7 お姉さまずるい!
ラビナは日本の言葉をよくセイラに教えてもらっています。
ゴトンガタンと馬車のなかで揺れる。
ユートリア公爵家令嬢、ラビナ・ユートリア、私は今連れさられています!!
誰か110番してください!!
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「ほらラビナ、暴れない」
馬車の中、目的地に着きたくない一心で奮闘する私は隣に座っているセーラお姉さまにこずかれた。いや、こずかれたように見えるが、その手には黒いオーラ。セーラお姉さま特有の闇魔法が付与されていて、とっっつても痛く、逃げようと溜めていた魔力が抜けていくのだ。
「ううう……お姉さまひどい……」
「酷くないわ。さっきから何度抜け出そうとしているのよ。しかも魔法の使い方が雑!竜巻起こしたり、雷起こしたり……何度消すのに苦労したか。もう少し小規模で確実な魔法使えないの?」
私の魔法は“鬼姫”時代から受け継いだ“自然を操る”魔法。威力はなかなかなのだが、操るのがかなり難しい。それでも昔は本能の赴くままにぶっぱなしていたけれど、最近は魔法を操るために特訓をしているのだ。きっと良くなっているはず!
ーーちなみに今までの魔法はお姉さまの闇魔法に吸い込まれた。私の魔法結構自信あったんだけどなぁ、あっさりと消されてしまった。解せぬ。
「こ、今度のはちがうもん。確実にこの馬車は止まざるをえないわ!」
フフン、見てなさい。これだけは使いたくなかったけれど……後悔しても遅いわ!いでよ、特訓の成果!
「新しい生命の源よ、我に力を!『発芽開眼』」
ボコッ………ガタ、ガタタ、ガタン………
「止まった………?!」
信じられない、とお姉さまが目を見張る。
そうでしょう、私の究極奥義なんだから!
「ほらね!止まっ『スミマセン、木の芽が車輪に引っ掛かったみたいッス。もう取れたんで大丈夫ッス!』」
………
…………………
……………………………
馬車の中が静寂に包まれた。ガタとただ馬車の揺れる音だけが無機質に響く。
「っ」
ふいに口を押さえてふるふる震えていたセーラお姉さまの息が漏れた。そして間もなくもう耐えきれない、というように声をあげて笑い出した。
「ふふふっ、木の芽………ふふっ」
しばらく待ってもまだお腹を抱えてこれ以上ないくらいに笑っている。
そんなに笑うことないじゃない。少しだけだけど馬車を止められたのに。お姉さまなんか知らない、とちょっとだけ顔を背けてセーラお姉さまを睨む。
「ふふふ…………ご、ごめんなさい、つい」
笑いすぎて涙が出たのか、目元を拭ってからしばらくしてキリ、と顔を整えラビナの方を向いた。――まだ少し口元がが笑っているが。
「ラビナ、王妃教育を勝手に決めたのは悪かったと思ってるわ。でもこれは王国の滅亡――こほん、貴女の悪役令嬢人生にかかっているの」
そう、私はゲームを壊す、とは決めたものの、悪役令嬢になることを諦めることは出来なかった。だって面白そうじゃない!!悪役令嬢!
前世では『悪役』なんてしたらすぐに(ラスボス級魔物の巣に)ポイ捨て、からのー死!みたいな所にいたから余計に憧れが強い。
私が誰よりも強かったら出来たんだけど……にくっき天敵のお兄さまもいたし!
ラスボス級魔物の巣に放り込んだら素手で倒して悠々と帰ってくるような化物もいたし!
そんな人達と比べないでほしい。
と、いうわけで悪役令嬢になりながらも世界を壊すという作戦を立てたわけだが、そこで問題が起きた。
「だって私が王妃教育している間にお姉さまが問題児を矯せ……しつけ…………調教するのはずるいじゃない!」
「指導よ、指導。人聞きの悪いこと言わないで頂戴」
「私も調教したかった――!」
「だから人聞き悪いこと言わないで!それただの変態じゃないの!私がするのは教育的 し ど う !ちゃんと陛下にも王妃様にも了解を取った上で殿下とその友人を指導するのよ」
どうやらセーラお姉さまは私が王妃教育を受けている間に私達に最も関係が深い攻略キャラクター二人の歪んだ性格を直すため、調きょ……指導するらしい。
確かに悪役令嬢にはなりたいし、王妃教育も面白そうだけど。
だからって私をのけ者にしても良いのだろうか?
なんてったって王妃教育は何年もかけてやるのだ。その間ゲームと離れていろってなんの拷問?しかもその間に私の知らないところで色々と進んでるなんて、耐えられない!
とセイラに言ったらお前は何処の現代っ子だ!!と言われそうな言葉を心の中でつらつらと並べていたら、セーラお姉さまが苦笑して言った。
「あら、別に貴女をのけものにするわけじゃないわ」
あれ、私声に出してた?
自分では気をつけていたつもりなのだけど。もうこずかれるのはごめんだ。
そう首をかしげるとお姉さまが更に苦笑する。
顔にかいてあるのよ、とラビナの頬を軽くつねった。
「ふぇいらおふぇいふぁま」
「そんなにすねた顔しないの。貴女には重大なミッションがあるのよ」
「ふぃっふょん?」
つねられたまま聞き返すと、セーラお姉さまは神妙な顔でうなずいた。
「ええ、これに失敗すると、軌道修正不可能な程に難易度が跳ね上がるわ」
目を見開くラビナにセイラは一拍おき、一息で言い切った。
「侯爵令嬢ヒナ・オーリストの信頼を掴み取りなさい」
失敗すればヒナエンド行きよ、というセイラの震えた声は、御者の『着いたッスー!』というお気楽な声に掻き消された。
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