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ストーンバジリスク戦 ① 拳闘士ジルの奥の手

 バジリスク。大型の蛇で、強力な毒を放つ魔物。

 今目の前にいるストーンバジリスクは、石の肌を持ったその上位版だ。

 俺達はダンジョンの未調査エリアで大物(ボス)と遭遇してしまった。


「毒か、厄介だね。私の鎧もまともに浴びれば溶かされて――」

「来るぞフリーダ! よけろ!」


 警戒していた矢先、敵が先手を取ってきた。

 口からはみ出ていた牙から毒の粘液を飛ばし、フリーダを襲う。

 フリーダはかわすが――粘液の一部が体にかかってしまった。


「しまっ――鎧とスカートが、溶けていくっ!」

「お任せくださいフリーダさん、私の神聖術スキルで――にゅるんにゅるん、ぬぽんっ!」

「神聖術スキルTier(ティア)2、『アンチドーテ』か! ヒーラーを連れて正解だったな。無事だな、フリーダ!」

「ふ、服に穴が開いて……あ、あまり私を見ないでくれマルク! そんなに無事じゃないかもっ!」


 素早い治療のおかげでフリーダの肌に傷がつくことはなかったが、鎧は一部溶けて服にも穴が開いていた。スカートも一段と短くなってしまっていた。


「催眠スキルTier(ティア)3――『基本異常耐性・全上昇』。この場にいる全員にバフをかけた。すまないフリーダ、奴の方が俺より速かった」

「い、いや体は無事だったからいいんだ。ふ、服がミニミニになったけど……♡」


 フリーダの目にハートが宿る。俺の催眠にかかった様子だ。

 だが今上げたのは状態異常耐性だけだ、能力値は上げていない。

 俺は続けざまにフリーダに『全覚醒』をかけようとするが――


「蛇は苦手なんだけど……良かったわ。太くて大きいのは、好き」


 ジルが意味深な発言をすると、素早い動きで敵の懐に飛び込んだ。


「ストーンバジリスクはA級帯の敵、だったらあたし一人で十分よ! 蹴撃スキルTier(ティア)2――『二連脚』!」

「シャアアアッ!?」


 ジルの蹴り技が炸裂し、ストーンバジリスクが苦悶の声を上げる。


「ちっ、太くて大きいだけじゃなくて、固さもすごいのね、ストーンバジリスク(あんた)っ!」

「ジルの蹴りを耐え抜いたか、石の名は伊達じゃないな」

「それよりマルク! ジルちゃんなんかちょっとイケナイことを言ってる気がするんだが!?」


 フリーダがなんだか戦いに集中出来ていない気がするが、ジルは素早い動きで敵の懐から離脱する。

 俺は戻ってきたジルに言う。


「A級帯といえどボス級だ、簡単にはいかん。ジル、フリーダ、真面目にやってもらうぞ」

「す、すまないマルク……集中する!」

「な、何よ! あたしは全力でやってるじゃない!」

「これはパーティ戦だ。無傷で切り抜けるためにも、指示に従ってもらう」

「パーティ戦……! ふ、フン、あたしに命令するつもり?」


 一瞬だけ、ジルは嬉しそうな表情を見せた気がしたが――すぐにいつものツンツンスタイルに戻る。

 簡単には応じてくれそうにないと思っていると、そこにフリーダがこうつけ足した。


「ジルちゃん、私はあなたと戦えて光栄だ! あなたの(スキル)を――私にも見せてくれ!」

「フリーダ……ふ、フン! そこまで言われたら、見せてあげようじゃない! ――本当は企業秘密だったけど、あんた達には特別に、奥の手を見せてあげる!」


 フリーダの真っ直ぐな気持ちが少々と、ジルの勝ち気な性格が合致して、合意するジル。

 そしてジルは静かに精神統一すると――奥の手のスキルを見せた。


()()スキルTier(ティア)4――『獅子の型』!!」


 ジルから闘気が溢れ出る。

 体内で気を練って、それが溢れ出ているのだ。


 素晴らしいスキルだった。

 俺には分かる、このスキルは何度も打ち、鍛え上げられた名剣だ。

 一時の閃きで手に入れたのではなく、激しい鍛錬の末にようやく手に入れたスキル。

 この少女は、この年にして凄まじい鍛錬を繰り返した、努力の人なのだ。


「これがあたしの本気よ。野性の生き物はどの瞬間も命のやり取りを行っている。獅子の型はその『殺意』を再現した型――岩をも蹴り砕く、攻撃特化の型よ」

「他にも型がありそうだな。柔軟性の高いスキル――なるほど、ソロでやれるわけだ」


 防御に特化した型など、恐らくこのスキルは多岐に渡るに違いない。


「さぁ命令しなさい。あたしの本気、見せてあげるわ」

「では俺のバフを――催眠スキルTier(ティア)4、『全覚醒』!」

「くっ、これがあんたの全力――んん、凄いのきたーっ!」


 俺は先にジルにバフをかけた。

 『全覚醒』は俺の最高のバフスキルだ、まだ全体化は出来ない。

 俺のバフを浴びたジルはさらに闘気を放ち――完成する。


「さぁ行くわよ……本気の本気、あたしのスキルにひれ伏しなさい! にゃんっ!」

「おっと?」

「んむむむむ?」

「あらあら、ジルちゃんに、お耳が」


 格好付けているジルには悪いが。

 その語尾は気の抜けたものに変化していて、頭から猫の耳が生えるのだった。

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