お待たせしました、三者三様の水着です
「お、お待たせいたしました……マルク様」
「レディを待つことに苦はない――なんだとっ」
女性陣の衣装チェンジをビーチで待っていると、一番に現れたのはピンク髪の修道女オリヴィアだった。
俺はそんな彼女の姿を見て度肝を抜かれた。
「すみません、初めて着るもので手間取ってしまいました。こ、これでよろしいのでしょうか? 上のサイズが合わない気が……下も下で、ちょっと切れ込みが……」
「なぜそんなハイレグをチョイスした」
オリヴィアの水着はレオタードのような肌にピタッと吸い付くタイプの水着だった。
色はグレー。
大きな胸を無理矢理しまいこんでいて、ただでさえ小さめのレオタードはパンパンだ。
胸と胸の間には『谷間』が出来るものだが、今のオリヴィアは胸と脇の間ぐらいから、胸の肉がはみ出している状態だった。
「しかしエグい切れ込みだな……それしかなかったのか」
「は、はい、村長さんが言うには……」
続いて下半身だが、こちらは俺がエグいと言うくらい、切れ込みがV字だった。
元からツルツルなのかは分からないが、処理をしていないとファサっとはみ出てしまうレベルだ。
男と違い、女性は股間に何もついていない。
それが当たり前と理解しているのに、股間になんの起伏もない女性特有のフォルムは、これでもかと男の刺激を掻き立ててきた。
「あ、あの、私、正しく着られていますでしょうか」」
「ああ、まぁ……正しい着方だと思う。ほら、ビアンツでもたまにいるだろう、ビキニアーマーの冒険者が。あれみたいなものだと思えば」
「な、なるほど。冒険者たる者、こういった装備をしろ、というわけでございますねっ」
「いや、そういうわけじゃないんだが……フォローが難しいな……」
俺は最近のビアンツの流行に例えて言う。
紳士な俺がハイレグなんて単語を知っているのもそのためだぞ。
オリヴィアはお腹の辺りを手で隠し、もじもじとしていた。
俺はすぐにその行動を理解して、こう投げかけた。
「オリヴィア、堂々としていた方が格好が良いぞ。それに――君が心配するほど、君は太ってはいない。スリムだ」
「マ、マルク様……! よ、良かった、お腹だけが気になってて……分かりました、堂々とします!」
オリヴィアは腹を気にしていたのだった。
だがはっきり言って、腹に関しては普通の女性と変わらない。
胸はとんでもないが。
女性は気にしがちだ、しっかり言ってやった方がいいこともあるのだ。
「でもごめんなさい、ちょっとだけ、お腹に力入れて引っ込めてました……」
オリヴィアは最後にお茶目なことを言うのだった。
「ぅ、ぅう、お、お待たせ……」
「来たかジル――うおっ、君もまたずいぶん」
オリヴィアの次にやってきたのはジルだ。
こちらもこちらで、相当エグい水着だった。
「ジル、君が着ているそれは――マイクロ水着というやつではないかっ」
「み、水着の種類なんて知らないわよっ! ほ、本当にこんな小さな水着しかないのっ……」
涙目で一杯なジルの姿は、もうほとんど裸だった。
マイクロ水着――大事な部分だけに、薄い布が当てがわれているだけの水着を着用していたのだ。
ジルは背が低いため幼く見られがちだが、体は立派な女性だ。
フリーダとオリヴィアと比べれば控えめだが、胸は一般女性のそれよりかはわずかに大きい。
そんな比較的大きめな胸を薄く小さな布で隠しているのだから、こちらもこちらでエグかった。
「そ、それにそれに……お腹のこれ! せっかく隠したのに、見えちゃってるじゃないっ!」
「催眠紋か」
そして下半身。こちらの水着も例に漏れずマイクロだ。
分かりやすく言おう、大事な部分は『▽』で隠しているだけだ。
