冒険へ行こう! ~でもその前に色々準備をしますかね編~
「あのぅ~、マルクさん……」
「どうしたフリーダ、そんな覗き込むような体勢で」
催眠紋は無事成功し、俺はフリーダが服を着替えるまで宿の廊下で待っていたのだが。
フリーダは恐る恐るといった感じで、少しだけ部屋の扉を開けて隙間から俺を見る。
顔はまだ赤いまま、下腹部をさする。
「催眠紋が、私の体のどこにもないのだが……か、下腹部以外っ」
「人の目に見えないように細工しておいた。お肌を気にする女性に配慮してな。……下腹部の部分は紋の心臓に当たる部分なので、絶対消せないが」
大規模な催眠紋だったが、俺はそういった細工を施した。
ただでさえ女性受けの悪いスキルだ。
少しでも受け入れられるようにと覚えた、Tier1の別スキルでもあった。
下腹部の部分は消せないが、まぁ見られるような場所でもないので大目に見てもらいたい。
少し安心したフリーダはいそいそと服を着替え、いつものドレスアーマーを着る。
「も、もういいぞ」と、入室の許可をもらった俺は部屋に入るのだった。
「こ、これで私は、催眠にはかからなくなったのだな? あなたの催眠以外には」
「ああ、その点は問題ない。俺もこの力を悪用しようとは考えていないから、君はもう、催眠に怯えなくていいんだ」
「そ、そうかっ! 薄い本みたいなことはないんだな!」
「だからしっかり俺を守ってくれよ。術者の俺が倒れたりした場合は、暗示の効果が消えるからな」
「もちろんだ! 私は騎士、あなたのことは命に替えても絶対に守――ま、まも、守るるるっ!」
頼りになる騎士様だったが、裸を見られた照れだろうか。
視線が合った瞬間彼女は目を逸らしてしまった。
結局正面向いて話せていないわけだが……まあじきに戻るだろう。
「憂慮だった催眠問題はクリアした。さていよいよ――」
「う、うむっ! 冒険、だなっ!」
視線をそらしがちなフリーダが言う。
新しい冒険がいよいよ始まるが。
「そうだ、冒険だ。だが冒険をするには、まだまだ不足していることが多い」
「うむむ、私もそれは感じていた。いくらTier5のスキルがあるからと、私達はまだ二人しかいない」
「ああ、仲間がいる。出来れば同じA級のな」
S級の代名詞と言えるTier5のスキルが使えるからと、二人パーティはさすがにリスクが高いだろう。A級依頼はそんなに生やさしいものではないのだ。
リスクを減らすには、やはり新たな仲間が必要不可欠だ。
「そしてもう一つ、これは俺個人の問題で申し訳ないのだが」
「遠慮しないで言ってほしい。あなたは私の恩人なのだ」
「なら言わせてもらうが、見ての通り、俺は装備ゼロの状態だ。このままじゃ、A級依頼を受けても死にに行くようなものだろう」
俺の姿は光の翼に装備を返却した、あの夜のままだ。
ロドフとの戦いで使った短剣やコインは接収されたし、ずっと丸腰のままなのである。
「出来ればまず、装備の更新を行いたい」
「うむ、賛成だ! 身なりが良ければ仲間も集めやすくなるっ! ロドフを倒して得た報酬を使おう!」
「悪いな。ただ、店売りの装備購入は高くつく。資金はなるべく雑貨購入や今後の装備強化に回したい。ひとまず店では最低限のレベルで揃えようと思う。強力な装備はやはり、ダンジョンで掘るに限るからな」
たまに冒険者は装備入手のことを掘ると言う。トレジャーハンティング、トレハンとも呼ばれるやつだな。
これから受ける依頼も、装備入手が出来そうな場所を選ぼう。
「そだっ、あなたにおごってもらったお金もまだちょっぴり残ってるぞ!」
「いや、おごった金はいらん、綺麗さっぱり忘れたくて使ったものだしな。……まだ持ってたのかい」
俺はツッコみつつ、最後にこう言う。
「決まりだな。まずは『装備更新』だ」
 




