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結果報告 ~催眠術師は英雄視され始める~

「さて、冒険の大成功を祝して乾杯といこうか」

「うむ、良い冒険と、良いパーティだった! 私はミルクをいただこう!」

「ふ、フン。あんた達がどうしてもって誘うから、参加しただけだし。あたしは……ジュースで」

「皆様がご無事で何よりでございます。私はお酒を……神もお許しになってくださることでしょう。だって、声聞こえませんし」


 俺達はそれぞれジョッキを手に、ゴツンと合わせた。


「乾杯!」


 冒険を終え、修道院での一件も片付き、俺達は冒険者ギルドの酒場で打ち上げを行っていた。

 まずはそうだな――冒険の成果から話をするとしようか。


「それにしても驚いたよな。まさかあのダンジョンには未発見エリアがあって」

「そこにS級の魔物――それも、大物(ボス)がいるとはな!」

「唇読まなきゃ……なになに、『あのダンジョンには未発見エリア』……って、な、何よっ! あたしのミスをネタにしたいわけ!? ……ご、ごめんって謝ったもん……」

「すまんすまん、そういう意味じゃなくてだな。S級ボスは結局倒せたんだし、そう拗ねないでくれ」

「す、拗ねてないもん!」


 俺達は不慮の事故からダンジョンに未発見エリアがあることを探し出し、そこでS級ボスを倒してみせた。

 A級パーティがS級魔物――それもボスを仕留めた。


 疑われるものと思ったが、ギルドは一瞬で俺達の報告を受け入れて、その時その場にいた冒険者達は皆歓喜に沸いた。

 証明のためにメドューサから取れた素材も提出したのだが、必要なかったようだ。

 俺には妙な噂が立っていたが、それが良い方向に動いたということだろう。


 それに何より、確たる証拠があった。


「それにだジル。あのミス――っと、機転がなかったら、救えないものがあった」

「ええ、そうですよジルさん。あの地下には、多くの冒険者さんが石になって閉じ込められていました」

「確実に今ミスって言った……」


 そう、ダンジョン最下層に囚われていた多数の冒険者達である。

 彼ら彼女らは、不慮かどうかは置いておくとしても、皆メドューサに戦いを挑んだ者達。

 そして、敗れた者達。


 最初に石像化された者は言った。

 意識はとうの昔に失われていたが、冒険者達が戦っているその一瞬だけは、薄らと意識を取り戻せていたと。

 次に石像化された者は言った。

 別の冒険者がやってきては、石像にされていく。

 その度に意識を取り戻しては、絶望のままにまた意識を失っていった、と。


 生還を諦め、石像として有り続ける運命を受け入れた時に、俺達がやってきた。

 最初は「ああ、また石が増えるのか」と言った風に見ていたようだが。

 一手、また一手と、メドューサの猛攻を防いで見せた俺達を見て、意識が変わった。

 涙すら忘れた石の目に、希望が芽吹いた。


(何故、Tier(ティア)5を耐えられる……)

(まさか……倒せるのか……あの悪魔を)

(俺達が生きていること、気付いてくれっ……!)


 人としての意識がはっきりと戻った頃に、俺達はメドューサ討伐を完了したそうだ。

 最後に石像化された者は言った。


「待たせたな。さぁ、家に帰ろう」


 それは、俺だな。


「オリヴィア、彼らに後遺症はなかったんだな?」

「はい。精神的なトラウマを残す方もおりましたが、少しずつ、少しずつ克服していけば、普段の生活にきっと戻れることでしょう」

「それにそれに、彼らは今後、無償で修道院を守ってくれると約束してくれたよ。療養が終わった後もずっとだ! あの変な集団に悩まされることは、もうなくなったんだ!」


 フリーダがミルクを飲みながら言った最後の言葉。

 冒険者は俺達に恩を返したいと言い、それはオリヴィアでも断れない頑固さだった。

 あのダンジョンにいたということは、彼らもA級かそれに近い冒険者。腕は確かだ。

 今後は、あの集団も修道院にちょっかいを出すのはやめるだろう。


「これを見越してのドジっ娘。そういうことでいいのかな、ジル」

「そ、そ、そうよ! って、これって認めていいことなのっ?」

「うふふ、それはジルさん次第です」

「でもまぁ――冒険者達(あいつら)が無事で良かったわ。寝覚めが悪いからね、朝ギルドに行って、いきなり同業者の訃報を聞くのはさ」

「ジルちゃん……ツ、ツンデレ!」

「だ、誰がツンデレじゃいっ!」

「この件でジルの暴れん坊の誤解も解けていたし、良かったことに違いはないさ」


 冒険者を連れ帰った時、もう一人の人間にも感謝された。


「ありがとう、ありがとう兄ちゃん、俺の友人を救ってくれて……! あんたは俺の英雄だ! 今度ドアの修理が必要な時はいつでも行ってくれ、()で直してやる! あと、ジルって良い奴だったんだな!」


 ジルの解説をしてくれたあのガタイの良い冒険者だ。

 泣きながら感謝して、ドアの修理を引き受けてくれた。

 ついでのように言っていたが、ジルのちょっとした誤解も解けたようだった。

 俺は(君はドア修理業者なのか?)と、最後に心の中でツッコんでおいたよ。


「今日ほど全て上手く行った日はない。いつもは冒険後も一人で飲んでいる俺だったが、今日は特別だ。あの『最高の店』は、また別の日に行くとしよう」

「ぷっ、何よあんた、ぼっちだったの? いっつも格好つけてるくせに、ぷぷぷっ」

「こぉら、ぼっちを笑っちゃいけませんよ。誰だって好きでぼっちやってるわけじゃありませんからね。ぼっちというのは、話が合わなかったりして、いつの間にか自然と距離を取られちゃうものなのですからね。相手側から」

「詳しい解説はやめてくれオリヴィア……まぁもう、今の俺はぼっちじゃないがな! ……だ、だよな?」

「もちろんだとも、マルク!」


 談笑する俺達。

 すると、フリーダはある話を切り出した。


「なぁ、ジルちゃん、オリヴィア。どうだろうか、私達のパーティに入ったりはしてくれないだろうか……?」

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