていれば……」


 フリーダは少し違った雰囲気ではあったが、俺の仲間達はさすがに難色を示していた。

 仲間達だけではない、職人達もそんな顔をしていた。

 当然だし、客観的な意見はとてもありがたい。


 だがこの男だけは違った。


「カカっ! 勝ち筋たぁ言うじゃねぇか弟子よ。面白そうだ、聞かせてみろよ、お前のその勝ち筋ってやつをよ」

「あんたはいつも、俺を試すように言うよな。いつまでも先生気取りか、師匠」

「カカっ、当たり前だぜ。お前はいつまでも俺の弟子だからな――ただ一人の俺の弟子よ」


 俺を信頼して言ったわけではない。

 俺の師匠ルドルフは、いつまでも俺の師匠でいたいだけなのだ。

「隠れるだけなのも暇だろうから聞いてくれ」と俺は切り出して、作戦を話した。


「まず街の状態から確認しよう。リフトと門は完全に封鎖され、外部からの侵入は阻まれている状況だ。俺達はたまたま新設されたリフトを利用したから侵入出来たが、それももう封鎖されているだろう。外部に街の状況を伝えるのは困難だ」

「だな、弟子よ。こっちもエルフの符呪屋に『通信魔法』を試してもらおうとも思ったが――思いとどまった。内部の状況を伝えることで、逆にやべーことが起きるんじゃねぇかって思ってよ。ただの俺の直感だがな」

「……いや、それは正しい選択だと思う」


 師匠は直感で連絡を避けたようだが、俺は熟考した後賛同した。


「ビアンツはアリアンデール王国統治下の一都市だ。もうすでに街の異変は伝わっていることだろう。――冒険者が一斉蜂起したとな」

「蜂起……! で、でも皆さんは操られているだけです、説明すれば」

「それが出来ないのさ、オリヴィア。冒険者が皆、催眠術なんて低位のスキルで操られているなんて誰も信じないんだよ。ギルドの評判だけは変わりつつあったが、世界の常識はそんなに簡単には覆らない」


『催眠術で街の住人が全員操られました』


 こんなこと言われて、信じる者がいるだろうか?

 いないだろうな。催眠術師の俺だって信じなかったと思う。

 催眠術はあらゆる意味で信用されないのだ。


「連絡と交流を一方的に絶ったビアンツ。間違いなく一斉蜂起したと伝わっている。なら、間もなく始まるだろうな。アリアンデール王国直属の軍隊と、操られた冒険者達との〝戦争〟が」

「戦争……そ、そんな……! あの男の手によって、私の父だけでなく、多くの命までもが失われるのか……!」


 フリーダは自分の胸を掴むように手で握りしめて、苦しんでいた。


「だから内部の情報を伝えるのはかえって良くない。現場の状況を確認され、突入が早まる恐れがある。外部に連絡を取るのはナシだ」

「カカっ! 俺の直感は正しかったってわけだな。……それに、それだけじゃとどまらねぇかもしれねぇ」

「ああ……下手をすればその突入した軍隊すらも操ってしまうかもしれない。操った軍隊で王国を乗っ取ることすら可能かもしれない。そうしたら次は世界各国や種族を越えて魔物すらも――冗談でもなんでもなく、本当に〝魔王〟が誕生してしまうかもしれないんだ」


 皆が息を呑む。


 〝魔王〟ブタドス。


 まさか催眠術師ごときがと俺ですら思うが、この最悪の展開は、起こりうる事実なのである。


「んで、状況を改めて整理するけどよ」


 師匠は指を一本一本立てていきながら、説明した。


「冒険者は全員操られて敵に回った。街は完全に封鎖された。外部に助けを求めることも出来ねぇ。そんでもって、すぐに戦争も始まると。――カカっ、ついてねぇ! どえらいタイミングで来ちまったもんだぜ俺も!」

「察するよ師匠、あんたみたいな人でもさすがにな」

「へっ、それで弟子よ。こんな状況でも見た、お前の『勝ち筋』ってのは、なんだ?」


 絶望的な状況だというのに、師匠はどこか軽そうだった。

 だが――話を振られた俺も俺で、笑ってこう言うのだった。


「敵がお粗末な素人集団だってことだ。脅威なのは催眠アプリという古代兵器だけ。そして――」

「そして?」

「この街には、催眠術師(おれ)達がいたってことだ」


 俺は、お得意の格好付けマンを発動させて、言い切るのだった。

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