あとは細い紐で繋いでいるだけで――正直動いていたら切れるかどうかしそうなくらい、不安な作りだった。
色は上下共に少女が普段着ている格闘服の色である青。
もちろん、こちらの少女もファサっとはみ出てはいなかったが。
それよりもジルは下腹部の催眠紋が気になっているらしい。
「衣装店では上から布で覆う方法を取ったからな。肌そのものを露出してしまえば見えてしまう、と」
「の、呑気に解説すなーっ!」
ツッコミを入れるジルは、オリヴィアとは違った意味で腹を隠すのであった。
ジルは恥ずかしさのあまり、ぺたんとしゃがみ込んでしまう。
俺は言った。
「立て、ジル。……これも訓練だ、精神を鍛える、な」
「精神……! な、なんかそれっぽいこと言われてるだけな気もするけど……わ、分かった――わよっ! で、でも勘違いしないでよねっ! あたしのメンタルは元々つよつよなんだからっ! もっと強くなるってだけだからっ!」
「分かっている。ここで成長して、文句なしのS級になろう」
「う、うん! ……あとあんまりこっち見んな……熱くて……きゅんきゅんしちゃうっ……」
ジルは俺の言葉に勇気づけられて立ち上がった。目は涙目でうるうるだったが。
これがトレーニングになるかどうかはお互い怪しいと感じていたが、とにかくジルは元気になった。
さて――後はあの女騎士殿だけだが。
一体どんなどぎつい水着を着てくるのかと俺は身構えていると。
「――おーいみんなすまない! 待たせたっ!」
「って、なんであんたは普通の水着なのよっ!」
現れたフリーダにツッコんだのはジルだった。
フリーダの水着を見て、俺が言う。
「本当に普通の水着だな……」
「そ、そうだけど……? な、なんでちょっとがっかりしてるんだ!?」
フリーダには俺ががっかりしてるように見えたようだが、露出の少なさにがっかりしたわけではない。
ツッコミのし甲斐がない水着にがっかりしたのだ。――露出の差じゃないからな!
フリーダの水着は爽やかな白。
ブラの谷間部分にリボンが飾り付けられていて、下は一般的なパンツタイプ。
そのパンツの上から、同じ白のパレオを重ねている、とても普通な水着だったのだ。
「フリーダさんも、お腹に催眠紋があるのですね。……羨ましいです」
「えへへ、その内オリヴィアにも入れてもらえるから、それまでの我慢だよっ」
そんな普通なフリーダの唯一特筆する点が、俺の催眠紋だ。
ジルと同じようにピンク色の紋が下腹部に入っているのだが、この太陽の日差しのせいだろうか、いつもよりピンク色が増しているような気がするのだった。
ちなみにだが、催眠紋は水くらいで解けたりしないので安心してくれたまえ。
「はぁ、つまらんな」
「ええっ! ひどいぞマルク、こ、これでも結構恥ずかしいんだぞ! ……二人に比べたらそんなこと言えないのかもだけどっ」
「冗談だ。――似合っているぞ、フリーダ」
「っ! あ、あなたという人は……不意打ちすぎるっ!」
もちろん、つまらないというのは冗談さ。
俺がそう声をかけるとフリーダは耳を赤くして、パレオをぎゅっと掴んでいた。
ああそれとだが、俺の水着はとんでもなく普通なハーフパンツタイプなので、特に言うことはない。
あまりに普通過ぎて、オリヴィアも俺の裸体に目隠しするようなことを忘れたくらいだ。
普通な水着のフリーダが現れて、これで全員揃ったと俺が思っていると、スイムン村長とサンセツ補佐が不気味な笑いを浮かべてこう言った。
「ムフフ……フリーダ殿の水着がこれで終わりと思ったら大間違いなのじゃっ……!」
「爺ちゃん……っぱ仕込んだんっすね、アレをっ……!」
「何を企んでいるんだか」
フリーダの水着には何か仕組まれているらしい。




