3 秘密の部屋
そうと決まったら早速行動しよう。
さっきからいろんなものを見てみたくてうずうずしているのだ。
なのに!私は今部屋から出ていってはいけないことになっている。――――倒れて熱だした後に2日間も部屋にこもったのだから当たり前、というか心配してくれているのだけれど。そんなこといっても好奇心は抑えられない、抑えたくない!
というわけで監視役のメイド、リーシャには少し席をはずしてもらおう。
「ねぇ、リーシャ。私お腹すいちゃった! 何か美味しいもの食べたいなぁ」
五歳児らしく無邪気に、上目使いで、くいとリーシャのメイド服の裾を軽く引く。
そんな私にリーシャは目を細めてああ、ようやく体調が戻られたんですね……………と何故か若干涙ぐんで出ていった。
リーシャはたまに―――いや、頻繁に泣く。
特に感動したときや安心したときは涙腺が緩くなる。
逆に本当に大変なときや辛いときは笑って誤魔化すので、感情が分かりやすいようで分かりにくい子なのだ。
でも少し不器用なだけだから、いつか理解者が現れることだろう。好きな人が出来たら全力で応援してあげたい。
とまあそんなこんなで見張りを追い出すことに成功した。ふふ、ではいざ!
ガチャリーーーダッーー
「ぶふぇ?!」
ドアを開けて飛び出したら、勢い余って何かにぶつかった。あまりにも勢いよくぶつかったので鼻がとても痛い。
真っ赤になった鼻を押さえて斜め上を見上げ、黒いオーラが見えて慌てて目を反らす。
「あらラビナ、今日は絶対安静って言ったわよね?」
「せ、せーらお姉さま………」
ニコッと黒髪の少女、セーラお姉さまが微笑む。紛れもなく笑顔を浮かべているのに冷や汗が止まらないのは何故だろう。
「ラビナ」
「ひゃいっ」
「次はないわ」
抱き上げられ、部屋のベッドに連れてかれた。
その時丁度リーシャがパタパタと音をさせてもどってきた。
「ラビナ様、いきなり重いものだと胃が凭れるのでサンドイッチを用意して貰いました………………。……あれ? セイラ様、どうなさったのです………………?」
「リーシャ、この子から目を離さないで頂戴。何か食べたいって言っても、本が読みたいって言っても無視しなさい。あと一週間ほっておいたとしてもこの子ならピンピンしているわ。」
「…………?? わかりました……………」
失礼な。私はどこにでもいるフツーの女の子なのに。
一週間なんか耐えきれるはずないじゃないの!!今も現にお腹すいてるし。ああ、サンドイッチ美味しそうだなぁ…。
――――いや、普通の女の子は2.3日飲まず食わずで“お腹すいた”で済ませられるわけがない。心臓は動いていてもほとんど放心状態、もしくは飲食のことしか考えられない筈なのだ。なのにこうやってピンピンしているあたり、やはり一週間は余裕かもしれない――――
▫▪▫▪▫▪▫▪
皆寝静まった夜。私は屋敷の片隅にある書庫に来ていた。
何故書庫なのかというと、面白そうな匂いがしたからである。
書庫といっても貴重な書物がしまわれている訳でもなく、人の出入りも滅多にないため、存在を忘れられている。私もつい先日たまたま見つけて驚いた。すぐにリーシャに、ラビナ様にはまだ早いです…………………と言って追い出されたが。
そしてその部屋は何故か異常に壁が分厚い。
分厚いというか最早壁のが面積が大きいのではないかと思う。ほとんどの人は気づいていないだろうけど。
前世の記憶が戻る前の私は、何故そんな構造になっているのかわからなくて不思議に思っていたけれど、今ならわかる。
あの部屋には隠し扉があるのだ。それが秘密の部屋に繋がっているのか、緊急脱出用の隠し通路なのかは定かではないけれど。
そんな面白そうなとこ、確認しないわけにはいかないじゃない?
とはいえセーラお姉さまに『次はない』と言われたので、夜こっそりと、である。
見つかるかも、という恐怖とこの先に何があるんだろう、という好奇心が混ざりあって心臓の音がうるさい。部屋中に響き渡ってるのではないかというほど大きな音をたて始めたとき、不意に本棚を探っていた手が沈んだ。
ガコ、と音が聞こえて、ビクと肩を震わせ、声にならない悲鳴をあげた。
暫く音をたてていた本棚はやがて静まり返り出てきたのは上に続く階段だった。
こくり、と喉を鳴らす。
ここで行かない、という選択肢はない。
とんとんとん、と暫く登っていった私は、ある光景に目を見開いた。
月が綺麗に見える天窓。草を編み込んでできたと思われる絨毯のような、四角く分厚い板。古風の陶器の上に掛けてある紙の、黒い濁った色彩で書かれている縦書きの文字。
まるで違う世界のようなその光景の中にいるのは―――――
「セーラお姉さま…………?」
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