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一つ目の話 ~これからも女騎士は変わらない~

「皆様初めてお目にかかる。私は純白角(ユニコーン)騎士団六代目団長、エルミナと申す。以後、お見知りおきを」


 立ち上がってそう挨拶したのは、フリーダが以前所属していた騎士団の団長だった。


 短めの金の髪だが、前髪で片方の目が隠れている。

 背はフリーダよりも高く、ヴァネッサと同じくらいか。

 スラリとしたスタイルで凹凸は控えめかもしれないが、見目麗しい。

 そして団長エルミナはティーカップで紅茶を嗜んでいた。フリーダはミルク好きだし、この騎士団は何かそういう決まりでもあるのだろうか。

 フリーダと違ってパンツスタイルなのもあって、演劇で男役を演じる女性のような、美しさと、そして華やかさがあった。


「団長、お久しぶりです。私に冒険者の推薦をしてくれた以来ですか……あの時は本当に助かりましたっ!」

「元気そうで何よりだよフリーダ君。素敵な仲間も見つかって、私も安心したよ。――フリーダ君に良くしてくれた貴殿らにも、謝辞を述べさせてほしい。本当にありがとう」


 騎士団長エルミナは胸に手を当て、目を閉じて騎士団流の礼儀を示す。

 深く、長く。礼を尽くす。


 フリーダはとある事情から騎士団をクビになった身だが、この騎士団長だけは親身になって面倒を見てくれていたと聞いていた。

 片側は髪に隠れて見えないが、その目を見れば分かる。

 この騎士団長を名乗る女性は、フリーダと同じ高潔な人物で、きっと信頼出来る女性なのだろうと。


「それでヴァネッサ、それにエルミナ女史も。二人揃って俺達に用事とは、一体なんなんだ?」

「私のことはエルミナで構わないよ、マルク君。……話というのは他でもない。フリーダ君、君の()()のことだよ」

「父の……!」


 それは、フリーダの暗い過去。

 謀殺されたという父親のことだった。

 エルミナがフリーダに目配せすると、フリーダは察して言う。


「団長、私はここにいる仲間を皆信じている。……話してもらって大丈夫です」

「そうか……マルク君や他の仲間達のことはヴァネッサから聞いている。強くなったね、フリーダ君。では話すとしよう、君の殺された父君のことを」


 ジルとオリヴィアはそれを聞いて驚いた表情を見せたが――かける言葉が見つからなかったのか、この場では黙っていた。

 ヴァネッサはエルミナから推薦を受けた身であるためか、ある程度事情を知っているようで驚くような態度は見せなかった。


「君が騎士団を去った後、各機関が捜査をしているのだが、結局真犯人はまだ確定に至っていない」

「そう……ですか……」

「落胆するのは早いぞ、フリーダ君。断定は出来ないが、目星は付きつつあるんだ」


 部屋の会議用の長椅子――ソファに座って、俺達は話を聞いていた。

 言葉の出なかったフリーダに代わり、俺が聞く。


「誰なんだ、そいつは」

「終末女神の生マシュマロ――お、おっぱい教団。聞いたことはあるかな?」

「ああ。前に街で見かけたことがある」


 あれは最初にフリーダに催眠紋をかけた辺りの頃だったか。

 フリーダが妙な新興宗教にハマりかけたが、その宗教だな。

 エルミナはおっぱいという単語に照れを見せつつ、続けた。


「お……()っぱい教団の方は、まぁ名前から分かる通りただのジョークな宗教団体だ。赤ん坊を育てるおっぱいを崇めるとかなんとか……まぁそれは置いといて。――その活動を真に受けて、陰でコソコソと活動している別の団体がいる」

「……名前は?」

「終末女神教団。近頃この街に移ってきたカルト教団だ」


 カルト。その言葉はあまり良い意味では使われない。

 悪行を行う集団に向けられる意味合いが強い言葉だった。


「終末女神教団……それも聞いたことがある。確かオリヴィアの修道院を乗っ取ろうとした集団もそう名乗っていたはずだ」

「そうですね……確かあの方達は祭壇のある建物を奪おうと、近隣に迷惑を働いていたはず。そうですか、あの方達はフリーダさんに、そんな大罪を……!」

「遺憾ながら、罪はそれだけではないんだ」


 エルミナは表情を険しくさせた。


「奴等は本家の教えを曲解して、より過激な思想を求めた。女性の体を神聖視し、そして――邪視し始めた」

「あまり聞きたくないが――知っておくべきだろう、続けてくれ」

「女性をさらっては犯し、()()し……飽きたら山に捨てる。そんな非道な行いを繰り返し始めた。この異常行為を奴等は神聖な儀式と見ているらしいが――生還した女性達の表情を見たが、皆酷い顔をしていた。……あの顔は忘れられないよ」

