俺以外の催眠にかからないようにする。君の体に催眠紋を刻んでな ②
「一三神の神々よ。我らが人の子らに啓示を授けたまえ」
俺がステータス開示の文言を口にすると、ぼうっと文字が浮かび上がる。
安宿の壁に薄らと青く光る文字が、一文字ずつ、一文字ずつと、焼き印を押すように刻まれていった。
ステータスとはその人物の能力を数値化したものだ。
そして一三神とはこの国や、世界各地に広く伝わる宗教、その神のこと。
俺は無宗教だが、ステータスの開示には必ずこのような儀式が必要なのである。
「さぁフリーダ、君のも」
「ハイ、マルク様。ワタシはあなたの奴隷――はっ! い、いけないいけない」
「早くどうにかしないと面倒だなこれ……」
直接の会話に、すぐに催眠にかかりそうになるフリーダ。
なるべくフリーダの方を見ないようにして、俺は彼女のステータスを促す。
同じようにして、彼女のステータスも壁に刻まれていった。
まずは、俺のステータスから見ていくとしよう。
――――――――――
名:マルク
職業:催眠術師
レベル:30
力:62
体力:108
素早さ:72
器用さ:103
知力:143
精神力:175
運:67
装備適正:コイン・短剣
――――――――――
「おぉ~、催眠術師は精神力が高いんだな~。三桁数値も多く立派だ、A級冒険者って感じだ!」
「では君のを見せてもらうか」
「……は、恥ずかしぃっ」
――――――――――
名:フリーダ
職業:自由騎士
レベル:26
力:173
体力:212
素早さ:89
器用さ:118
知力:18
精神力:110
運:45
装備適正:片手剣・小型盾
――――――――――
「知力低いな」
「ふぇぇん、恥ずかしいよぅっ!」
「見せたがらない理由が分かった気がするよ」
フリーダはバリバリの前衛タイプだった。
しかもいわゆる脳筋というやつだ。
そして全体的な能力はやはりフリーダの方が高かった。
催眠術師は不遇職だからな、当然か。
まあ問題はこれら能力値の項目ではない。
さらに下部にあった項目。
――――――――――
弱点耐性:催眠耐性-10000%
――――――――――
「催眠耐性-10000%、か。ステータス欄に書いてあるということは、本当に本当の、君は催眠弱者というわけか」
「ぐすん……」
ステータスには各種耐性の項目もある。
火や水などの『基本魔法耐性』。
毒や麻痺などの『基本状態異常耐性』。
そして攻撃力ダウンなどの『基本デバフ耐性』だ。
これら『基本耐性』系は種類が多いこともあって、俺らが今やったステータス啓示法では簡略化される。
詳細を調べるにはもっと広い壁の専門施設で、別のステータス啓示法を用いらねばならないのだが、今回はこの方法で十分だ。低い数値、あるいはその逆の高い数値を知れればいいのだから。
確認は済んだ。俺たちはステータスを閉じると、青い光は部屋から消えた。
「『基本耐性系』は装備や体質で大きく左右される。ただ、ここまでの数値は俺も初めて見たな……一族に同じステータスの者は? 家系か、何か呪いの類ではないのか?」
「ううん、私だけだよ。もちろん呪いもない。これは正真正銘、私だけの体質なんだ」
「驚きの連続だな。天然由来とは」
世の中まだまだ知らないことだらけだ。
フリーダの弱点は催眠。
そして――
「だがこれは、強みでもあることが証明された」
「うむ! Tier5にまで届いたあなたのバフ、だな!」
「ああ。言葉は悪いが、これを上手く利用すればS級だって夢ではないだろう」
S級冒険者。スキルTier5・『頂点』に昇り詰めし者。
彼女は今、そこに到達しようとしている。
「けど上手くやらないと、私はすぐに催眠に堕ちる。特にあなたのにだが。今もホラ、キマリツツ……ハッ、ハッ――んんっ、熱ぃっ♡」
「す、すまん、S級に少し感情が昂ぶった。今解くぞ」
しかし油断するとすぐにこれだ。
上に昇るには、この催眠耐性と上手く付き合っていかなければならないのだ。
部屋に二人きりの状況で、隣の美女が身悶える。
紳士の俺は気にしないように努めながら催眠を解いてやる。
そうして俺たち二人は、背中合わせで語らうようになるのだった。
「こんな状態では戦闘にならん。解決する必要がある」
「そう……だな。そうでないと私は……」
フリーダの声が細くなる。
「いつかあなたを――手にかけてしまうんじゃないかって……」
「……父親殺し。その話か」
とても辛そうな調子で、彼女はそう続けるのだった。
シリアスな話ですが、この話は次話の中盤くらいには終わってます。




