一章の⑦ 選定条件
やはり、普通じゃない学校の入学式は普通ではなかった。
入学者の再選定とクラス編成を行う試練がなんの予告も無く行われるのだった。
誼人が悲しい現実を再確認した所で、入学式が始まるような慌ただしい雰囲気がステージ周辺に漂う。
(なるほど、あの女子が来た時はもう時間ギリギリだったのか。考え事ばかりしているのも考え物だな。時間の感覚がわからない)
誼人は今の今まで嫌いではなかった自身のクセを呪った。
時間ギリギリならば席がほとんど埋まっていて、最前列のマヌケ面をした男に話しかけるのもうなずける。
今自分の隣にいる女子は、数少ない空席を見つけ、ただそこに座っただけなのだった。
ステージ前を見ると教員と思われる何人かが受付席のようなモノをつくり陣取っていた、入学式のステージ前にはどう考えてもおかしい配置だった。
「これより、第三十回ヘルメス学園入学式を始めます」
教頭と思わしき初老の男性がステージの袖に設置してあるマイクを通してアナウンスした。
パンフレットに記載されている開始時間、十一時三十分きっかりではあったが、ノーモーションで式が始まった、他の生徒も面食らったのか、私語のボリュームが急激に落ちる。
静寂の中で誼人は思ったより歴史ある学校だ、という論点の外れた感想を持っていた。
開始の挨拶から一呼吸おいて、檀上に袴を着た仙人のような外見の人物がよろよろと上がっていった、身なりが綺麗でなければ浮浪者か世捨て人か何かと間違えてしまいそうだった。
その人物が通った時、教頭が会釈をしていたので、おそらく校長か理事長か、どちらにしても、ここでのお偉いさんなのだろうと推測した。
「えー。皆さん入学おめでとうございます。入学と言っても、みなさん受験の際や、パンフレット等で聞いている通り、まだ決まっていないのですけども」
「あ、私は校長の億村兆といいます。億は数字の単位です、きざし、も兆と書きます」
「えー。この学校は皆さんご存知の通り、かなり特殊な教育制度をとっていますね、学校内で企業活動ができる所なんか、ここしかないと思いますよ。えー。最初は驚く事が多々あると思いますが、まぁどうにか がんばってください」
「えー。くわしい説明はこの後教頭から聞いてください。以上」
一息で挨拶を済ませ早々と檀上から降りてしまった。