一章の⑤ 選定条件
やはり、普通じゃない学校の入学式は普通ではなかった。
入学者の再選定とクラス編成を行う試練がなんの予告も無く行われるのだった。
どうやら話しかけられたらしい。
なんとも気の抜けた声のした方を見ると、大きな瞳が二つ。
妄想の世界から目覚めさせたその少女は、茶色い猫のような目で誼人を覗き込んでいた。
(ああ、この学校の女子の制服ってこんな感じなのか。結構イイな。この女子もそれなりにはまぁ可愛いらしい感じだし)
緊急事態にも関わらずコンマ一秒以下で誼人の脳内に感想が湧いて出る。
しかし、初対面の人間にこんな素直な感想をぶつけるわけにもいかないので、その小動物系女子を「どうぞ」と隣に招き入れる。
(端から見た時、カップルに見えるといいなぁ)
と、そんな思っていた。
夢想世界に結構な頻度で飛び込む誼人は、それが虚構でしか無くても、ある程度の満足感を得る事ができるように退化していた。
改めて隣に座っている少女を、もとい制服を見る。
誼人は焦点を合わせなくても、目標とするモノを見る能力が、いつのまにかそなわっていた。
だから、隣の女子に気取られずに観察する事は容易だった。
この学校の制服はブレザーだ。
上着は薄いグレーで、胸にはワンポイントで校章が入っている。
中のワイシャツはいたって普通の白ワイシャツ、それが普通なだけにややオーバーサイズの真紅の紐ネクタイが目立っていた。スカートはジャケットより遥かに暗いダークグレーで、チェック柄が入っていた。
ここまで観察すると、身体のラインがわかりづらいブレザーとはいえ、隣の女子が標準の日本人体型である事がわかった。
靴下に関しては特に指定は無いようだった。それはこの女子が履いているオーバーニーソックスから推測できる。学校がニーソックスを指定するわけが無い。
この隣の女、服装などには無頓着なような雰囲気だが、なかなか絶妙なチョイスをしてくる。
目線は頭部に向かっていく。肩にかかる程度の内側にふわりとハネた栗毛のボブショートはとても似合っていた。
この人物が朝の貴重な時間をかけてセットしている姿は想像しにくかった。おそらく天然の内ハネなのだと誼人は想定した。