冒険へ行こう! ~にゅるにゅる系修道女との出会い ②~
「――はいっ、治療完了です。傷は完全に塞がりましたので、起きて大丈夫ですよ」
「見事な腕だな、パーティにほしいくらいだ。お代はいくらだ?」
「お代はいりません。これも救済の道、神は人の子らの無事だけを望んでおられますから」
俺たちのパーティにはヒーラーがいない。
ヒーラーは必須だ、出来れば彼女のような人間を一人は入れたいところだったが――まあ無理か。
オリヴィアは敬虔な修道女だ、野心溢れる冒険者とは対極な存在なのだ。
「なら、寄付という形に変えさせてもらおう。それなら、君の神も許してくれるさ」
「まぁ、それでしたら……寄付でしたら問題ないと思われます。うふふ、お上手ですこと」
「フ、では払おう――と言いたいところだが。すまない、俺を運んでくれた女性はどこかな? フリーダという女騎士なんだが」
こういうときにスっと金を出せれば格好もつくんだが、俺は倒れて意識を失った身だ。
金はきっとフリーダが持っているだろうと、女騎士の所在を聞く。
俺をここまで運んでくれたのはフリーダだろう、後で礼を言わなくてはな。
「フリーダ様でしたら、今は子供たちと――」
「――ふわわわぁっ、や、やられたぁ~、女騎士仮面の敗北だぁ!」
すると、部屋の扉を開け放ってフリーダが入ってきた。
一緒に、多くの子供たちも引き連れて。
「おおマルク、目を覚ましたか! よ、良かったぁ……ものすごい血が出てたから、どうなることかと……」
「すまないフリーダ、迷惑かけた。ここまで運んでくれたのは君だろう? 本当に助かった」
「っ、い、いいんだ、私たちは仲間だろう。……面と向かって礼を言われると、少し照れるっ」
フリーダは視線をそらして照れを隠そうとする。
すると、一緒に入ってきた子供がこんな指摘をした。
「おねーちゃん、照れてるの?」
「耳まっかっかだ! おねーちゃん、このおにーちゃんのこと好きなんだ!」
「なっ! ち、違うぞ! これは――そ、そう、君たちと剣術ごっこしていた時に、バチっとぶつけただけっ! バチっとっ」
「なんだ残念だな、脈ありかと思っていたが」
「あ、あなたまで何を言うんだマルク!? 私たちは仲間、そういう関係は、なな、ナシだっ」
「分かっている。教えその五だ」
俺はフリーダをからかってやる。
子供たちの追及はなかなか止まず、フリーダが困窮していると、助け船が出航する。
操舵士はオリヴィアだ。
「こぉら、めっ、ですよ。騎士のお姉さんが困っているではないですか」
「あっ、オリヴィア先生! おじさんの治療終わったのー?」
「はい。マルクおじさんは痛いのぴゅっぴゅして、もう、ぴんぴんの、ピン! ですよ」
「お、おじさんか……まぁ、この中では一番年取っているけども……」
ちょっとショックを受ける俺。
オリヴィアは子供に合わせておじさんと言っただけだろう。きっと。
俺はオリヴィアに一つ質問する。
「君はここで何か教えているのか、オリヴィア」
「はい。神の教えや道徳、字の書き方などを、私と他の修道女で」
「立派な行いだな。神もきっと誇らしいことだろう」
「ありがとうございます。神の声を聞き、正しい行いをすること。それが私達シスターの夢ですから」
模範的なシスターのオリヴィアには、ぴったりな夢だと思った。
そんなオリヴィアにとっては俺なんかからよりも、神に称賛される方が喜ぶだろうと、俺は言葉の選び方を少し工夫した。
案の定彼女は微笑むが。
依然として、黒の布で目隠しをしたままであり。
「先生、どうしておめめ隠してるのー?」
「かくれんぼー?」
「あらあら、そうでした。あの、マルク様、お召し物はもう身にされましたか? もしそうでしたら、この目隠し、取ってはいただけませんでしょうか」
「ああ、もう服は着たが……俺が取るのか」
自分で取るか、ここにいる誰かに取ってもらえばいいのではと思ったが。
「先生、なんかいつもと違う……」
「なんか先生見てると……むずむずする……な、なんでだろう」
「ただでさえ扇状的な女性が目隠しは、五歳程度であっても刺激が強いか。何かに目覚める前に、紳士の俺が解放せねばなるまいな」
いつもと違うオリヴィア先生に、少年たちは扉を開きかけていた。
フリーダに頼んでもよかったかもしれないが。
「目隠しシスター……な、なんか――イケナイ気がするっ!」
彼女は彼女で、もじもじと劣情を抱いていた。
子供の面倒見が良いと思っていたが、ただ精神年齢が近いだけかもしれない。
俺はそんなフリーダを尻目に、オリヴィアの目の前に立つ。
するとオリヴィアは、俺の前でひざまづいた。
「こうした方が、取りやすいかと」
「ああ……なんかちょっとよくない構図のような気もするが。ま、早く取るとしよう」
「ん……」
俺はオリヴィアの目隠しを解いてやる。
固めに結んでいたのでモゾモゾしてしまったが、無事彼女の目は解放されるのだった。
布の下に隠れていた目は、穏やかで、母性的な優しい目だった。
「マルク、体は大丈夫か? 無理そうなら、またしばらく休んでも――」
「いや、オリヴィアのおかげで全回復した。これなら動き回っても問題ない。もちろんフリーダ、ここに運んでくれた君のおかげもある」
「だ、だめっ、その話はもうやめよっ!」
「悪い悪い。フリーダ、この修道院に寄付をしてやってくれ。お礼も兼ねてな」
フリーダがちょっと少女の面を覗かせる。
俺は最後に寄付をお願いして、ようやくこれで、いよいよ始まるわけだ。
「さぁ行くか。俺たちの冒険に――」
「――おぅおぅおぅ! この建物の権利書、とっとと俺たちに渡せや!」
だが、まだ行けないらしい。
俺は思わずこう口にした。
「っと、お次はなんだ」




