☆ジーク視点 催眠術師一人の存在が、明暗を分ける
「え? 依頼失敗、ということですか?」
「……ああ、そうだよ。今回の件は別のヤツにでも回してくれ。……クソっ」
依頼を受けていた俺たち光の翼は、冒険を終えてギルドに報告に帰ってきていた。
だがその報告とは、失敗の報告だった。
「え、えと、もう一度確認させてもらいますけど……本当に失敗でよろしいんですか? あの光の翼の皆さんが、A級依頼を失敗した、ということになるんですよね?」
「そうだって言ってんだろ! 二度も聞くんじゃねぇよ、クソ女が!」
「ひぃ、す、すみません」と怯える女。
トロくさい受付の女が二度も聞いてくるせいで、周りに知れ渡っちまった。
「光の翼が依頼失敗なんて、今まであったか……?」
「なんかパーティの一人を追放してから、初めての依頼らしいぜ」
ちっ、冒険者ってのは噂好きな連中だ。
「まぁ落ち着きなって、ジーク。今回は運が悪かっただけ」
「ええ、どういうわけか普段の実力の半分も出せませんでしたから……」
そう言ったのは俺の仲間。褐色肌にとんがり耳のダークエルフ・ベラと、白の法衣に穏やかな顔立ちのユーニスだ。
「ちっ、仲間に免じて許してやる。――仕事の出来ないヤツは嫌いなんだよ、分かったな、女」
「は、はいぃ……」と、受付の女は縮こまる。
仕事の出来ないヤツ――ああクソ、あの催眠術師のことを思い出しちまう。
「それにしてもどうしてでしょう……半分、は言い過ぎましたが、いつもより魔法の効果が弱まっておりました」
「ユーニスも? 実は私もなんだよ」
ユーニスとベラは普段の実力が出せなかったと言う。
かくいう俺も、剣を振る腕が重かった。
「ねぇジーク、もしかして、なんだけど」
「……やめろ」
「あのキモ男――催眠術師野郎のバフが、私達に結構な影響を与えていたって可能性は」
「やめろって言ってるだろ。アイツはクビにした、仕事の出来ない無能だからな!」
そんなわけないと、俺は真っ向から否定した。
思わず感情的になってしまった。
するとユーニスは俺に続くように、キッと目を窄めてベラを睨んでいた。
「ベラ、ジーク様のご判断を疑うつもりですか? もしそうと仰るのならベラ、あなたといえども、私は」
「ち、違うってユーニス、それにジークも! 可能性の話をしただけでさ……や、やだなぁ仲間でしょ私達。そんな、何するつもりだったのさ、ユーニス……」
「……分かって頂けたのなら、別に知らなくてもいいのでは?」
何を争っていやがるんだ、仲間同士で。
以前より、この二人の女はケンカが増えた。
元々俺を取り合っていた女共だったが、ケンカが起きないようにと、いつからか二人一緒に愛してやるようになっていった。
あの無能がいた頃は「戦闘に支障をきたす」とかなんとかうるさいから、目を盗みながら、頻度も抑えていたが。
最近は毎晩愛してやっている。それでも満足出来ないと言うのか。
「ご、ごめん、やっぱ私が変なこと言ったわ。……たまたまだよね、キモ男の『催眠紋』が消えたのと、私達の不調が重なったのは……」
まだごちゃごちゃ言ってるベラだったが、俺は耳を貸さなかった。
あの無能にそんな力あるわけない。
俺はそう確信しているんだからな。
そんな時だった。
「こんにちはーっ!」
「あ、あらフリーダさん、ニコニコ顔でどうされました?」
騎士のような形をした女がギルドに入ってきた。
さっきの受付と話込んでやがる。
なかなか――いや、すげぇ美人で胸もデカイが……残念だ。
俺は仲間二人を毎晩相手していて、それだけで精根尽き果てちまう。
こんなとびきりの女を見ても、食べ過ぎた時みたいに胸焼けするだけだった。
「うむ! 追っていたA級賞金首、夜盗団頭領のロドフを仕留めたのでな、その報告に来た!」
「えぇっ、すごいです! ずっと尻尾を掴み損ねていたんですが……ひ、一人でやったんですか!?」
「いやまさか! 一人新しい仲間が出来てな、彼に手伝って……ああいや、大体全部彼がやった!」
「す、すごい人ですね……男の人ですか? ご職業は?」
「催眠術師だよ」
はぁ? 催眠術師だって?
A級依頼だぞ、催眠術師なんてまるで役立たないランク帯なのに。
いや待て……A級、だと。
A級で活動している催眠術師なんて、俺の知っている限り、あの無能野郎しか――
「ああそれと受付の人、彼が言っていたのだが」
「は、はい、何でしょう」
「コホン……『敵は確実にS級レベルだった。職歴に催眠術師があったから甘く見積もったんだろう?』 と。実際、敵は一時的バフで覚醒した私のTier5スキルを受け止めていた」
「も、モノマネ付きでありがとうございます。って、Tier5のスキルを受け止めてっ――で、ですよね。私も、この街の裏の顔がA級止まりだなんて、おかしいと思っていました。……分かりました、上にはきっちり伝えておきますっ」
Tier5、え、S級、だと?
俺でもまだそのランクには届きそうにないというのに、まさか、あの無能の力で――
いやいや、そんなことはないと、俺は頭を振るが。
俺のように女騎士の会話を聞いていた周りの冒険者達が口にする。
「S級とかマジかよ、すげぇな。ってかあんな美人冒険者、お前見たことあるか?」
「いや、新人だろうな。若いし、次の注目株はあの嬢ちゃんのパーティか!」
「光の翼は終わりかもな。パーティも一人減った――いや、追放してわざわざ減らしたみてぇだし」
「見たか、追放の瞬間。ずいぶん派手にイキリ散らしてやがったが」
「結果この様か。ダセェな」
……ふざけやがって。ここにその光の翼がいるんだぞ。
もはや俺たちのことは視界に入らず、黄金の髪をした新星に注目を奪われる。
今まで俺たちが独占していた、羨望の眼差しを、だ。
「……これ以上の失敗は許されねぇ」
ユーニスとベラは俺の機嫌を伺うように、俺の顔を覗き込んでくる。
俺は決断した。
「四人目を迎えるぞ。とびきり仕事の出来るヤツをな」
――それが、悪夢の始まりとも知らずに。
ここから両者の立場が逆転していきます。
しかしこれはまだ弱パン……フィニッシュブローは後のお楽しみでございます。
今後も読んでいただければと思います、よろしくお願いします。
気に入っていただけたらブックマークと評価もお待ちしてますヨ。
評価は結構重要なので、ブクマしていただけたらついでに評価も……
広告↓の☆☆☆☆☆を最大★★★★★まで入れられますので、お願いします。
 




