私と監禁。
「フィティカ先輩が好きです」
いつものソファの上で寛ぐ先輩がじっと私を見てる。
「フィティカ先輩はいつだってカッコよくて、思わぬところですごく優しくて、私は『ああ、好きだなぁ』って感想しか持てないくらいなんです」
告白して照れくさくてつい笑ってしまう。
「……ユサは?」
フィティカ先輩がユサ先輩の名前を口にする。ほんのちょっとイラッとしてしまう。
「ユサ先輩は会社との連絡にあたってくださってますよ?」
食事や備品娯楽道具を行き来させる用の転送ボックス以外は外部との繋がりはない。
先輩が私の遮断をこえて外部とリアルタイム連絡を取ることは困難。
広くもあり、狭くもあるこの部屋は本社社屋の最奥にある。
私はここで会社に魔力を提供し続ける。
対価はフィティカ先輩。
私はフィティカ先輩に嫌われてしまったかも知れない。あの視線の険しさはそれを意味していそうで悲しくも嬉しい。
「私は先輩を傷つけたりしませんよ?」
だって大好きですから。
すっきりした頭で見る先輩はやっぱりかっこよくて、きっとその刃が私にむけられたら避けれないんだろうなと思うのです。
「俺をどうしたいんだ?」
フィティカ先輩が不思議な質問をしてくる。
「どう、とは?」
私はフィティカ先輩が好きで、好きだからそばにいて欲しいし、最期はフィティカ先輩を感じて終わりたいし、フィティカ先輩の目に写る最後の人は私でありたいだけだ。
嬉しくて、もっとはっきり先輩を感じたくて私自身の死をキーにした魔法式の展開を重ねていく。
私が生きている限り、この魔法は発動しながらも起動しない。
植物にも建物にも影響はない。
ちょっと犬より大きな動物を殲滅してしまうだけだ。もちろん、フィティカ先輩は排除して組み上げてあるから私の魔法がフィティカ先輩を傷つけたりはしない。
私はフィティカ先輩が好きなのだ。
だから私も先輩も生きなくては意味がない。
だから、私はフィティカ先輩に。違う。誰にも魔法のキーは教えない。
私が先に死ねばフィティカ先輩を残して範囲内の犬より大きな生物は殲滅される。フィティカ先輩が先に死ねば私は魔法を解呪して後を追う。たったそれだけ。
「俺を閉じ込めても面白いことなんてねぇぞ?」
「そんなことありませんよ?」
動きの制限される狭い室内でゆっくりと筋肉を落としていろんな手入れをしてあげますよ?
本当に自由の似合う先輩が私の支配からいつ逃げ出すのか。それさえも私は嬉しい。
きっと先輩の心は手に入らない。
それでも他の誰かが先輩の横に立つ姿を見るよりはマシだと思ったから。
「! 言っとくけどヤラシーこととか期待しても俺には無理だからな!」
色気なぞ俺にはないと偉そーな姿はちょっと屈服させたくてそそるんですよ。先輩。
ああ、本当に。
「私は先輩のいろんな表情を見ていたいんですよ。先輩が、先生を切り落としたあの日から」
すとんと血の気のないその表情すら素敵ですね。
「ね。先輩」
大丈夫です。ドアは開きませんから。