第1話 一ノ瀬 護
俺には、昔兄ちゃんがいた。血は繋がってなかったけど、優しくて、不器用な兄ちゃん。でも、人を護るって事にはすごく貪欲だった。常に自分を犠牲にしてでも護りたいという。強い心の持ち主だったんだ。
キール兄ちゃんは俺が8歳の時に、
最強と称される亜人、龍人と戦い、俺たち9thチルドレンを護って死んだ。
「良い戦いだった…。さらばだ。」
満足した表情で去っていく竜人。
『うっせえよ!もう2度とくんな!』
身体に穴を開け、ニッコリと笑い、仰向けに倒れる兄ちゃん。
『よぉ!護。お別れだな。どうだった?兄ちゃんはカッコよかっただろ?』
一匹で国をも滅ぼすと言われる龍人。その龍人を相手に、キール兄ちゃんは互角の戦いを繰り広げ、なんとか退けることに成功した。
しかし、その代償は大きかった。
彼のアルマには一切傷が付かなかったが、龍人の腕に、彼の腹部は貫かれてしまっていた。地面に仰向けに突っ伏して、にこやかに彼は言う。
『ごめんなさい!ごめんなさい!!俺があんなこと言ったから!お願い!死なないで!』
『お前のせいじゃねぇよ。俺は、先の希望を…、いやお前たちを護りたくなっただけだ。自分の芯を通したかっただけなんだよ。』
『キール兄ちゃん?どうやったら俺のアルマも兄ちゃんみたいなカッコいい心になるのかな?』
幼い頃の俺は、自らのアルマを右手に握りしめ、キール兄ちゃんに言った。
3rdチルドレンのキール兄ちゃんは、無骨だ、荒々しいと揶揄されていた自分の心を褒められたのが嬉しかったのかニッと笑うと俺の頭をくしゃくしゃに撫でた。
『ありがとよ。俺の歪なアルマを褒めてくれたのはお前で2人目だ。』
そういうと、キール兄ちゃんはゴホッと血を吐いた。腹部からはとめどなく血液が流れ出し、どうみても致命傷だというのは幼い俺でも一目でわかるほどだった。
『兄ちゃん!死なないで!』
『ははっ。無理言うなよ。どうみても致命傷だろこれ。』
兄ちゃんは力なく笑った。
『…最後にこれだけは聞いてくれ。いいか?護。俺たちのアルマは自分自身の現し身だ。強くなろうと思うなら、自分の中にこれだけは譲れないつっう一本の芯を持て。それが、お前のアルマの形になる。体の中にでっけぇ曲がらない芯があるやつは強くなるからさ…。お前のふにゃチ○丸も、何か意味があってその形なんだろ?』
『キール兄ちゃんのバカっ!ふにゃチ○丸って言うな!!』
『ははっ!わりぃ、わりぃ。
…あ。そう言えば、ノロに返事出来なかったなぁ…。
今となっちゃあ、それだけが心残りだ。
すまなかった、…ノロ。先に逝く俺を、どうか許して…くれ…。』
最後にそう言ってキール兄ちゃんは死んだ。
________あの時。俺は決めたんだ!キール兄ちゃんが死んだあの日に。
◆
幼い頃から俺は、全ての人を護りたいと言う目標を掲げ、毎日訓練をしていた。
だから、俺のアルマも、人を守る為に適した、カッコイイ武器になると思っていたんだ。
そして、6歳になった時。運命の日が訪れる。俺たちのアルマは同じタイミングで孵化した。
卵の様な形だったアルマが光り、変形を始める。
あるものの心は真っ直ぐな槍に。また、あるものの心は強靭な盾に。
持つものの意思によってそのアルマは形を変えていく。
皆がそれぞれのアルマに納得や、疑問を抱いている中。俺はひたすら首を傾げていた。
他のチルドレン達のアルマは、小さいながらも武器の形をしているのに、どう言うわけか俺のアルマだけふにゃふにゃの棒にしか見えないのだ。
どうみても武器の形状ではない。俺は不安になって、ふにゃふにゃのアルマで自分の手をパシンと叩いてみた。しかし、全く痛くない。まるで棒状のコンニャクで殴った様な不快な感覚だけが残った。とても武器としては使用できそうにない。
自分で考えても答えが出なくて、近くにいた幼馴染の女の子に聞いてみる事にした。
「ね、ねぇ。コロちゃん?俺のアルマ、どう思う?」
ふにゃふにゃの棒を両手に持って、幼い女の子に問う俺。今思い出してみると、セリフも相まってなかなか危ない絵面だったに違いない。
そう。残念な事に深夜の公園で下半身を他人に見せつけ、悦に浸る露出狂に酷似しているのである。まぁ、もちろん俺にはそんな気持ちなかったが。
当時の俺純粋な俺は、とにかく不安だったのだろう。そん事は考える余地もなかった。
そして、女の子が、不思議そうな顔で自らの槍の形状をしたアルマを手に近づいてくる。
見計らった様に、急激に硬化し、そそり勃つ俺のアルマ。
その様子に、俺も女の子もビクッ反応した。
「うわっ!」
女の子は少し後ずさった。
すると、アルマはふにゃふにゃに戻った。
「なにそれ!?」
再び近づいてくる女の子。
ビンビンに硬化する俺のアルマ。
反応が面白かったのか爆笑する女の子。
「ねえ!皆んな見てみて!護のアルマ面白いよ!!」
そう言って彼女は周りのチルドレン達を集めてしまった。
そして近づいては離れてを繰り返す。
彼女が近づく度にビンビンにそそり勃つ俺のアルマ。
その場は爆笑の渦に渦に飲み込まれた。箸が転んでも面白いと言う年齢だったが、当時の俺はその時凄く惨めな気持ちになった。
自分のアルマが笑われるのはすごく不快だった。
そんな時、誰かが言った言葉が、俺のアルマの印象を決めてしまったのだ。
『護くんの心って。まるでチン○ンみたいだね!』
それから俺の心は不名誉なあだ名で呼ばれている。
「おはよう。護。名刀ビンビン丸の調子はどうだい?」
「お前のエクスカリ棒ってビンビンになるとやたら硬いんだよな…。なんでだ?」
「今日もそそり勃ってんなー。ふにゃ○ん丸。」
違うんだ。俺のアルマはチ○コなんかじゃないんだよ…。
そんなこんなで俺の毎日は過ぎて行った。