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16/99

俺以外の催眠にかからないようにする。君の体に催眠紋を刻んでな ①

「君の飲み物はミルクで良かったよな?」

「うむ! お日様の下で飲むミルクは格別だからな!」


 ロドフを仕留めてから一週間は経ったか。

 晴れてパーティを組むことになった俺とフリーダは久しぶりに顔を合わせた。

 冒険者の街ビアンツ、その広場の一角にあったウッドデッキの露店でだ。


 いつもの白銀のドレスアーマー姿なフリーダ。

 笑顔だった彼女が一転、心配そうな表情となって聞いてくる。


「と、というか、すまない、病み上がりのあなたに、飲み物を取ってきてもらって」

「もう治った、問題ない。冒険者の街の回復治療だ、傷が一つ残ったくらいさ」


 ひどいケガだったが、さすがは冒険者の街だ。

 後遺症もなく、傷跡くらいなら勲章とも言えるだろう。

 紳士な俺は、何もしないのは逆に落ち着かないのさ。


「さて、俺達は晴れてパーティを組むことになったわけだが」

「ああ! だがその前に――店員さーんっ」


「はいっす、ご注文は?」と、若い女性が注文を取りに来て、


「ミルクのお代わりと――」

「伝言を頼む。目の前の女性に」

「……はいぃ?」


 俺たちの一風変わった注文に眉をひそめるのだった。


 パーティを組むことになった俺達だったが、相変わらず直接会話が不可能な、相性最悪の二人だった。

 今の短いやり取りの間にも、フリーダは目をハートにして堕ちそうになったくらいだ。


「冒険者としてやっていくなら、もっとお互いのことを知らないとな。まずはお互いの『ステータス』を知るところから始めようか」


 どんなに強力なコンビだったとしても、それぞれの特徴は理解するべきだろう。

 俺はステータスの開示を彼女に求めたが。


「ス、ステータスの開示か。あなたのことは信用しているのだが、その……す、すまない、ここでは、ちょっと」

「ここは人の往来も激しい。弱点を晒すのも考えものか。分かった、場所を移そう」


 ステータスには別に妙な数値は載っていないのだが、なぜか恥ずかしがる女性は多い。

 ただフリーダの場合は照れとかではないだろう。

 対策の仕様がないくらいの弱点があるので、拒んだに違いない。


「あっ、ち、違うんだ、その……人に見られるの、ちょっと恥ずかしい……っ」


 本当に恥ずかしいだけだった。

 勇ましい鎧姿とは裏腹に、意外と女性っぽいところも多いなと、俺は思うのだった。

 来て早々ではあるが、場所を変えることにした。


「す、すまないマルク。いい年して恥ずかしいなんて。それにほら、私の場合弱点が弱点だから、人目につくのは……」

「俺こそ配慮が足りなかった。というか、恥ずかしい方が優先順位上なんだな。――んで、君は何をやっているんだ」


 歩きながらふと隣を見ると、フリーダがいないことに気付く。

 フリーダは立ち止まって何かに聞き入っていたようで、俺は後ろを見た。


「『終末女神の生マシュマロおっぱい教団』! そこのあなたも入りませんか! 今入信すれば貯蓄10000倍、恋愛も上手くいく御利益付きですよっ!」

「何をやっているかって、この素晴らしい宗教に入信しようかと……? はっ! し、しまった、ついうっかり新興宗教の勧誘にハマるところだった! た、助かったぞマルク、感謝する!」


 怪しさ満点の新興宗教にハマりかけていた。

 信念はどうした信念は。

 街は誘惑が多い、特に催眠耐性-10000%のフリーダには。

 俺たちは賑わいを見せる広場を抜けて、場所を移す。


 二人になれる場所に。


「む――少し血が滲んでいるな。仕方ない、着替えるか」


 宿にある自分の部屋に戻った俺は、治ったはずの傷口からわずかに出血しているのに気付いて、服を着替えていた。


「コンコン、失礼するよマルク――って、ひゃわわぁっ! な、なんてハレンチな格好で待っているんだあなたはぁっ!?」

「たまげるほどハレンチではないだろう。裸なのは上だけだ」


 手で扉を叩きつつ口でもノック音を出したのはフリーダだ。

 彼女は俺の上半身を見た瞬間、両手で目元を隠していた。


「へへへ、部屋で、ははは、裸で私を待っているなんて、一体どうして――ま、まさか、私にハレンチを!?」

「着替えただけだ。紳士になんてことを言うんだ、一番効く悪口だぞ」


 男の裸にいつまでも慣れそうにないフリーダのためにも、俺は服を着た。

 一般的な服だ、装備効果とかもない。


「さてと、君を俺の部屋に呼んだのは他でもない」

「は、ハレンチかっ!?」

「はぁ。あんましつこいと本当にしちゃうぞ」

「や、やだよ……外歩いて、汗ばんでるし……」

「冗談に決まっているだろう。教えその五、俺たちは仕事仲間だ。仕事に他の感情は持ち込むな」


 俺は師匠から色々教わったが、この『教えその五』は口酸っぱく言われたよ。

 まるで実体験かのようで、いやに説得力があったというか。

 ――とにかく、今は仕事の時間だ。

 足を引っ張りがちな催眠術師は、他のことに考えを回している余裕なんてないのだ。


 すると、からかわれたフリーダは感心するような調子で言った。


「はぁー、なんか思い出すな、騎士学校時代を。ウンウン、そんな感じだったよ、風紀委員長」

「誰が風紀委員長だ。ステータスの儀式を始めるぞ」


 前のパーティでもそんなことを言われたなと思いつつ、俺はステータスの儀式を始めた。

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