14 先輩メイドの特技
リーシャ視点です。
ラビナを無事エリリア王妃の所に届け、同僚に引き継ぎを頼んできたが、いざ鍛練、となると何をしていいかわからない。
そもそもメイドにはどんな能力が必要なのだろうか、と首を捻ってると使用人用の食堂に出た。
取り敢えず、朝食を取ろうと思い、そこの料理人に頼むと後ろからポン、と背中を叩かれる。
「あれ、リーシャ。こんな時間に珍しいね?」
「ルナシーさん………」
ルナシーは紫色の短髪に白花の髪止めを付けた、影で姐さんと呼ばれているメイド仲間だ。
まだ来たばかりのリーシャの世話を焼き、色々と教えてくれるいい先輩である。
リーシャはいつも早めにきてサッと食べて仕事に向かうので、この時間にいるのは確かに珍しい。
朝食のスープとパンを運びながら事情を大まかに説明し、ルナシーさんは何がメイドに必要だと思いますか、と聞くと、ルナシーは眉を寄せて答えた。
「うーん、まず前提条件として、リーシャが“何のために”技を身に付けたいかにもよるよねぇ。例えばお給金のためだったら、分かりやすい功績を残せるものがいいし、保身のためだったら護身術かな? いずれ王宮で働いて見たいって言うなら…」
「私は…………ラビナ様のために鍛えたいです…………」
幾つか例を挙げるルナシーに被せるようにリーシャは答えた。
すると、ルナシーの赤みがかった夕焼け色の目が何度も瞬く。
――ところでメイドは保身のために護身術を会得する必要があるのだろうか。
挙げられた例に突っ込みたい気持ちを抑えてリーシャは次の言葉を待った。
ルナシーは険しい目となり、咎めるように言う。
「“ラビナ様”っていうのは今王妃教育を受けている白髪の、ユートリア公爵家のお嬢様だね?」
「は、はい………」
「リーシャの気持ちは分かったけど…“誰かのために”っていうのはそんなに簡単ではないよ? 覚悟も決まっていないのに言っていい言葉じゃない。それはただの自己満足でしかないから。」
リーシャの眉が少し中央に寄った。
「…………なら」
「それこそ命を懸けてでも守る、ってくらいの気持ちでないと。ただ言うだけでは、自分も相手も裏切ったことになる。」
まるで自分に言い聞かせているような、おやつを食べ過ぎたらご飯食べられなくなるでしょ、と母親が怒るような声色で諭す。
それは何処か説得力があり、有無を言わせない迫力があった。
事実その通りなのだろう。
私のような若造が言っていい台詞ではないのかもしれない。
それでも私は。
「……覚悟なら、あります…………!」
それは余りにも実直で、静かで、覚悟の籠った瞳だった。
ルナシーはその瞳の色に息をのみ、短く鋤いてある紫色の髪が小さく揺れる。
そう、ならいいけど。と呟くように言い、一瞬視線をさまよわせたが、顔をあげたときにはもういつものふてぶてしさを取り戻し、試すように笑った。
「主に心から仕える場合、一番大事なのは『忠義』と『覚悟』だけど、大丈夫みたいだね?」
リーシャが大きくうなずく。
ルナシーは楽しそうに、どこか羨ましそうに笑って続けた。
「なら大丈夫。ずっと答えを求め続けていたら、自ずと道は見えてくるから」
だから私が教えることはできない、とルナシーは言う。そしてショボンと頷くリーシャに苦笑し、その代わり…と続けた。
「見聞を広めるんだ。メイドにしか出来ないことなんか山ほどある。その第一歩として、私の特技を見せて上げるよ」
「特技?」
「うん、今の仕事の前に2つ違う職業をしていたんだけどね、そこで鍛えた」
そこで一度言葉を区切った。
「私が得意なのは、『情報操作』。その名の通り、情報を操作することに長けている。例えば…そうだねぇ、今日ユートリア嬢は何をしている?」
「えっと、……………今日は軍事演しゅ……護身術を習うと…………」
「ふーん、ユートリア嬢は腕は立つのかい?」
「…………騎士用に作られた両手剣で鋭い素振りをするくらいには…………。あっ、この前うちで一番強い護衛さんと戦って圧勝してました」
「うわっ、まだ5歳だよね? 公爵の守り鬼、ケーツ元将軍を? 末恐ろしい…まあいいや」
「………何を…………?」
「情報操作のお手本。その情報を拡散させるんだ。午前中までに王宮全体にユートリア嬢の武勲を称え、崇めるようにさせてみせるよ。――まぁ、あの“ユートリア公爵家”だから『流石ユートリア公爵家!』だけで終わってしまうかもしれないけど」
「へ?」
「まずはお喋り好きの料理長、次に余り目立たない侍女、そして素直な軍人に、軽い門番かな」
「さあ! 行くよ!」
ブックマークありがとうございます。
久しぶりのブックマーク、嬉しくて嬉しくて思わずガッツポーズしてしまいました。図書館にだったけれど…変人と思われていないことを願います(笑)
これからも宜しくお願いいたします。