2 決意
「きゃぁぁぁぁあああああ」
首、首、首がっっっ!!!首が抉られていくような生々しく気持ち悪い感覚に襲われながらも、必死に首に手を伸ばす。それが嘘だと喚くように、ペチペチと何度も何度も小さい手で叩いた。
ううう………ペチペチ………ペチペチペチ………ん?ペチペチペチペチ………あれ?ついてる……?
でも私は確かに………。
あれが夢だと思うには、あまりにもおぞましく鮮烈すぎた。恐怖に握った手から滲み出た血、逸る鼓動、裏切られた絶望、兄の生きているとは思えないほど冷酷な瞳ーー何より首の落ちた感覚が、あまりにも現実的で。今でも残酷なほどに残っていて。震えが止まらない。
でもだって、あのお兄様がそんなこと…………と考え違和感が過る。
気づかない、気づきたくないと無意識下で蓋をしていた現実に、少女は気づいてしまった。
怖くて、でも確かめずにはいられなくて、首を抑えていた、手をゆっくりと目の前に持ってくる。そんなことないと否定したくて、あれは現実だなんて認めたくなくて、少女は自分の手の平を見つめた。
そこにあるのは少女、というより幼児、といった方がしっくりくる小さな手。グーパーと握って開き握って開きと違和感ないことを確かめ、こてん、と首をかしげる。そして青かった顔色をみるみるうちに白に染めていき――
「ぎゃぁぁぁぁあああああ」
本日二度目の叫びをあげた。
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端的に言おう。私は生まれ変わったらしい。
前世、といえばいいのか、今の生を受ける前の私は鬼の姫だった。私の才能に嫉妬やらなんやらした兄がクーデターを起こしてして私の首をちょんぎったらしい。
ちなみに今は麗しの公爵令嬢(五歳)である!
兄を心の底から信頼していた私は見事に裏切られたのだが、そこは問題ではない。
「お嬢様、ようやく落ち着いてくださったのですね………。二日間何も食べずに泣き続けてしまわれたときは本当にどうしようかと………」
メイドが声を震えさせてほっと息をついた。
こほん、問題ないのだ!決してお兄様に裏切られて悲しいやら怖いやらで引きこもっていたわけでも、今世の体を見てあの夢は本当だったと実感して大泣きしたわけでもないのだから!
閑話休題。
私は前世、鬼族の姫だった。今は滅んでしまったようだが、当時は最も危険な凶悪種族だった。
では、弱肉強食な鬼達がその頂点の一員足る姫に求められるのは何だったのか?
それは強さだ。それもただ単純に力が強いのではなく、魔力、対人(鬼)能力、指導力、頭脳戦、どれをとっても『強い』でなければ姫として認められることはない。
認められなけれ即行ラスボス級の魔物の巣窟に連れてかれ、生け贄にされる。
死にたくなければ学び、鍛え、ものにするしかない。
必死の攻防の末私は何とか姫と認められるだけの力は手に入れられたが、その代償として私は大きなものを失った。
それは好奇心である!前世押さえつけて押さえつけて押さえつけまくったそれは、今世、どっと溢れ出してきた。
もうこれは何にも勝る欲求で、好奇心を満たす為だったら死んでも構わない、と思うほどなのだ。
つまり、今私は『面白い』に飢えている。
そしてここは幸い自由なところだ。となればやることは一つしかない。
私、ラビナ・ユートリアは、今世、『面白い』のために生きます!!!
ブックマーク有り難うございます!思わず何度も見返して拝んでしまいました。
更新速度が遅くて申し訳ございません。不定期ですが、これからもお付き合いしてくださると嬉しいです。