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私と新生活

 


「どうして私だったんですか?」


 昼夜問わずたまの上司との会話以外は先輩達と三人きりということが増えた私は当初からの疑問を音に変換した。

 気がつけばプライベートまでルームシェアしている現状で。もう少し早くこの疑問を口にすべきだったかもしれない。いや、まぁ不自由は何もないんだけど。昼の部オンリーの時より給料いいし。事務と雑務仕事しかしてないのに先輩達がしてきた仕事の報酬も分配されてるし。


「えー、おまえ魔力高いし」


 あー、魔力ですかー。


「めんどくさがり屋さんだけどお仕事神経質だしぃ」


 ユサ先輩もう少しフォローしてください。


「現場連れ出しても文句言わねーし」


 文句なら言ってますよね!?

 実況されるとはいえ毎回暗黒ジェットコースターですよ!?


「え、害獣とか襲いくるゴロツキの断末魔に立ちあいたいの?」

「つつしんでゴジタイ致します」


 まぁ、連れて行かれている理由はわかってる。魔力供給源としてだろう。外部情報は先輩達による実況と揺れしかない環境で私は指示された番号をふられた対象物に対応した魔力を注入する。「対応の魔力石をはめこめ」って最初は指示されたんだけど、直に魔力流す方が手っ取り早くてそうしてる。狭いし。

 私はどのくらいの魔力供給で殺傷能力を持つかとかはよくわからない。ただ必要とされる魔力を調整して流しこむのが得意なだけだから。


「だろー。危ない作業は俺に任せた。任せた」


 フィティカ先輩がミルクのグラスとチョコシガレットを揺らしてからりと笑う。ゴロツキ相手の時外見が特定されるのも良くないとユサ先輩にも言われてる。

 私はなにせ非力でチビで自衛防衛力が低いのだ。

 チラリとユサ先輩を見れば酒瓶を抱えて手酌でいつものように酔っ払ってクダを巻いている。慣れないウチは止めようとして散々絡まれた。一度なんかバスルーム前に陣取られて延々と愚痴を聞かされ続けた。(アレは湯冷めした)しかも朝すっきり笑顔で「覚えてないわぁ」と空々しくコーヒーとベーコンエッグを準備しておいてくれるのだ。

 ユサ先輩を見てフィティカ先輩と視線を交わしあう。話題を振ってはならないというヤツだ。

 なにせ毎回私の前任者への愛と未練の愚痴になる。

 身分収入が有り浮気の心配がないくらいベタ惚れでいざとなれば進んで家事も行い、義父母は穏やか別居で胡散臭すぎるほどに完璧と言えるくらいの相手との結婚。(調査は偏見にまみれてそうなユサ先輩本人)まさに幸せ絶頂祝福しましょうよと思うんだけど、酔っ払いに道理は通じない。


「完璧が完璧とくっついたって飽きるわよー。物足りなくなるに決まってんじゃなーい。絶対、ダメンズひっかけてよりダメにしていくと信じてたのにぃいいい」


 ユサ先輩本当に前任者が好きだったんですか?

「なんで私を捨てたのよぅう。ダメンズ製造マシーンのくせに寿退職なんてひーどぉいいぃ」


 えー。


「共に幸せになれる相手が居たからでは?」

「仕事も私の後始末もフィティの雑用も楽しいって笑顔だったのにー! ずっと一緒ね。って言ってたのにー!」


 しまった!

 つい口を挟んでしまった!


「だから、ね。ずっと一緒ね。不自由は何もないでしょ?」


 ぎゅっと手をとられてうわ目づかいされてる。


「おーい。ユサ、そこまでだ。悪かったな。俺が宥めとくからお前はやすんどけよ」


 さらっと退席を促されてどこか釈然としないままベランダから夜景を眺める。星と遠い街の灯り。手前には森と湖。のぼってくる空気はひやりと湿気ってる。

 私はユサ先輩に特別な気持ちを抱いてなどいない。常々別の相手と結ばれた前任者をひたすら惜しみ未練たっぷり嘆く姿を見慣れているから。

 ずっと一緒。

 この言葉に違和感は感じなかった。ユサ先輩はきっとこのぐだぐだでどこにも辿りつかないなりに仕事は成り立つ今を楽しんでいるんだろうから。それでも先輩の言葉には私から自由を取り上げている自覚があったという意外な発見があった。

 一度引き受けたチームを解消されると思っているというなら心外だなぁと思う。

 苛立ちは表に出すのが一番で壁に張り付いているセキュリティ用のパネルに魔力を供給する。

 私の取り柄は事務能力と魔力総量。

 どちらかといえば小柄で貧弱。物理的には雑魚も雑魚。だからと言って効率的な魔力展開だとか需要の多い魔法を「コレだ」といって覚える器用さは持ち合わせてない。

 できるのは魔力封入と広域破壊魔法だけだ。

 履歴書には魔法制御不可のため定期的に魔力封入が必要と申請した。

 夜間部に移動してからは三日に一度社屋の魔石保管庫で魔力封入勤務する以外は先輩達のための書類作業で、最近は余裕もある。

 その余裕ゆえに気づくのは孤立感だろうか。

 同期の誰かと最後に喋ったのはいつだろう?


「お。どーしたぁ?」


 フィティカ先輩が炭酸飲料の入った瓶を軽い動作で投げてくる。「おまえがいると魔機が使い放題で超便利だわ」とか言いながら。


「お得でしょう。事務能力とこの魔力総量だけは自慢できますよ。私は!」


 とりあえず威張って見せてから息を吐く。


「いやぁ、最近先輩達と上司以外と喋ったのいつだったかなぁと思っちゃって」


 もともと通信機には親と会社と上司のアドレスしかないし、チームを組んでからは必要もないのに先輩達のアドレスはある。


「あー、飲み会誘われたいとか?」

「興味ないですねぇ」


 そう、特に接点が欲しい訳ではなくて、いや、人との接点ではなくここ以外との接点が少なすぎるのがたぶん、不安なのだ。完結して居心地が良過ぎる分喪失のその瞬間に対する不安がある。

 見捨てられたら?

 もっと良い魔力総量と先輩達との相性の良い相手がいたら?

 会社から追い出されはしないだろう。

 魔力には高い価値がつく。

 私ほどの魔力量があぶれていることはたぶん滅多にない。社屋の保全魔力まで補ってる自信はある。会社は私を手放さない。先輩たちは?

 元のメンバーが、帰ってきたら?


「おい、大丈夫か? しょーがねぇな今度遊びにでもいくか?」


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