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プロローグ

俺は学生の頃から努力してきた。誰よりも努力してきたと言える。

サークルに入らず、友達を作らず、必死に勉強して。バイトをして。

金を稼いだら投資。さらには「あげたい人」と「欲しい人」をマッチングさせて仲介料を取る個人事業を請け負い、さらに儲ける。投資と拡大を繰り返し、俺は学生の間に2千万を稼ぐことに成功した。

周りの人間が必死に就職活動をする中、俺は自分の事業に固執し、金を稼ぐことを頑張った。

片手間に大学を卒業した頃には、俺は港区のタワマンに一部屋を買い取り、また運良く譲ってもらった不動産を手に、さらに金を稼ぐために事業を拡大した。

何のためにそこまで金を稼ぐか?決まっている。俺は30億円という目標のために稼いでいるのだ。

いや、30億円稼ぐのもただの手段でしかないな。俺の究極目標は、この世界からの脱出だ。

子供の頃、ゲームや本で見た剣と魔法の世界。俺はその世界に憧れた。俺も、こんな世界で過ごしてみたい。誰もがそう思ったことだろう。

しかし、あくまでフィクションの世界。そんな世界での生活なんて夢のまた夢だ。

と、思っていたのだが。

【30億円であなたも異世界に行ってみませんか?】

胡散臭いと思ったが、これは新たなゲームの発売文句だった。

意識以外の身体そのものも全て異世界へと送り込む新たなゲーム。そのベータ版に、30億円で行けるようだ。

これに行くために、俺は金を稼いでいるのだ。

事業を進め、26歳を周った時、ついに俺の貯金残高は30億円を上回った。

「感激……感激だ……!」

ここまでの俺の生活は、本にできるくらいだろう。投資の仕方、株のやり方、事業の始め方。そんなハウトゥー本でもあと数億は稼げるだろう。

しかし。俺の貪欲な稼ぎはここで終了。さあいくぞ、俺は新たな世界に踏み込むんだ!!


主催のゲーム会社に赴き、担当の部署に行く。

「このゲームに参加したいんですが……」

受付の女性に話しかける。笑顔の対応。よく教育されている。

「はい、異世界転生プログラムですね。それでは、こちらの契約書をよく読んで、参加される場合はサインをお願いします」

契約書には、まずは大きな字でこう書かれていた。

【要注意!このゲームは一方通行です。行ったら戻って来ることはできません】

【このゲームに参加する場合、現実世界での契約者(以下、甲とする)は死亡扱いとなります。この場合、甲の全財産は我が社(以下、乙とする)に譲渡され、甲の親族や遺書に関わりなく乙に譲渡されるものとします】

【ゲーム内では体力を示すヒットポイントと、ヒットポイントを失っても復活することができる残機数が用意されています。残機数がゼロかつヒットポイントがゼロとなった時、甲はゲーム内でも死亡となり、この世から消滅します。ご注意ください。なお、ヒットポイントや残機数がゼロにならない限り永遠に生きることができます】


なるほどな。30億用意しろというのはこういうことか。今まで俺が稼いだ全てと所有物は全部この会社に吸い取られるわけだ。ただ同然で。そして俺はこの世界では死亡する。だが、転生先の異世界で永遠の命を手にすることができる、と。

「面白い、実に面白いぞ!!」

溜まらず、俺は叫んでしまった。受付嬢はびっくりして俺から間合いを取った。すまん、すまん。

「俺の30億、いや、持ってる不動産、経営している事業、全てそなたらに譲ろう!だから、俺を早く異世界転生させるんだ!」

印鑑を契約書に押す。

「ハンコ押すだけでいいのか?俺の全てを譲り受けるなら、俺もそれ相応の説明をするのだが」

事業のこととか、不動産の管理の仕方とか。

「いいえ、それにつきましては担当の者が全て手続きしますので、今すぐにでも転生できますよ」

「行き届いたサービスだな!流石、全財産を譲るだけの価値はある!」

俺は持ってきた通帳を叩きつけた。

「これが30億の入った通帳だ。さあ、転生をさせてくれ!!」

「かしこまりました、それでは、こちらへ」

受付嬢に案内された先は、厳重な扉を13枚進んだ先の部屋、光り輝くドアがそこにあった。

「こちらが異世界への入り口となっております。……最後にお聞きします。行ったら戻れませんが、本当によろしいのですね?」

受付嬢が聞いてくる。そんなもの。

「当たり前だ!!このために稼いできたのだ!!さあ諸君、さらばだ!そして初めまして!異世界!」

俺は意気揚々に光り輝く扉の中に入っていった。

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