一章の⑥ 選定条件
やはり、普通じゃない学校の入学式は普通ではなかった。
入学者の再選定とクラス編成を行う試練がなんの予告も無く行われるのだった。
(中学の時にはこんな感じの女子はいなかったなぁ……)とまじまじと見ていると、栗毛ボブがふわりと動いた。
彼女が誼人の視線に気が付きこちらを向いたのだった。
目が合ってしまった。いつのまにか視線をバッチリと向けてしまっていたらしい。
瞳の大きい目をした彼女は、不思議そうに軽く会釈のような動作をして視線を誼人から外し、ステージのある前方に向けた。
いつから視線をバッチリ向けてしまっていたのだろうか? 制服を見ている段階でもう向けてしまっていたのだろうか。そうだった場合、顔を見ている段階で目を向けられたのは、まだマシだったなと誼人は感じていた。
誼人は女性に興味は人並みくらいにはあるが、それに気付かれたり、表に出すのは好まなかった。それは硬派でもなんでもなく、臆病なだけなのであった。
この時誼人は率直にいって、うかれていた。
電車の中で、女性に隣に座られた際に「社会的に認められた!」という充足感を味わう誼人は、この状況でこの女子が自分の隣を選んでくれた事がとても嬉しかったのだ。
内心はお祭り騒ぎだった。ただ、感情が表情に出るタイプではないので、外部からは表情からは何もわからなかった。
(だって、前の方なんて空席だらけだし、後方は満席近いとはいえ、中半くらいはまだまだ空席があったもんな! これは俺の隣になりたかったって事だ!! これは俺の高校生活は毎日がエブリディになりそうだ!!!)
と稚拙な自分の英語力に気付かないほどに高いテンションのまま、他の女子の制服姿も見ようと後ろを振り返った。
目に飛び込んできたのは、いつのまにか後ろの方まで人がみっちりと詰まった会場だった。
誼人は自分がいつまでたっても童貞である理由がなんとなくわかった気がした。