「紳士の敵だな」

「酷いのは、全ての女性には恋人や夫となる男性がいたことと、その男性もどこか適当な場所に捨てられていたことだ。男性に性的暴行の痕はなかったらしいが……死んでいるか、精神が崩壊しているかのどっちかしかいなかった。女性共々、余程酷い目に会わされたのだろうな……。幸せな恋人同士から何もかも奪い去る、許すまじ行為だ」


 紳士な俺はそれを聞いただけで憤怒の炎が灯った。

 だが冷静に。

 今一番聞きたいのは、奴等の所業ではない。


「そのカルトに所属しているろくでなしが、フリーダの父を殺した犯人なのか」

「そこまでは掴めたんだが、まだ誰かは判明していないんだ。奴等を捕まえて、自供と証言を得られれば確定出来る証拠はもう揃っているんだがな。司法とは面倒なものだ」

「イライラするわね……そこまで揃ってるなら、とっとと捕まえちゃいなさいよ、全員罪人なんでしょ? あんな奴等大したことなかったし、簡単に蹴っ飛ばせるでしょうに」


 血気盛んなジルは、被害者と、そして何よりフリーダの話を聞いて怒りを露わにしている。

 エルミナはそんな怒りをひしひしと感じながらも答える。


「構成人数は三〇人にも上る。そして奴等はカルトらしく、全員一同に介することを避けているのさ。一斉に捕らえることは極めて難しく、機を窺っている状態だったが……この度全員が集合するという情報を得てな。フリーダ君、上手く行けば真相を解明出来るかもしれない。それを、君に伝えたかったんだ」


 それが、大事な用事の一つらしい。

 じっと床を見て聞いていたフリーダは――


「団長、申し訳ありません、私などのために……それに、みんなも」


 謝った。

 騎士団長エルミナと、俺達パーティメンバーに。

 フリーダは尚も謝罪を続ける。


「これは私の個人的な問題だ。急にこんな話を聞かせてしまって……」

「何言ってるのよ、フリーダ。私達は仲間でしょ。なんだって聞くわよ」

「ええ、その通りです。神は悩める者に救いの手を差し伸べます。ならば私だって、同じようにフリーダさんに手を差し伸べるまでです」

「みんな……」

「――それと、ごめんフリーダ」

「ん? どうしたんだいジルちゃん」


 女性陣が絆を深めた後、ジルが一つ追加で言う。


「あたし、あんたに悩みなんてないって、勝手に決めつけちゃってたからさ……」

「なんだそんなことか! 別にもう大して悩んでないさ! ――私には、みんながいるから!」


 フリーダは気丈に振る舞った。

 だがもしかしたら、それは強がりではなく、本当にもう吹っ切れたことなのかもしれない。


 女騎士には仲間がいる。


「マルクが……いてくれるから」

「そうだな。堕ちてしまった者の面倒は最後まで見ないとな」


 俺がいるからだ。


「謝りたいのは私もだよ、フリーダ君」


 俺達が結束を固めていると、エルミナが申し訳なさそうに言った。


「私がしっかりしていれば、君に疑いはかからず、今も騎士でいられたはずなのだから……辛い思いさせて本当に済まなかった」

「団長……いえ、私が弱かっただけです! あと、全部犯人が悪い!!」


 エルミナは本当に部下思いの上司らしい。

 そしてさらに――こう告げた。


「この件が上手く行って、君の疑いが完全に晴れたら――もう一度騎士団に戻る気はないか」


 その言葉にパーティ全員が固まったが、フリーダは。


「いえ、戻りません! 私の夢は父の剣を探すこと。犯人については任せます。それにみんなと――マルク、ジルちゃん、オリヴィアと冒険するのが、今は一番楽しいので!」

「そうか。フフ、これは無粋な質問をしたね」


 俺達との冒険を第一に取って、勧誘を断るのだった。

 フリーダとエルミナの話が終わったのを見て、静かに聞いていたヴァネッサが言う。


「じゃあそろそろオレの番でいいか? 覚えているよな、オレの話」

「ああ。S級昇格試験の話、だろ」


 話はまだ一つ残っている。

 S級昇格試験のことだった。

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