6 告白大会
「でもどうやって壊すの?」
ピンとこない私にセーラお姉さまはうーん、と首を横に傾ける。
「なかなか良い方法が見つからなくて…」
壊すっていっても具体的に言うとなかなか思い付かないなぁ。そう、例えば一番簡単な方法でいうと、関係者全員を――
「皆殺し、とか?」
あ、でもそれじゃつまらないな、うん。止めよう、首をふって自分の考えを否定すると、
「ん?」
「ん?」
セーラお姉様が首をかしげる。私もつられて首をかしげた。私なにか変なこと言ったかな?
「ラビナ、それ、何処で覚えたの?」
「え、だって邪魔なものは排除するって基本中の基本でしょう」
前世ではいつもそんな感じだった。生まれたときからDEATHMATCHが当たり前だったから、この世界に違和感を覚える。そういえば何でこんなにのほほんとしているんだろう?いつ襲撃されるかわからないのに。
「ど こ で 覚えたの?」
「ふぇ?!えと、だって物心ついたときには……皆、戦ってたし………」
セーラお姉さまが笑顔で聞いてくる。笑顔なのにすごく怖い。というかお姉さまの笑顔はいつも怖い。迫力がすごいのだ!――わかった、わかったから凄まないで!お姉さま時々洞窟にいるラスボス級魔物レベルの恐怖を生み出すんだから!慌てて返事をするラビナにいぶかしむように言葉を反復した。
「物心ついたとき? 皆?」
そういえば最近、おかしいような…と呟き、仕草、足音、行動原理……とぶつぶつ何かを繰り返す。
やがて確信をもったのか真っ直ぐにラビナを見据え、
「なにか隠していることがあるわね」
と目を光らせた。もちろんそれは質問ではなく確認。
返事を待たずお姉さまは微笑んだ。
「あのね、ラビナ。貴女はまだ知らないかもしれないけれど、この国には破ってはいけない決まりがあるの」
「きまり?」
「そう、それは貴族として、いいえ人として守らなければならないの。その名は『告白大会』。」
「こくはくたいかい」
「人が大切なことを告白をしたときは、仕返さなければいけないの。目には目を、告白には告白を、よ」
十倍返しよ!!と拳を握ったセーラお姉さまを見て、何かが違うような…と思ったがお姉さまの目を見て思い直した。私をみる目がとても真剣だったから。そうやって教えてくれているんだから、その誠意に応えないと。――断じて昔には無かった文化が面白そうとか、告白大会ってセーラお姉さまが昔、話してくれた『修学旅行』みたいとか、そんなこと決して思っていない!
―――ちなみに『告白大会』なんてものは存在しない。そんなもの、騙し騙されの貴族の世界なんかで通用するわけがないではないか。そう、これは嘘なのだ。情報を仕入れ、出来立てほやほやの破滅フラグを折るための嘘で、ラビナの好奇心をくすぐる罪深き嘘なのである!それを知らずにラビナは数年後、やらかしてしまうわけなのだがそれはまた、別の話。
「む…じゃあお姉さまが話してくれたから、次は私ね!」
告白大会!と嬉しそうに笑うラビナの顔ったらない。
そんなラビナに絆される――どころかフラグ回避絶対!と意気込むのと、これから何を話してくれるのかしら?という小悪魔な笑みを同時に浮かべるという器用な技を使うセイラは、ゲームの設定には無かったラビナの秘密に楽しそうに耳を傾ける。
それがまた新たな破滅フラグを立てることとは思いもよらず。
「実はね――」
まるでおとぎ話を語るように嬉しそうに話すラビナに、セイラは微笑み、話を聞くにつれてどんどんと眉を中央に寄せていった。
前世、というのはまだ良い、というかこんなにあっさりとセイラの話を信じて見せたのだ。何故、と不思議に思っていたが、ラビナにもそういう記憶があったのなら納得がいく。
前世は高い身分だったのだろう、とも予想していた。ここ最近、というか寝込んだ日以来今までのお転婆で未熟なラビナの仕草が一変したのだ。言動や行動こそ年相応に活発だが、一つ一つの動きはとても洗練されていて、それはそんじょそこらのご令嬢と比べても美しい、どころか王妃様と比べても遜色ないのだ。その体…否、魂に刻まれたマナーは前世のラビナの育ちのよさを表していた。
だが、鬼というのは、全く考えもつかなかったことだ。ぼんやりと強そうな雰囲気は伝わってくるのだが、それだけ。この世界には“獣人”というのがいるが、その中に含まれるのだろうか。
――そういえばこの国の童話にそんなのあったっけ。確か、他の部族を蹂躙し栄えた希代の悪族。そこにお姫様も出てきたけど…見事に悪役令嬢だったわね。心優しい鬼王の息子が、戦争に負けて奴隷となった少女を助けだし革命を起こす物語。そこに悪に染まった妹姫を倒すシーンもあったはず。それね、たぶん。
その物語は王国全土に広まっていて、この国に絶大な被害をもたらしてから東の地に建国したので、No more 鬼!!感が漂っているのだが、そこはアニメ良し、漫画良し、小説良し!の日本に生まれたセイラである。鬼なんか定番、むしろ今さら。どんなに珍しくても“だって異世界だし”の一言で片付けてしまう。
まあそんな種族はどうでもいいのだ。
問題はそれによって植えつけられた思考である。
――どうにかして価値観を覚えさせないと、ここら一帯が皆殺しにされる!!
ゲームを無視した直球の破滅フラグにセイラは旋律した。
まさかこんな形で破滅フラグ……と頭を掲げ、早くゲームの対策しなきゃいけないのに、と唸る。そんなセイラを哀れに思った神は天啓をもたらした!
――同時に対処すれば良いんじゃないかしら?
まさかの考えにいやそれは、と没にしようとし、あれでもこれ良いのでは?と検討する。
この間、約一秒。
素早くラビナの方を向き、反論させないほどの威圧をだして告げる。
「ラビナ、王妃教育に行ってきなさい」
ラスボス級魔物の威圧をくらったラビナは、うんともすん言えずただ硬直した。
それをセイラが肯定の意と取ったのは言うまでもない。
―――ちなみにその王妃教育、歴代でも最高に厳しいものとなる。神が与えた天啓は(ラビナにとって)実に無慈悲なのものであった。
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